作品解説

~あらすじ~

貧困と人種差別に苦しむニューヨークで育ったアレン・ネルソンは、未来を切り開く唯一の道として18歳で海兵隊へ入隊する。
沖縄・キャンプ・ハンセンでの訓練を経て、1966年、ベトナム戦争の最前線へ送られた彼は、極限の戦場で命を奪うことを繰り返し、次第に人間らしい感情を失っていく。
23歳で帰国したアレンを待っていたのは、平穏ではなく戦争の記憶に支配される日常だった。
PTSDに苦しみ、家族との絆も失い、ホームレスへと転落した彼は絶望の淵に立たされる。そんな彼に手を差し伸べたのは、退役軍人病院の精神科医ダニエルズ。
心の傷と向き合う長い再生の旅が、静かに始まる。
感想レビュー/考察

「戦争について勇み語る人がいれば、その人は戦争に行ったことがない。」
誰かの、そんな言葉があった気がします。
戦争の経験者のうち、それを語るのは被害者が多いかもしれません。空襲や疎開、当時の経験を語る人がいます。
ただ、実際に戦地に赴き任務にあたった人たちは、閉口していることがあります。
もしかすると、皆さんの親類でも戦争に行った方がいるかもしれません。そしてあまり戦争、戦場でのことは話さなかったかも。
私は親戚で第二次世界大戦で出兵していた方がいました。私の生まれるよりずっと前に亡くなっていますが、親類は、口数が少なく、帰還後に戦地でのことは一切しゃべらなかったと聞いています。
よく学校の課題で戦争体験を聞くような物があったらしく、それでも当時のことは日本に残っていた妻や他の家族に聞くように言い、自身の経験は話してはくれなかったようです。

戦争を語ることは、自分の加害性を語ることでもある
さて、兵士が戦争について語ること、それを舞台にしたのが今作。
とりわけ重要なのは、アレン・ネルソンさんが加害者であったことでしょう。
戦争が加害者と被害者を同時につくる。その中で、加害の歴史をも語るという困難で苦しい決断をしたネルソンさんのドラマ。
昨今様々戦争の映画は見ましたし、PTSDを扱う作品も観てきましたが、とりわけ惨たらしく胸を抉られるような作品でした。
剥き出しの暴力と、人がどこまで残酷になれるのか、いや、人間を捨て去ることがあるのかを描きます。
その中でなんとか人に戻ろうとすること、そのために認めざるを得ない現実と事実に向き合った男の魂の旅でした。

「あなたは人を殺しましたか?」という問い
物語はネルソンさんがアメリカに帰国し、地元の小学校でベトナム戦争についての話を依頼されるところから始まります。
子ども相手にやさしい内容だけを話す彼は、内心戦争のフラッシュバックに苦しみます。
そこで、一人の少女からの「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」という質問に、ショック状態になってしまいます。
戦争体験を語る時、子ども相手ならなおさらですが、ことさらに全てを話せない。
これは酷いからということもありますが、私はむしろ今作は加害者であることの露呈に恐怖しているからだと描いていると思います。
戦地での任務のことを話せば、人を殺めてきたことも出てきます。そして戦争の中で加害者にならざるを得なかった人は、加害性を押し付けられた被害者になる。
けれど、そのことを話すこともできないのです。
話せば認めたことになる。自分自身の加害性を。
並行してしまうのは戦地での記憶を思い出したくないことと、同時に自分の罪を見てしまうからなんですね。

人間性を奪っていく戦場の残酷さ
今作はそこで生易しいことを含みません。沖縄での描写からハードな表現を叩きこみ、そしてベトナムに行ってからはまさに鬼畜の所業。
結構見ててしんどくなるような戦争、戦場での描写は久々でした。ここではネルソンさんが人間として破壊されていき、もはや獣のようになっていくプロセスが描かれます。
洗浄とは人間性を奪い去ってしまうものなのです。
だから、そこから戻ってもそれだけでは元の生活は遅れない。人間に戻ることはできない。
映画のスタイルとして、ネルソンさんを被害者ではなくしっかりと加害者である面も描いたのは素晴らしいと思います。いい意味で事実を並べていることに終始していて、イデオロギーを押し付けていないように見えました。
「命令されたから」では済まされない戦争の罪
ネルソンさんが自分自身と向き合うために、最後は人を殺したことの理由を話す。
「それが戦争だから。」「上官の命令だから。」「殺さなければ殺されるから。」
その答えに絶えずダニエルズ医師は「なぜ人を殺したのか?」と同じ問いを繰り返す。
最終的に行きつくのは、行為はその者の意志によって成るということ。ここがすごく重要です。
最後にその引き金を引いたり、刺したりする、その行為は自分の意志でやるのです。殺したいと思うから殺す。
このへんはクリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」の中で朝鮮戦争での記憶を吐露するセリフを思い出しました。
「最も恐ろしいのは、命令されたからではなく自分の意志でそれら(戦地での残虐な行為)をしたことだ。」

事実を話す
戦争は誰かが始める。戦地に行くことのないような誰かが。
そして行く先で、自らの手を血で濡らし人間性を壊され人を殺すことになる。殺してやるという感情と行為を完成させることになる。その恐ろしさ。
事実を伝えることはネルソンさんにとっても苦しいことですが、彼は口を開き真実を話した。終幕ではついにベトナムに訪問し、表面上の平和的な交流の場に出る。
しかしネルソンさんは自身が話すべきことを話すんですね。戦争というものを経験したとおりに。
戦争体験は記録になり、エンタメに、ゲームに、消費物になっていく。そんな中で、この作品がネルソンさんの言葉の具現化となって観客に語り掛けてくれる。
今まさに必要な、映画というメディアができる最大限の戦争批判として大変すばらし作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。


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