「バスターのバラード」(2018)
作品概要
- 監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
- 脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
- 製作:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、ミーガン・エリソン、スー・ネーグル、ロバート・グラフ
- 音楽:カーター・バーウェル
- 撮影:ブリュノ・デルボネル
- 編集:ロデリック・ジェインズ
- 出演:ティム・ブレイク・ネルソン、ジェームズ・フランコ、リーアム・ニーソン、ハリー・メリング、トム・ウェイツ、ゾーイ・カザン、ブレンダン・グリーソン 他
「ノーカントリー」などのコーエン兄弟が、西部劇を舞台に複数の物語を連ねて送るオムニバス形式の映画。
ティム・ブレイク・ネルソンが最初のストーリーのガンマン、ジェームズ・フランコは銀行強盗、リーアム・ニーソンが興行師、またトム・ウェイツ、ゾーイ・カザンらがそれぞれのチャプターの主人公として登場します。
もともとはコーエン兄弟のTVドラマシリーズとして企画されていたのですが、NETFLIXが権利獲得したのち、脚本構成を見直して一つの長編映画にすることになりました。
批評面でも高い評価を得ていましたしアカデミー賞では脚色賞、歌曲賞、衣装デザイン賞にノミネートを果たしました。
当時コーエン兄弟の新作ということですごく観たかったのですが、肝心のNETFLIXに加入していなかったのでスルー。
結局ものすごく年数を経てからやっと鑑賞したので感想を残します。
~あらすじ~
バスター・スクラッグスはギターを片手に愛馬に跨り渓谷を抜ける。
賞金稼ぎである彼はターゲットを追って旅をしており、途中でならず者に出会えばその早撃ちでたちまち撃ち殺してしまう。
ある男は度々銀行強盗を繰り返しているが、今回襲った場所は管理人がやり手で痛いしっぺ返しを食らうことに。
興行者と彼の売り物である語り部は、行く先々で暗唱を披露し稼いでいるが、段々と利益が減ってきていた。
また黄金を探す老人や、兄を失った女性の牧童との恋愛。
西部を舞台に様々な人物たちの物語が語られていく。
感想/レビュー
ブラックユーモアに微笑む
コーエン兄弟のテイストといえば、現実に忠実なゆえの暴力描写と、それでいながら凄惨というよりはむしろブラックユーモアに包まれていること。
今回は複数のストーリーが順番に語られていくというオムニバス形式を取っていますが、一貫してコーエン兄弟のトーンが保たれ、またテーマも全てに共有されていました。
散漫なオムニバスを見るとがっかりするものですが、やはりコーエン兄弟は見事です。
いくつかある話の中でちょっとギアが異なるものもあると感じます。
挙げるなら、リーアム・ニーソンとハリー・メリングが登場し描かれる興行者の部分です。
ここはあまりコメディテイストも感じず結構ダークというか。
あくまで全体に見ての少しの違和感であって、このパートがもつ虚無感や人間の深い闇も、拔いてはいけなかったのかもしれません。
根底に死を横たえたオムニバス
各ストーリーをそれぞれ観てもいいですが、むしろ全体テーマから振り返ってみたほうがよく感じます。
そこには”死”があります。
すべての物語には死が共通して置かれていて、それが不意にやってきたり、なんとかやり過ごしたり。
ただ前述の通りにコメディてきな風味をつけられているため、エンタメとして見れます。
決して死に関する考察を垂れ流すようなことはせず、活劇として昇華しているというのがやはりコーエン兄弟の手腕ということでしょう。
バスターはタイトルに名のあるキャラクターですが、スキルを持って殺しをしてきた人。最後は上手が現れ殺されます。
上には上がいることも含みますが、殺し殺されるという構造は人間の死のサイクルで重要な要素でしょう。
ジェームズ・フランコは最後は逃れられない死に追いかけられるし、トム・ウェイツは逆に死を偽装する。
ゾーイ・カザンの死のパートは個人的に響きます。無駄というか虚しいような、しかしそういう死も認識すべきですからね。
皆が死へ向かっている
最後のチャプターに止まらない御者を持ってくるのも良いところ。
馬車の中では正義と不正、人間の相互理解とその限界などが激しく議論されます。
そして婦人が感情の高まりで発作を起こしたとき、御者は止まってくれない。
死を馬車の上に横たえて、まっすぐと目的地へ走り続ける。
誰がなんと言おうと。
これこそが人生であり死の本質です。
皆が同じところへ向かっている。そしてそこには一時停止などないのです。
真理を様々なストーリーに共通させ、どれもが楽しめる一品でありながらも、皮肉な現実を描いた素晴らしい作品でした。
絵画のようにキマった撮影
あとは撮影面も素晴らしかったと思います。
西部劇らしく広い空間が出てきたりと言うのもあります。広い広大な大地にシルエットとか、西部劇好きにはたまらないショットです。
また、今作が本をめくっていく構造を取りその挿絵を示すように、カッチリとした決め絵の構図がたくさんあって美しかったです。
だからこそ、NETFLIXの配信でPC画面で見るのではなくて、映画館で観たかったという悔しさがぬぐい切れませんが。
オムニバスって全体に波がありすぎたり、各話は良くても一つのうねりを持っていないことが多い気がしますが、今作は本当に見事にテーマを貫いています。
最終的に持ってくる話などの位置構成もさすがです。
NETFLIX加入されている方はすごくおすすめの作品です。
今回はここまでです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ではまた。
コメント