「魂のゆくえ」(2017)
- 監督:ポール・シュレイダー
- 脚本:ポール・シュレイダー
- 製作:ジャック・バインダー、グレッグ・クラーク、ヴィクトリア・ヒル、ゲイリー・ハミルトン、ダビド・イノホサ、クリスティーン・ヴェイコン、フランク・マーレイ、ディーパック・シッカ
- 製作総指揮:ブライアン・ベックマン、フィリップ・バーギン、ブルック・リンドン=スタンフォード、マーティン・マッケイブ、ミック・サウスワース、ルカ・スカリシ、イン・イェ
- 音楽:ブライアン・ウィリアムズ
- 撮影:アレクサンダー・ダイナン
- 編集:ベンジャミン・ロドリゲス・Jr
- 衣装:オルガ・ミル
- 出演:イーサン・ホーク、アマンダ・サイフリッド 他
「タクシードライバー」の脚本などを手掛け、監督としても活躍するポール・シュレイダーの新作。
主演には「マグニフィセント・セブン」(2017)などのイーサン・ホーク、また、「マンマ・ミーア」のアマンダ・サイフリッドも出演しています。
今作は批評家層より高く評価されていて、私もそれが気になって海外版ブルーレイを購入し鑑賞しました。
ちょっと宗教(キリスト教)色が強めの作品かもしれませんが、あまり宗教知識のない私でも理解できました。32歳あたりがなぜ大きな年齢かなど、あまり説明はないですが、大枠に環境問題とかも出てきますし、主題はスリラーだと思いますから、敬遠する必要は無いと思います。
ニューヨークの外れにある小さな教会”ファースト・リフォームド”。
そこで神父をしているトーラーは、戦争で息子を失ったことをきっかけに神に仕えていた。
もうすぐこの教会の建設から250周年のセレモニーを執り行うことになっており、各協会の出資者や関連企業等と一緒にトーラーも力を合わせ準備を進める。
あるとき、信者の一人メアリーが、彼女の夫について相談を持ち掛けてきた。
彼女は妊娠しているのだが、夫のマイケルはその子を生ませたくないというのであった。
トーラーはまず、メアリーの家を訪ね、マイケルと話をすることにした。
非常に静かで冷たい感触のある作品ですが、登場人物のドラマを通して、宗教と社会・世界をテーマに大きな考察を促す作品でした。
舞台としては現代であり、もちろんそれこそが大きな意味を持ちながらも、どこか全時代に通じるような雰囲気があるのは、撮影の妙なのかなと思っています。
アレクサンダー・ダイナンのカメラですが、スクリーンをほぼ正方形に使うもので、アスペクト比だけでも昔の作品感が出ていますし、あまり彩色がなくカラー全般が取り払われた色使いも、モノトーンの感覚を強めます。それでいて、室内、PCのライトや夕暮れなど異世界のようなショットも多くて、個人的にかなり好きなところでした。
手持ちやらパンも少なめで、撮り方、カメラの動きも落ち着いていることもあるかもしれません。
お話としては、トーラーを取り巻く環境を通して、孤独な魂が拠り所に対する信頼を失っていく様が描かれていると感じます。
なんといってもイーサン・ホークの名演は記憶に残るものだと思います。
この作品の核を担っていますね。彼の表情からくる痛みと悲しみを背負う心、救いを通して自分の救いを求める様、そして信頼を失い何よりも焦ってしまうなど、セリフが多いとかでもなく、静かながら表情豊かです。
怒りを感じながら、しかしその怒りの根源にある自身の信仰が崩れ去ってくことに恐怖すらする。信仰を守れば怒りはいけないこと。
でも、トーラーに突きつけられていく真実に怒らなければ、それもまた人として道義に反するのです。
キリスト教の教えを信じ生きてきた身として、信条や聖書の力があまり現代の人間の助けになっていないことに直面し、そして環境活動家こそまさに信じる者のために自己犠牲すら惜しまない、真の伝道師に思える。
トーラーは何かしたかったのだと思います。
彼はある意味、逃避のために信仰の道へと進んだ人です。子を失った悲しみから自身を切り離し生き延びるために。
そんな彼に命の期限が迫ったとき、マイケルと同じく何か信じるもののためにアクションを起こしたいと思ったのではないでしょうか。
救うことが使命であったのに、マイケルを死なせてしまい、そして彼のこの世界への絶望が、宗教的なものではなくとも環境問題という形で理解でき始めた。
グループセッションでは若者の批判に無力で、実質何も救えない。
さすが「タクシー・ドライバー」の脚本を手掛けたポール・シュレイダー監督ですので、自身の中の信条と世界の事象を結び付けて、危険といってもいい正義が構築されていく流れが見事でした。
神の作ったこの世界を破壊し、生き物を殺し、そしてそれを訴える人間の命すら奪う。
しかもそうした破壊者こそが、今の自分の信仰を、教会を支える出資者なのです。トーラーは足場から崩されてしまいますよ。
そこで彼の最後の支えが、未亡人となったメアリーです。心配しつつも夫を頼りにしていた彼女も、拠り所を失った魂です。
そんな孤独な魂同士だからこそ、寄り添い互いを気にかけていたんだと思います。
この世界で生きることとは。
私たちは何を拠り所とし、何のため生きていくのでしょうか。
今や神の存在は無意味に思え、そして避けられない世界の終末が神話でなく現実的な触感を持って迫ります。
難しい主題と厳しい世界を見せながらも、最後に”主の御手に頼る日は”の流れる中抱き合うトーラーとアマンダをみるに、少しだけ、愛の中に生を見出せるような希望も感じました。
ポール・シュレイダー監督作品はあまり見たことがないのですが、今作はどんどん見入ってしまいます。
イーサン・ホークの演技の素晴らしさ目当てでも見てほしい作品です。
感想はおしまい。それでは。
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