「ジャコメッティ 最後の肖像」(2017)
作品概要
- 監督:スタンリー・トゥッチ
- 脚本:スタンリー・トゥッチ
- 製作:ゲイル・イーガン、ニック・バウアー、イラン・ジラール
- 製作総指揮:ディーパック・ネイヤー、フレッド・ホッジ、テッド・ブラムバーグ
- 音楽:エバン・ルーリー
- 撮影:ダニー・コーエン
- 編集:カミーラ・トニオロ
- 衣装:ライザ・ブレイシー
- 美術:ジェームズ・メリフィールド
- 出演:ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、トニー・シャルーブ、シルビー・テステュー、クレマンス・ポエジー 他
著名な彫刻家であるアルベルト・ジャコメッティを、俳優として活躍するスタンリー・トゥッチが初監督して描く伝記映画。
スタンリー・トゥッチってもともと画家とかの志望だったらしく、個人的にもすごく興味のある題材だったようです。
ジャコメッティを演じるのは「シャイン」(1997)や「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズでおなじみのジェフリー・ラッシュ。
またジャコメッティの肖像画のモデルとして選ばれるアメリカ人小説家には「フリー・ファイヤー」(2016)などのアーミー・ハマー。
そういえばゴッホにロダン、こちらのジャコメッティさらにゴーギャンと、有名な芸術家を描く作品が最近多い気がします。
彼らを知っていくきっかけとして観てみると良いかも?
日比谷シャンテで観てきたのですが、まあ場所柄なかなか人がいましたが、若い人向けではないのかな?同年代っぽい人は見かけませんでした。
~あらすじ~
1964年。
アメリカからパリを訪れていた青年ジェームズは、著名な芸術家のアルベルト・ジャコメッティに肖像画のモデルを依頼される。
2、3時間の簡単なデッサンだということで、ジェームズはジャコメッティからの依頼を快諾するのだが、肖像画をその日に描き終えることはなかった。
帰国予定は明後日という事で、ジェームズは翌日もジャコメッティのモデルを務めるのだが、またしても画は完成しない。
感想/レビュー
天才芸術家との接触も貴重であると、ジェームズは帰国予定を延ばし、再び彼の前に座るが、来る日も来る日も肖像画が完成する気配はないのであった・・・
昨年に衝撃を受けた伝記映画がありました。パブロ・ラライン監督の「ジャッキー/ファースト・レディ最後の使命」(2016)です。
伝記映画と言うジャンルとしては、そちらと同じく見事な作品だと感じました。
わずかな期間だけで、人を描く
この映画で描かれるのは、ジャッキーが夫暗殺の4日ほどであったのと同じくらいの短期間、つまり、肖像画を描く2週間もない期間だけです。
人生を描いたり、成功の時や黄昏など長めの期間を選ばず、この一つの作品を生む短い期間に限って、ジャコメッティを描いているのです。
スタンリー・トゥッチ監督は、そこからジャコメッティの人柄も芸術に対するスタンスや彼の望みも巧く切り出していたと思うのです。
さらに言ってしまえば、この作品はジャコメッティと同時に、ジェームズ、つまり彼の芸術創作に触れた人間までもを描いています。
ジェフリー・ラッシュが素晴らしいのはいつもの事ですが、今回は若干のメイクアップも足しているようで、ルックも似せていますね。
いつも不機嫌な感じもしつつ、時折見せる笑顔がどことなく可愛らしかったです。
そしてアーミー・ハマー。今作は彼にじっと寄るシーンも多く、その接写で映し出される美しさw
アーミー・ハマーを堪能する映画としても楽しめますよ。
ジャコメッティの頭の中そのものである家のセット
この作品はほとんどアトリエでのデッサンや会話がメインですが、あの家の作りもすごく良かったです。
埃っぽくて混沌としていて、何から何まで完成した作品のようで実は未完のまま放置されているような。
ジャコメッティの頭の中そのものが広げられているようでした。
お金なんかはどこにしまったか分からないのに、やはり気に入ったデッサンはしっかり覚えていたり。
各所にコミカルな部分もちりばめられていて、ある程度の目配せはありますが、芸術関連に疎い私でも楽しく観ていられました。
未完のまま放置され、たまにいじってみてはやり直し、いつまでも納得できない。
この作品はジャコメッティの芸術とか創作そのものへの態度を、アトリエという脳内をみせながら教えてくれたように思えます。
「作品を出したのは、臆病だからだ。私は今まで何も完成させていない。そもそも創りはじめてもいないのかもしれん。」
割と序盤に言われる台詞は、ジェームズと共に初めて彼に会う観客にとって、まさにジェームズと同意見の反応を引き出しますね。
偉大な作品がいっぱいあるのに、何を言っているのかと。
しかし、完成しない肖像画製作の日々を通して、少しづつ分かっていきます。
創造に終わりはない
創造って何をもって終わりになるのだろう?完成って何?
あれをこうしたいとか、この色の方が良いかもとか、より良い方法があるのではないかとか。
一度何かを創りはじめると、そのこだわりとかある種の疑念(自分はもっとうまくできるのではないか)は尽きないですよね。
映画を観終わる頃には、その煉獄のような感覚をすこし理解できました。たしかに納得できないのも、いつまでも終わりがないのも疲れるし辛い。
しかしおそらく、ジャコメッティはその不足や未到達の状態こそが創造の本質であり、それ自体を楽しんでいたのかもしれないと思いました。
結局私たちは、期限や妥協、そして他者からの言葉で創造を”終わらせる”ことしかできないのかもしれないですね。
そう考えると、音楽でも絵画でも、ITアプリでも広告でも映画でも、何かを創っているその時、その瞬間が一番の幸福と思えました。
短い期間に、ジャコメッティの頭の中へと放り込まれたアメリカ人青年と共に、創造の本質へと迫るような作品だと思います。おススメです。
こんなところで感想は終わります。
それでは、また~
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