作品解説

頭脳と情報を武器に国家の裏側を操る闇のブローカー「ヤダン」の存在を軸に、検事、刑事という異なる立場の3人の男たちが交錯していくクライムアクション。
野心、正義、欲望が複雑に絡み合い、裏切りと復讐が連鎖していくスリリングな物語が描かれます。
主演・キャスト
ヤダンのイ・ダンス役を演じるのは、「ラブリセット 30日後、離婚します」やドラマ「イカゲーム」「椿の花咲く頃」などで人気を博してきたカン・ハヌル。
本作では、これまでの爽やかなイメージを覆す、ダークで過激な役どころに挑戦しています。
野心的な検事グァニ役には、「破墓 パミョ」、「タクシー運転手 約束は海を越えて」などで知られる名優ユ・ヘジン。
さらに、ドラマ「夫婦の世界」「おつかれさま」のパク・ヘジュンが、荒くれ者ながら情に厚い刑事役を務めます。
作品としてすごく注目をしていたわけではないのですが、出演陣は皆好きですし、またひさしぶりに韓国映画を劇場で観ようと思って鑑賞してきました。
実際のところ、カン・ハヌルさんがどのくらい人気なのか分からないのですが、劇場はそこそこ混みあっていました。3連休での公開というのもあったかもしれませんね。
~あらすじ~

大統領選を目前に控え、政治と司法が緊張状態にある韓国。
麻薬犯罪者から裏の情報を引き出し、検察や警察に横流しすることで司法取引を成立させる闇の仲介人──通称「ヤダン」と呼ばれる存在が暗躍していた。
イ・ダンスはそのヤダンの一人。
出世欲に燃える野心的な検事グァニと手を組み、情報提供によって次々と麻薬犯罪者の摘発を成功させ、表と裏の世界を巧みに渡り歩いていく。
しかし、ある大規模な麻薬摘発事件をきっかけに、状況は一変する。
政治、検察、裏社会が複雑に絡み合う巨大な陰謀が浮かび上がり、ダンスは一転してすべてを失い、逃げ場のない地獄へと突き落とされていく。
国家に切り捨てられ、利用され尽くした男は、やがて自らの手で真相を暴き、復讐へと動き出す──。
感想レビュー/考察

韓国映画に根付く「義兄弟」という関係性
韓国には義兄弟文化があるのでしょう。
日本でももちろん兄貴分的なものはありますが、韓国映画を見ていると実際に実の兄弟のように慕って、「兄貴」と呼んで親しく接する場面が見えますね。
それは同じ穴の狢であったり、犯罪者社会でのことであったり。
その関係性は映画ではかなり美味しいものと思います。
そのまま義兄弟の熱きドラマとか、逆に兄弟分に裏切られた復讐の旅やサスペンスなどにも展開できるからです。
今作はその後者の方ですね。
成功の先に待つ裏切りという定番構図
どん詰まった場所で出会った騙されて刑務所にぶち込まれた若者と、場末の出世街道から外れた検事。
互いに互いを今の状況から脱出するために必要として、義兄弟としてのし上がっていった。
というところまではハートフルなものですが、しかしやはりその先に裏切りが待っているのです。

軽薄さと野心が交差する、友情と裏切りの構図
ということで、今作ではカン・ハヌル演じる軽薄でテンションの高いチャラ男と、地味ながらも着実な力をつけていく検事を演じるユ・ヘジンの友情と裏切りの物語。
途中で展開があるために中だるみ的なこともなく、またそのプロットのおかげで両俳優の二面性を楽しんで観ることができる作品でした。
“ヤダン”という存在の危うさと面白さ
カン・ハヌル演じるイ・ダンスは通称”ヤダン”。これは警察の麻薬捜査舞台と通じながら、麻薬組織とも同時に通じるいわば仲介人。
麻薬犯罪者をだまして警察に捕まえさせつつ、刑期の短縮を餌にして犯罪者からさらに本拠点や取引日時などを提供させ、大きな組織を叩く手助けをします。
もちろん、その報酬として犯罪組織からの応酬品や金を受け取り、警察は実績評価を上げることでその捜査官たちが出世していく。
警察からも調子のいい野郎と疎まれ、もちろん麻薬犯罪組織からは嫌われる。そんなヤダンを、チャラ男全開でカン・ハヌルが演じます。
ノリノリで人をおちょくった軽快さと、序盤のすべてがうまくいっているフェイズがハマっていますので、リードの良さでどんどん観ていける。

正義の刑事が突きつける倫理的な違和感
しかし、そこに種まきのように、パク・ヘジュンが演じている本当の意味での正義の熱き刑事が出てきていますし、彼が救いたいと思いながら結局は麻薬がらみの事件や闇の世界に飲まれていくアイドル(チェ・ウォンビン)もいます。
甘い汁を吸う人間がいる中で、確実に薬漬けにされていく若い女性や、彼女を守れなかった刑事の悔しさが観客に、このお祭りのような検事とヤダンの活躍を、純粋に見ていいのかの倫理的揺さぶりをかけてきます。
そして当然、ユ・ヘジンは次期大統領候補の息子という大物を相手に、ヤダンを切ることを決意。
イ・ガンスは裏切られ脚を焼かれた上にヤク漬けにされてしまうのです。
この転換点で、ユ・ヘジンはちょっとしおれた中年男性の優しき兄貴分から、権力のために人を切り捨てる悪役に切り替えていく。
さすが様々な役を演じる幅のある俳優です。ここは見事。
ズタボロの先にある再生と、ケイパー的クライマックス
そして意外だったのがカン・ハヌル。
イケイケなお兄さんだけで行くかと思えば、ヤク中になった自分を直し、抜け出し、真っ当に戻るためのリハビリシーンで、ズタボロさとイ・ガンスの芯の強さや誠実な面を演じきっていました。
このシーンと真摯なイ・ガンスの描写がないと、ただうわべだけの男に見えかねないので、重要なシーンであったと思います。
そこからはいかにして検事と大統領候補の息子の悪行を暴き出すかということで、それまで関わらなかった人物たちが集結する。
1種のケイパー物のような展開を見せながらクライマックスまで駆けていきます。

見下ろす者と、見渡す者――権力が辿り着く終着点
大統領候補の息子、検事の結託による悪事や恩恵ということで、やはり権力側を悪と置くところは韓国映画では引き続き使われていますね。
今作ではリュ・ギョンスが本当に憎たらしいクソガキを演じていて最高です。
どこまでのし上がっても、結局は上役の尻ぬぐいってところにやりきなさと悔しさを持つ検事も、ユ・ヘジンさんが好演。
終幕には兄弟の約束の象徴でもあった金のライターを使った仕掛けがあり、皮肉にその裏切りを返すというのも小道具と演出が効いていて良かったです。
検事があの高層ビルから下っていき、イ・ガンスのいるビルの屋上へ駆け上がりながらも、そこで完全敗北するのも良い。
上に上り詰めながらやはり検事はここまでで終わりってことですね。密室の室内は周囲もよく見えない。イ・ガンスが登った屋上は街が見渡せる。
「ここからなら街が見渡せる。」
それを忘れて、街の人々を守るとか社会のために動くことを忘れ、隠された秘密の内向性に進んだ検事との差でしょう。
報われなさが残す影と、物語の確かな満足感
全体に楽しいエンタメですがちょっと気になってしまう点があり。
それはあのアイドル、若手俳優の運命。彼女は巻き込まれ、信じた刑事に(そのつもりはなかったものの)見捨てられ。
心身ともに傷つけられた先に、報われてほしかったなと。
もしくはせめて、死んでしまったあとに弔いを入れてほしかったと思います。単純に悔しいところでした。
総合的には主演陣の役の幅や小気味よいストーリーと展開で手堅く楽しめる作品でした。
今回の感想は以上。ではまた。


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