「終わらない週末」(2023)
作品概要
- 監督:サム・エスメイル
- 製作:サム・エスメイル、チャド・ハミルトン、ジュリア・ロバーツ、マリサ・イェレス・ギル、リサ・ギラン
- 製作総指揮:トーニャ・デイビス、ダニエル・M・スティルマン、ニック・クリシュナマーシー、ルマーン・アラム、バラク・オバマ、ミシェル・オバマ
- 原作:ルマーン・アラム
- 脚本:サム・エスメイル
- 撮影:トッド・キャンベル
- 美術:アナスタシア・ホワイト
- 衣装::キャサリン・マリー・トーマス
- 編集::リサ・ラセック
- 音楽:マック・クエイル
- 音楽監修:マギー・フィリップス
- 視覚効果監修:クリス・ハーベイ
- 出演:ジュリア・ロバーツ、イーサン・ホーク、マハーシャハラ・アリ、ケビン・ベーコン、ファラ・マッケンジー、チャーリー・エバンス 他
人気ドラマシリーズ「MR. ROBOT ミスター・ロボット」のクリエイターで知られるサム・エスメイルが監督・脚本を手がけたサスペンススリラー。
ルマール・アラムの同名小説が原作となっており、製作総指揮にはなんとあのバラク、ミシェル・オバマ夫妻が参加しています。
「ベン・イズ・バック」のジュリア・ロバーツ、「ブラック・フォン」などのイーサン・ホーク、そして「グリーン・ブック」のマハーシャハラ・アリが出演。
劇場公開作品ではなく、2023年12月8日からNetflixで配信されました。
終わらない週末というタイトルで、永遠の休日みたいで最高に感じましたが、このs買う品はホラースリラー映画です。
前情報がほぼなかったのですが、オバマ夫妻製作の点や演者の豪華さで観てみました。
~あらすじ~
アマンダは夫のクレイ、そして息子のアーチーと娘のローズを連れて週末を楽しもうと、レンタルした豪華な別荘にやってきた。
しかしそこに到着してすぐ、世間を騒がせている不可解なサイバー攻撃の影響で、携帯電話やパソコンが使用不能になる事件が発生する。
そして夜遅くに、別荘のオーナーだと名乗るG・Hと娘が現れる。
彼らはサイバー攻撃から逃れるために、自身の家である別荘に避難してきたと告げる。
世界が混乱する中、2つの家族は恐怖に立ち向かいっていく。
感想/レビュー
アメリカが崩壊していく様を、ディザスターパニックほどには仰々しくないままに、着実で落ち着いた緊迫感をもって描き出していく。
このテイストは隕石落下の大災害を一つの家族、父親の視点から追っていった作品「グリーンランド 地球最後の二日間」に似ていました。
特殊なスキルも、超人や英雄的な力もない。
物事を真に俯瞰することすらもできないままに、混沌の中に放り込まれてあまりに脆く心もとない舵を握って運命を決めていく。
不安感と不明瞭さで飲み込んでいくタイプは、効く人にはかなり効いてくるホラーだと思います。
そんな大災害国家崩壊の様子は実は表面であると感じます。
本当に描いているのは代表された4人の人物による人の分断や争いでしょう。
オバマ夫妻が製作総指揮に名を連ねていますが、国家のトップにて見た光景からの示唆がふんだんに入っているのだと思います。
まずはディザスター映画としてみていくと、実際にこの作品のなかですべてに明瞭な答えは与えられません。
確実なのは、国家が崩壊していくこと。それを見守ることだけです。
理由や敵、数、位置や時間などなにかを軸にできれば、対策や解決策を思案できますが、この作品は本編1時間過ぎになってもすべての状況もセットアップも見出すことができない構成です。
ストレスフルにも感じてしまいましたが、同時に、観客を主人公たちと同様の境遇に落としこむという仕組みはしっかり機能しているのだと感心しました。
なんとなくでしか分からない問題。
しかも登場人物たちに唯一完全に寄り添っていき情報を(すくなくとも誰がどこで何をしているかだけは)すべて持っている観客からすると、各人行動にも崩壊の理由が見えてきます。
巨大なオイルタンカーの船が座礁したことを言及しない。
道でスペイン語で何かを訴える女性にあったことを話さない。
これは娘を心配して飛行機が次々に海に墜落したことを隠したG・Hのように、悪意があるわけではないのです。
良かれと思って、混乱や不安を煽ってはいけないと考えて情報を隠してしまう。
やはり人間なんですよね。
思いやりやちょっとした意地悪に小競り合い、思春期すぎる性欲、こんな世界の終わりでもフレンズの最終話がみたい。
終盤に登場したケビン・ベーコン演じるダニーの言い分も十分に理解できますしね。
ここについてはさすがに名優をそろえていることもあり、揺れ動き嫌な面ものぞかせる人間模様がの楽しめます。
国家崩壊の描写についてはあくまで主人公たちの見える範囲で観測されます。
電子機器やネットに依存している社会に対して、それを遮断することで生まれる混乱と恐怖、無力さについても巧いです。
イーサン・ホーク演じる父親クレイの滑稽さもおもしろい。
でも日常で、最近はAIも常に利用して生活や仕事をサポートしている中で、電気を奪われれば先進国はかなり脆いですね。
そして依存しているということは逆手にも取れる。情報操作や偽の情報に踊らされていく様は、静かではありますが恐ろしいものがありました。
電動であり自動運転できる自動車がハッキングされているのか、道路を無人のままに走り突っ込んでくる。
「ワイルド・スピード アイスブレイク」であったようなゾンビカー描写は一般人視点だと本当に危なくて怖い。
直面する現象を映していく中で、カメラワークが特徴的でした。
画面自体を横に寝かせるような移動があったり、また神の視点として真上からのショットも。
物語におけるターンでは、対象に対して手前に人を置いて、カメラが左右に移動して右から左、左から右へ視点を変えます。
モノの見方が分かってしまうことを示すような意味を感じました。
さて、本質は人の分断だと書きました。
全体にアメリカを舞台にしているので、アメリカでの分断をテーマに入れ込んでいる。
分断されて互いに争い自滅していくという崩壊の仕方も、もはや物理的な侵略や直接の攻撃がメインではないようですし、今ある危機に対して鋭い目を向けています。
G・Hが初めて家にやってきたとき、”人間が嫌いになった”なんて言っていたアマンダの反応が絶妙です。
ジュリア・ロバーツが素晴らしいおかげなのですが、家主であることがネットでメールしかしてないから分かりにくいですねというG・Hに対して、アマンダはむしろ”アフリカ系アメリカ人にこんな豪邸持てるわけ無いじゃん。嘘付いてるだろ”といった空気を出します。
決して表立っていないですが、拒絶の中にある偏見が見て取れるんですよね。
その時ちょうど2つの家族は玄関を隔てて左右に分割されるように映されますし。
物凄い攻撃力とか、戦争状態のようなものは不要で、すでにそこにある歪みに対して隔離と情報操作を加えるだけ。
それだけで現代国家は崩壊する。
実直で鋭く、そして恐ろしい私たちの今を映し出した作品で楽しめました。
感想は以上。
ネトフリ限定なのが惜しいですが、見れる方は是非。
ではまた。
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