「列車旅行のすすめ」(2019)
- 監督:アリツ・モレノ
- 脚本:ハビエル・グヨン
- 原作:アントニオ・オレフド『列車で旅する利点』
- 製作:レイレ・アペジャニス、メリー・コロマー
- 音楽:クリストーバル・タピア・デ・ビアー
- 撮影:ハビエル・アギーレ
- 編集:ラウル・ロペス
- 出演:ルイス・トサール、ピラール・カストロ、エルネスト・ アルテリオ 他
第32回東京国際映画祭でコンペティション部門にて上映されたスペインの作品。
列車でであった精神科医の男が語る患者の話から始まる物語で、なんともジャンルを付けがたい作品。
監督のアリツ・モレノは今作でデビュー。原作者のアントニオ・オレフドと「複製された男」などの脚本家ハビエル・グヨンが組んで映画用に脚本を起こしたとのこと。
今回の映画祭、私の観た回では上映終了後には監督のアリツ・モレノ監督と原作者のアントニオ・オレフド、そしてプロデューサーのティム・ベルダが登壇し、Q&Aに応じてくれました。
編集者であるエルダが、常軌を逸した夫を精神病院に入れた帰り道。
列車で偶然向かいの席に座った男が語り始める。
彼は精神科医であり、非常に奇妙な妄想を抱えたある患者がいたというのだ。
かつて兵士であった男が語る、ある病院での女医の話。
そして男がその女医の話を打ち明けた時の彼の父や家族の話しが、今度はその男の妹の手紙に綴られていたという。
おそらく私自身のこの作品の感想として、「こういう話であった」とまとめあげることが難しいと感じました。
決して難解な話ではなく、映画を見ていて今現在何が起こっているのかを理解はできるのですが、この作品を理解するということは難しいと思うのです。
それはこの映画がメタのコンテキストも、自意識も巧みに操り、観ている者の手をすり抜けていくからかと思います。
そういう意味では、ちょっと変な言い方にも思えますが、作品自体に知能があって、こちらに意識をもって話しかけているということです。
伝聞や第三者による語りでどんどん展開していく話。
それぞれのプロットもダークかつシニカルでブラックなユーモアに溢れていると思います。
なるほど腐りきったシステムや富裕層の話かと思えば、そういったことを妄想しまくっている陰謀論に憑りつかれた男の話であると転がり。
果てにはそれらが非常に交錯した形で一人の人間に集約されていく。
登場人物とは語り手の一部であり、生み出されるすべての物語も、語り手を構成する要素となる。
この賢い作品は、語りをどんどん変えながら、観ている私を挑発し惑わせ、あざ笑うかに思えました。
誰の話をどこまで信じていけばいいのか。そもそも人の話なんて虚構ですからね。その人にとってたとえ真実であっても、傍から見れば狂人の世迷言。
それはもちろん映画の登場人物が、他の登場人物を信じる過程でも起こる信頼関係の破綻であり、映画と観客にも起こりえるんだと思います。
作品自体「~~という人がいたとしよう。」「例えば~~」なんて感じで始まりますから、事実ではないことを自覚した上で話してくる。
物語って全部嘘。小説も映画も。
おそらくそれを語る者のなにかしらの形としての一部であることは確実だと思いますが。
そうした物語を通してクレイジーな世界を垣間見ること、感情を共にすることはやはり快楽であります。ここを否定できない、それをつつかれる気がしてとても奇妙な感情になる作品でした。
見ている側よりも非常に頭のいい映画と思います。自意識を持って翻弄する、ユニークな作品でした。
感想はあっさり目ですが、このくらいで。この映画ばっかりはやはり、自分で観ることをお勧めします。なので劇場公開を是非してほしい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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