「永遠の門 ゴッホの見た未来」(2018)
- 監督:ジュリアン・シュナーベル
- 脚本:ジャン・クロード・カリエール、ジュリアン・シュナーベル、ルイーズ・クゲルバーグ
- 製作:ジョン・キリク
- 音楽:タチアナ・リソフスカヤ
- 撮影:ブノワ・ドゥローム
- 編集:ジュリアン・シュナーベル、ルイーズ・クゲルバーグ
- 出演:ウィレム・デフォー、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、ルパート・フレンド、マチュー・アマルリック 他
生涯評価されることのなかった天才画家フィンセント・ファン・ゴッホを彼の晩年に焦点をあて描く伝記映画。
監督は「潜水服は蝶の夢を見る」などで有名で、自身も画家であるジュリアン・シュナーベル。
ゴッホを演じるのは「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」などのウィレム・デフォー。
またゴーギャンとして「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」などのオスカー・アイザック、神父役にマッツ・ミケルセンも出演しています。
ちょうど2018年の公開にてウィレム・デフォーの演技が高く評価されていたので早く観たいと思っていたのですが、日本公開は大分遅れてしまいました。
最近はゴッホ関連の映画、しかも評価の高い作品が多いですね。
今作もアカデミー賞主演男優賞にノミネートしています。
公開日のレイトショーで観賞。遅くの回の割には人がいました。
多くの画を描き続けるも、世間から評価されない孤独な画家フィンセント・ファン・ゴッホ。
絵画美術界に革命を起こそうと考えるゴーギャンに誘われた彼は、アルルへ訪れ作品製作を始める。
しかしそこでもゴッホの画は理解されず、街の人々は厳しかった。
孤独を深めていくゴッホに、追い討ちをかけるように、ゴーギャンも自身の画が売れ始めたことからパリに戻ることになってしまう。
次第に追い詰められていくゴッホは精神を病んでいく。
昨今の伝記映画。
独特な切り口で本当におもしろいものが多いと感じていますが、今作もまたフレッシュであり美しく危うい、ユニークな伝記映画でした。
ジュリアン監督が目指したのは、主観的なところに観客を持っていく伝記映画だと思います。
ゴッホを外側から描き語るのではなく、ゴッホ自身が語る。
感情レベルにまで観客をこの天才画家と同一化させてしまう、映画の作り方に圧倒されました。
とにかく撮影は独特で、固定される場面が数えるほどしかないくらいいつもカメラが手持ちで揺れています。
それに主観ショットによるゴッホ自身の視点表現や、パーソナルスペースを排する接写も多用されていますね。
画面を埋める黄色の色彩、下半分に涙を浮かべるように広がるぼかし。
ゴッホとの心理的距離はそのカットバック、同一画面に映らない仕組みで表現されます。そもそもほとんどといっていい程に、ゴッホが誰かと一緒に画面に映っているのは少ないかも?
パリでの灰色の色彩に斜めに傾く画面も、自然の中草木を抜けていく(音の構成も素晴らしい)描写も、台詞によらず色と構成で語る絵画そのもの。
この点はシュナーベル監督自身が画家である点も大きいのかと感じます。
また、主演のウィレム・デフォーによるゴッホも大きなところです。
観ているうちに、彼以外にはこの孤独な画家を演じることはできなかったと確信するほど、脆さも危うさも含めて魅せられていきました。
自然と対峙する際の喜びに溢れた表情も、敵意にさらされた時の悲しさも。
精神を病んでいく、衝撃の大きい場面での時間や台詞の入り乱れるシーンも、デフォーの表情による貢献が大きい。
とりわけ、瞳が印象的でしたが、真っ青な瞳に映りこむ太陽の光ですね。
ゴッホ自身の画もそうですが、対象物そのものというよりも、それに投げられる光と、そこから何が返ってくるかだと思うのです。
黄色やオレンジに補色的に青が綺麗に映えるか、青ざめた空気や病棟の薄い緑に飲まれてしまうか。
デッサンなど画を書く描写もあり、言葉で上手く言えないんですが、その速い筆の走りも、見ていてとても心地よかったです。
しかし作中ではせっかくの画も、描いてるときに離席されるし、マッツ・ミケルセン演じる神父なんて立て掛けた画をわざわざ裏返すほどに嫌われちゃう。
悲しすぎます。
ゴッホは彼自身が生まれた時代の芸術家ではありませんでした。
彼が見ていたのは”永遠”だけであり、彼だけがそれを見ることができていたのです。
溢れでる色の奔流も、重ねていく色彩も、未来の芸術だったということ。
ゴッホは37歳で亡くなっていますが、描写として死を拒むことはなかったように思います。
むしろ、孤独と狂気に蝕まれる時代よりも、早く永遠へと旅立ち、来るべき正しい時代を迎えたかったのかもしれません。
あまりに時代の先を行き過ぎていて、生まれた時間にすら属すことができなかったゴッホは、自然と陽の光の中にこそそうした自分を孤独にする時間の超越を感じていたのだと思います。
「考えなくていいから。」絵を描くことは彼にとって唯一世界から離れる手段だったのかも。
彼が陽の光を浴び、自然を前にするとき、永遠の門が開かれる。
主観や接写、色彩の操作、そして輝かしく切ない表情や声を持つウィレム・デフォー。
全てが揃う独特な今作は、耐え難い程の孤独をスクリーンを通して体感させ、過去へ遡りゴッホに寄り添わせてくれるものでした。
解釈の一つとはいえ、ゴッホのみていた世界を観客にも見せてくれる作品。美しい画やカメラワーク、音楽、デフォーの顔など大きなスクリーンでの鑑賞が非常におすすめ。
今回の感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた。
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