「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」(2019)
作品概要
- 監督:アグニエシュカ・ホランド
- 脚本:アンドレア・チャルーパ
- 製作 :スタニスワフ・ジエジッチ、アンドレア・チャルーパ、クラウディア・シュミエハ
- 製作総指揮 :ジェフ・フィールド、レア・テマーティ・ロード
- 音楽:アントニ・ワザルキェヴィチ
- 撮影:トマシュ・ナウミウク
- 編集:ミハル・チャルネツキ
- 出演:ジェームズ・ノートン、ヴァネッサ・カービー、ピーター・サースガード、ケネス・クラナム 他
「ソハの地下水道」などのアグニエシュカ・ホランド監督が、スターリン政権下に起こされた人的な飢饉ホロドモールを、実際に現地ウクライナへ赴いて取材したジャーナリスト、ガレス・ジョーンズを描く作品。
ジョーンズを「ベル ある伯爵令嬢の恋」などのジェームズ・ノートンが演じ、モスクワのニューヨーク・タイムズ支局員はヴァネッサ・カービー、さらにその支局長をピーター・サースガードが演じています。
実際のジャーナリストの伝記的な位置づけでもあり、歴史的な事実に基づくドラマでもありという作品。
実はこの作品はチェックしておらず、映画館の上映作品一覧から見つけたものでした。
平日の夜に観ることになりましたが、やはりそんなにたくさんの人は入っていませんでした。
~あらすじ~
世界恐慌がアメリカやイギリスを巻き込み世界を混迷させた1933年。
諸外国を尻目にソビエト連邦のみが、経済的発展を見せ大きく力を増している。
そのソビエトの資金源に興味をもったイギリス人ジャーナリストのガレス・ジョーンズ。
彼はフリーランスでありながらロイド・ジョージ卿の派遣員と偽って単身モスクワへ旅立つ。
彼のモスクワの友人の不可解な死、ニューヨーク・タイムズ紙のモスクワ支局員エイダの忠告など不穏な空気が漂う中、ジョーンズは真実のありかとされるウクライナへと潜入を図る。
感想/レビュー
事実とそれを伝える役目の重要性
アグニエシュカ・ホランド監督の作品は初めて観ましたので、作風という点では連続性を確認できなかったですが、今作は忘れてはいけない歴史の事実と、そうした事実をいかに伝えることが難しいのか、メディアのあり方というものを突き付ける点では非常に役割を自認する作品です。
ガレス・ジョーンズが若くして体験した悲劇、その勇気ある行動と真実への情熱は、歴史的に評価されるべきことであり、ここで描く必要があります。
さらに彼の志は、現代だからこそもう一度報道のあり方に対して照らし合わせる必然性もあるということです。
真っ直ぐに仕事をするタイプの映画で、あまり無駄のない作りになっていたかと感じます。
しかし変にドキュメンタリックということもなく、実は色々なジャンルを複合させながらエンタメ性を確保していると思います。
どことなくスパイものですし、しかしモスクワのホテルあたりでは非常にスリラーの要素が強くなります。
そしてウクライナからは、もはやホラーと言っていいおぞましい惨劇を容赦なく叩き込んできます。
この危険な潜入をするガレスを、ジェームズ・ノートンはどことない若さゆえの愚かさや実直さをもって演じています。
決して理想に熱く燃える男というわけではなく、スーパーマン的な感じもしない。
頼りない感じすらあるわけで、そんな彼が徹底的に叩きのめされながらも、しなくてはいけないことをするのは心から応援できます。
ヴァネッサ・カービーも言葉数少ない中で想いを見せていて、ガレスを初めに送り出すシーンでの葛藤が素敵でした。
そしてピーター・サースガード。醜悪の塊みたいなデュランティをこれでもかと嫌味に演じています。
どことなく、「俺も被害者だから。仕方なくやってるわけだから。」と言い訳がましく構える感じが非常に胸糞悪い。最高。
またホランド監督はさまざまな演出も巧みに入れ込んでいたと思います。
多面からのぞかれているような監視のまなざし、自分を見つめ直す鏡の存在、そびえる建物の威圧感と、その後ろにこれまた非常に危険を煽るような赤く染まる空。
列車内や雪の中の森での逃走など、緊迫したシーンではかなりのロングカットを使用し臨場感を出したり。
観客をガレスと共にウクライナの森で寝かせ、吹雪の中を歩かせるこの作品。
絶対にあの子どもたちの食事を忘れることはできず、恐ろしい歌も頭を離れません。
凍てつく地獄、魔界のようなモノトーンの画面は恐ろしさがすさまじかったです。
これを体験したのならば、しっかりと伝えたい。
作品はガレスの帰還では終わらず、その後の真実を光のもとにさらす難しさを描きます。
抑えつけられても正しいことのために進めるのか。
ガレスの勇気や、エイダの抵抗は必要なものです。
決して、ホロドモールを忘れてはいけない。
そして、メディアはその力で真実を伝え、それが人命を救うことになるその使命を忘れてはいけない。
表彰や華々しい構成、トロフィーを得ることが目的になっては、利権が絡むということです。
それに飲まれているのならば、それはもはやメディアではない。
歴史の闇を覚えさせる役割、そしてフェイクニュースが溢れ、党や政権に忖度するメディアの価値もない存在が溢れる現代に、ガレスの意志が強く波を起こす。
歴史的な作品としても、今の私たちがそこから何を学ぶべきかという意味でも、ストレートな作品でした。
惨い部分もありますが、目を背けない意味でもおススメの作品でした。
今回の感想は以上。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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