「ジェニーの記憶」(2018)
- 監督:ジェニファー・フォックス
- 脚本:ジェニファー・フォックス
- 製作:ジェニファー・フォックス、オーレン・ムーヴァーマン、ローレンス・イングリー、ローラ・リスター、ミネット・ルーイー、ソル・ボンディ、シモーヌ・ペロ、レジーナ・K・スカリー、リンダ・ウェインマン、レーカ・ポスタ
- 製作総指揮:ジュリー・パーカー・ベネロ、ダン・コーガン、ジェラリン・ドレイファウス、ウェンディ・エッティンガー、アビゲイル・E・ディズニー、ジェイミー・レモンズ、エイミー・ロドリグ、アリ・ジャザイェリ、ジェイソン・ヴァン・エマン、デヴィッド・ヴァン・エマン、ロス・マローゾ、ベン・マコンリー
- 音楽:アリエル・マルクス
- 撮影:ドゥニ・ルノワール、イヴァン・ストラスバーグ
- 編集:アレックス・ホール、ゲイリー・レヴィ、アンネ・ファビニ
- 出演:ローラ・ダーン、エリザベス・デビッキ、エレン・バースティン、ジョン・リッター、コモン 他
これまでドキュメンタリーや短編を手掛けてきたジェニファー・フォックス監督の初長編映画作品。
ドキュメンタリーを製作する女性が、過去の自身の恋とその現実に揺れ動き、曖昧な記憶を探っていくドラマ。
主演は「わたしに会うまでの1600キロ」などのローラ・ダーン。その他エリザベス・デビッキ、ジョン・リッターやエレン・バースティンらが出演。
今作は批評面でも高い評価を得ていて、ローラ・ダーンはプライムタイムエミーノミネートをしたりと、以前から注目をしていたのですが、観る機会がなく。
今回はAmazonプライムビデオにて配信がされていたので、やっと見ることができました。
ドキュメンタリー作家として活動し、大学で教壇にも立っているジェニー。
彼女の元に母からの電話がかかってくる。それはジェニーが13歳の頃に書いていた日記についてであり、そこにはジェニーが成人男性と性的関係を持ったことが書かれていたのだ。
ジェニーは自身の記憶ではそんなことはなかったはずと感じるが、今一度自分の過去を振り返っていくことにする。
彼女がまだ幼かったころ、憧れの対象だった美しいジェーン先生、そして乗馬教師であったビル。
自分の人生の足跡が定かでないジェニーは、次第に事実を見出し始める。
ジェニファー・フォックス監督のキャリアを観ていくと、今作は彼女の感じてきたことや現実を探るという行為、また個人が自身の記憶と事実関係を確かめていくことを総合的に濃縮した素晴らしい作品だと感じます。
またそれ故に、自分にとっては非常におもしろい構造を持った映画でもありました。
作品では常にジェニーの視点から過去のパートがフラッシュバックのように語られますが、そこでは更新も干渉も行われます。
現実で当時の自分の”事実”を知ると、もう一度同じ過去を、今度はその事実を反映した形で繰り返す。
今の時間軸の自分が、思い返しているときの自分に対して話しかけ、リアクションを受ける。あまり観られないメタを意識した作風です。
これはまず、自分自身を信じられないことにつながり、ジェニーの底知れない不安を観ている側も共有することになります。
事実と思っていたことが容易く変容してしまうのです。
そして、だからこそ衝撃や嫌悪感も共有できます。美しい物語を語っていたはずが、おぞましい事実になる。
さらに、このプロセスを観客が疑似体験することに、現実におけるこうした問題に立ち向かうことの難しさを伝える機能が見えてきます。
まだ愛情も搾取も判断できない頃に起きたこと、それを掘り返していくということが実際にどれほどに困難なのか。
改めて観る取材映像は、序盤とはまた異なって見えますね。
個人の認知している過去の事実は、真実と異なる可能性があり、認知によってゆがめられる。
語り手の意識やもしかすると願望、潜在的な防衛本能から、記憶など簡単に変わってしまうのです。
意識しなかったらいない人が、ふと注意を向けるととても大きな存在として自分の人生にいたと気づく。
こうした洗脳を挟むような暴行について、いかに当事者意識を正確に認知し、そして事実を言葉から探し出すことが難しいのか。
困惑し、自分に憤るジェニーを演じるローラ・ダーンの素晴らしさも相まって、この搾取的な性的虐待の醜悪さと卑劣さを感じていきます。
代役を使用していますが、やはりレイプシーンは本当に気分が悪い。
事件当時者へのインタビューのようでもありながら、本人と共に意識に潜っていく構造をとり、真実をとらえる難しさと挑戦を見せてくれる。
原題の”The Tale”は「物語」という意味ですが、最後にドスンと効いてきますね。
語られることには不安定さが付きまとうというのもありますが、ジェニーは日記を残すことで、助けを乞うていたのでしょう。
そしてカメラ目線にジェーン先生が放つ言葉に身が引き裂かれます。
「私は誰も救ってくれなかった。」
先生には伝える手段もなく、繰り返されるそれが快楽になってしまった。
ローラ・ダーンの演技やストーリーテリングの構造を非常に楽しみながらも、やはり重い責務を任された気になります。
どこかに救難信号があれば、見つけていかなくては。
主人公と監督の名前が同じで、最後に「実話に基づく」と出されるのもまたズッシリと響いてくる作品でした。
今回の感想はこのくらいになります。
Amazonプライムビデオにて、2020/9/6現在配信されていますので、興味のある方は是非。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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