「To Leslie トゥ・レスリー」(2022)
作品概要
- 監督:マイケル・モリス
- 脚本:ライアン・ビナコ
- 音楽:リンダ・ペリー
- 撮影:ラーキン・サイプル
- 編集:クリス・マケイレブ
- 出演:アンドレア・ライズボロー、アリソン・ジャネイ、マーク・マロン、オーウェン・ティーグ、アンドレ・ロヨ 他
「バトル・オブ・セクシーズ」、「ポゼッサー」などのアンドレア・ライズボローが主演し、かつて宝くじにあたり幸せを掴んだものの、酒に溺れ最愛の息子とも離れてしまったシングルマザーを描くドラマ映画。
監督は今作が初の長編作となるマイケル・モリス。
共演には「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」のアリソン・ジャネイや「ジョーカー」などのマーク・マロン、オーウェン・ティーグやアンドレ・ロヨが出演しています。
あまり知らない作品でしたが、アカデミー賞へのアンドレア・ライズボローの主演女優賞ノミネートから認知が広がりました。
というか、ノミネートそのものではなくて、そこに集まっていた批判込みですかね。海外紙では結構報道されていたので。
ものすごく小さなインディ映画ですが、ノミネートのこともあったりして日本公開も次の年にはしてくれました。
アンドレア・ライズボローは結構好きなので楽しみにしつつ公開週末に早速鑑賞。
~あらすじ~
レスリーはシングルマザーでありかつて19万ドルもの大金を宝くじで当てた。
しかしそのお金を酒代に注ぎ込み、アルコール中毒になった彼女は息子をおいて消えるなど人生を転落。
今ではモーテル代も払えずに追い出されホームレス状態だった。
レスリーは息子のジェームスに会いにいくも、早速息子や彼のルームメイトの金を盗み、隠れて酒を飲みに行く始末。
ジェームスは母の地元に助けを求め、レスリーは人生の転落が始まった地に戻ることとなった。
しかしそこでも相変わらずの酒浸りであった彼女は、またも愛想を尽かされ路上で寝ることに。
宝くじの件や酒癖、息子への仕打ちを知る地元の人々は誰も手を差し伸べない。
そんな彼女を、過去を知らないモーテルの管理人が見つけた。
感想/レビュー
バズって当然のアンドレア・ライズボロー
一部友人による私的なキャンペーン?にてそのアカデミー賞ノミネートに批判がありつつ。
一方で多くの俳優たちから絶賛の声を集める。
今作が証明しているのは、いずれにしてもアンドレア・ライズボローの演技は必見であること。
騒がれるべきであり注目に値する。
凄まじい力で観客を掴み押さえつけてくる演技です。
予測できないダウンフォールの連続
物語はすでにダウンビート。落ち続けて最下層にいる一人の女性が、一人の人間として、母として人生を精算し次を歩もうとするもの。
そう聞くとあまり特殊なプロットではないですね。
珍しいものではない。でも個人的には簡単なものでもないと思います。
主人公がちゃんとクズでないと、そもそもの話が成り立たないし、あまりに酷すぎれば観客は寄り添うことをやめてしまう。
この絶妙なラインを維持しながらも、今作はレスリーじしんがそうであるように、どこへ着地しようとしているのかをハッキリとさせません。
転がっていく話ではありますが、散漫なのではなくて予測不能なスリリングさというか恐さすらあります。
哀れさも醜さも、そして怖さも。すべてアンドレア・ライズボローが体現する。
アルコール依存症の人間の嘘、プライド。
闘うのではなくただただ逃げて嘘ついて盗んで・・・その危険な性質をよく体現していました。
外にあふれ出た醜悪さと、その奥底で孤独に震える哀れさ
表情一つとっても危うい感じがあるのですけれど変化も素晴らしい。
途中、自らにはまだ魅力がある(ここでは性的にですが)ということを証明しようというように、別の町からきたカウボーイを誘いますね。
そこで男はレスリーに危険さを感じ取る。
だからこそ丁重ではありますが、彼女を拒絶する。
皆がみんな彼女を知っている町の中。すべてが敵である中で最後の賭けのように男を誘うレスリーの、その狂気じみた感じは怖かった。
ですが、拒絶されたときに外での冷たさを感じさせつつ、その奥底で孤独に打ちひしがれるレスリーの内面をも感じさせる、あのふとした表情の変化が本当に素晴らしい。
実際、さらに後半でバーに行った際、難破してきた男に涙ながらに「私は良い人だって言って」と話していますが、きっとそれこそが、ズタボロになったレスリーの本当の声なのでしょう。
危うさの中でそうした非常に薄いレイヤーを見せるライズボローには感服です。
モーテルのオーナーの一人であったスウィーニー。
彼が都合よく救い人のようでいる印象もあるにはありますが、しかしきっと、彼には怒りや怠惰、アルコールに淀んだ奥底にいる孤独な女性が見えていたのでしょう。
彼の温かさも、ただ盲目に親切ということでもなくて、映画全体のアプローチに沿っています。
人生を掃除し、再建する
今作はレスリーに寄り添う。
アルコール中毒映画ですが、その禁断症状やアルコールからの逃避ばかりに目を向けていない。
むしろレスリーの人格への影響だったり人間関係にフォーカスしています。
息子との流れはあっさりと終わり、ずるずると彼とレスリーの話にもならず。そのあとアリソン・ジャネイ演じるナンシーの家に行っても、やはりすぐに追い出される。
大事なのは彼女に対してのチャンスや行為があっても、アルコール中毒者がいかに嘘をつき裏切るか。その流れ。
メロドラマチックになっていくのは否めずとも、ある種の冷徹さはすごく脚本として効いていると思います。
レスリーは自分自身の人生を整理するように、掃除の仕事を始める。しみついた彼女への蔑視はすぐには取れなくとも、努力する。
そして息子の願いであった店のオープン。まさに新しいものを自分で作る、人生を再建することになっています。
アルコール中毒者映画ではありますが、そこに対して治療とかアルコール自体を主体にせず、影響を受ける人間たちを捉えるアプローチはおもしろい。
全てを束ねて持っていくアンドレア・ライズボローの演技も必見の作品でした。
今回の感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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