「ベル -ある伯爵令嬢の恋-」(2013)
作品概要
- 監督:アマ・アサンテ
- 脚本:マイサン・サーゲイ
- 製作:ダミアン・ジョーンズ
- 製作総指揮:スティーブ・クリスチャン、ジュリー・ゴールドスタイン、スティーブ・ノリス、フィル・ハント、コンプトン・ロス、クリストファー・コリンズ
- 音楽:レイチェル・ポートマン
- 撮影:ベン・スミサード
- 編集:ピア・ディ・キアウラ、ビクトリア・ボイデル
- 出演:ググ・バサ=ロー、サム・リード、トム・ウィルキンソン、エミリー・ワトソン、サラ・ガドン、マシュー・グッド、トム・フェルトン 他
こちらはイギリスに実在した、褐色の肌の令嬢の人生を映画化した作品。
監督はアマ・アサンテ。主演を務めるのは「女神の見えざる手」などのググ・バサ=ロー。また、ベテランのトム・ウィルキンソンも出演。
私は個人的にいつも参考にしているMark Kermodeさんがとてもオススメしていたのがきっかけで、海外版ブルーレイを輸入して鑑賞。
ググ・バサ=ローを知るきっかけになった作品でもあります。
今回久しぶりに観直したので感想を書きます。
~あらすじ~
18世紀イギリス。
海軍士官のリンジー卿は黒人女性との間に娘をもうけ、彼女は母の名にちなんでベルと名付けられる。
軍役でベルを育てられないリンジー卿は、ベルを叔父であるマンスフィールド卿に託し、ベルは彼のもとで育てられることになった。
褐色の肌をもつベルは、一家の子供であると認められているものの、社交面では同席を認められなかった。
ある日、マンスフィールド卿の見習いとしてやってきた青年ジョンから、奴隷船の裁判案件について聞かされる。
ベルとジョンは話を重ねるうち、お互いに惹かれていくのだった。
感想/レビュー
この作品は実話を元に、複数の要素を上手く織り交ぜながら、まとめあげられています。
その中心にあり、散漫にさせないのは、愛でしょうか。
実在の令嬢であるベルを中心に、彼女のロマンスを描きつつ、そこにはやはり大きく奴隷制と人種差別が描かれ、加えて私には女性の社会的地位(ある点では男性も)あまで見事に内包していると思います。
主役となるググ・バサ=ローのリードはすばらしかったと思います。
彼女には単なる被害者に止まらない部分を感じます。ベルの孤独がとてつもなく強いからです。
彼女は奴隷ではありません。したがって、同じ有色人種の仲間もいません。
一家の娘ではありますが、同じようには扱われず、この白人社会の社会階級に一人の囚われています。
ベルはどうあがいても、やはり褐色の肌をもつ黒人の母をもつ私生児。食事や社交においてずっと影に置かれてきたのですね。
ピアノを披露するシーンがありますが、本当にあの時まで、誰かに聞かせることもなく一人で弾いていたのです。
ググ・バサ=ローの演技から、緊張と何より恥ずかしさの中にある誇りが、色々なシーンで伝わってきました。
エリザベスとは姉妹同然ですが、しかしそこにはどうしても隔たりがあります。
私にはベルが鏡の前で顔をかきむしるシーンがとにかく辛かったです。物言わない素晴らしい演技で、どうしても変えられない肌を剥がしてしまいたいと呪うようなベル。
それが、「母の証」としてアイデンティティーのひとつとして誇る婚約破棄のシーンで逆転するのでこれもまた感動的です。
受動的でもなく、誰に指示されるのでもなく、”I have a tongue”「口はきけます。」と言い放つ力強さに圧倒される場面でした。
ただし、この作品は白人社会にいた褐色の肌をもつ女性だけにフォーカスしていません。先ほどいったように愛による結びつけが何より大切で私が好きなところです。
実際エリザベスや結婚相手を探す全員が、愛がないために結び付かないんですから。
そこもかわいそうなところであります。
息子も娘も一族の繁栄や資産増強の道具みたいなものなんです。一文無しなら不要、遺産の量が相手の価値。
ハッキリとしているぶんとても残酷で、エリザベスの悲しみもよくわかるので、単純な、白人は悪という構図に見えないバランスが良かったと思います。
まあ、トム・フェルトンが演じるキャラはウザいですけど。というか、彼はマルフォイの延長的な役ばかりでちょっとかわいそうですw
奴隷船の話と同じく、相手を資産にする社会。そんな中でジョンは、マンスフィールド卿からすれば夢を追いかけます。理想を。
結婚のシステムや、奴隷制という大きな枠組みでいえば、彼の願いは小さいでしょう。しかし、今作はそこにひとつ圧倒的に正しく美しいものを投げ込んでいます。
それが、身近な人を愛することです。
ジョンはベルを愛し、マンスフィールド卿も娘同然に大切にする。
そんな普通の小さなことが、大きな社会システムに打ち勝つことができるのです。
ともすれば、女性蔑視や差別そして隷属的な力関係そして争いなど、すべてに道を示してくれている作品であると思うのです。
身近な人を愛すれば、それがやがて社会を救う。
そんな美しいことってないでしょう。
アマ・アサンテ監督が描いたのは、過去です。家族の証として残しておく肖像画に、付き人や使用人ではなく、大切な愛する人として描かれていたベル。
歴史の証明を通して、社会変革の核になる愛を描いた本作は、ググ・バサ=ローの見事な演技で強烈な、そして幸せな感情をくれます。
私たちの過去が愛を持って乗り越えたのだから、私たちも愛を持てば障壁を乗り越えていける、そう思わせてくれる作品でした。
機会があればぜひ見てほしい作品です。今回は感想はここらへんでおしまい。
それではまた次の記事で。
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