作品解説

内気な青年の「愛されたい」という願望が、やがて制御不能な恐怖へと変貌していく姿を描いたロマンティックホラー。製作費100万ドル未満という低予算作品ながらアメリカで大ヒットを記録。
監督・脚本・編集を務めるのは、YouTubeで公開したスケッチコメディ動画や長編ホラー動画「Milk & Serial」で注目を集めた新鋭クリエイター、カリー・バーカー。
本作で劇場映画監督デビューを果たしていますが、初監督作から大ヒットを飛ばすこととなりました。
主演は、「クルーガー 絶滅危惧種」などの映画・ドラマ作品への出演に加え、アニメやゲームの声優としても活動するマイケル・ジョンストン。
ヒロインのニッキー役を、「スーパーマン&ロイス」のインディ・ナバエレッテが務めています。
キャスト
- マイケル・ジョンストン
- インディ・ナバエレッテ
- クーパー・トムリンソン
- メーガン・ローレス
監督
- カリー・バーカー
スタッフ
- 脚本・編集:カリー・バーカー
- 製作:ジェームズ・ハリス、ヘイリー・ニコール・ジョンソン、クリスチャン・マーキュリー、ロマン・ビアリ
- 製作総指揮:ジェイソン・ブラム、レオノーラ・ダービー、マーク・レイン、デビッド・ハリング、ルザンナ・ケゲヤン
- 撮影:テイラー・クレモンズ
- 美術:ビビアン・グレイ
- 衣装:ブレア・ジェームズ
- 音楽:ロック・バーウェル
新鋭監督のホラーがアメリカで超ヒットということで、かなり楽しみにしていた作品です。インディ・ナバエレッテも注目を集めていますが、これまでに出演作は見たことがなく初見。
早速公開週末に観に行って、朝の回だったのですが噂があってかかなり混雑していました。
~あらすじ~

孤独で内向的な青年ベアは、ひそかに想いを寄せる女性ニッキーとの距離を縮めたいと願っていた。
そんな彼が手を出したのは、願いをかなえてくれるという不気味なまじない「ワン・ウィッシュ・ウィロー」。
しかし、純粋だったはずの恋心は、やがて彼女への歪んだ執着(オブセッション)へと変わっていく。
自らの願いによって引き寄せられた想像を絶する惨劇に、ベアは次第にのみ込まれていく――。
感想レビュー/考察

噂に違わぬロマンティックホラーの秀作
北米での公開からの高評価で期待値が上がっていた作品ですが、噂通りのおもしろさでした。
ホラー映画は昨年「Weapons」があり、エイミー・マディガンのアカデミー賞の受賞などこれまであったジャンル映画の枠を超えて評価されるようになったと思います。
もちろん、古くからホラー映画は多くの点で非常に素晴らしい芸術のカテゴリですが、この作品もその列に並ぶことでしょう。
今作は基軸として恋愛における依存耐性をホラーに落とし込んでいます。
執着や嫉妬がつよいパートナーを相手に、怒らせないように、傷つけないように。恐妻家なんて言葉に恐いという文字が入っていますが、愛していても恐いものは恐いわけです。
一方で、男性の身勝手さと寓話的な自業自得の物語でもあると感じます。
そこは判断や受け方が分かれそうですが、私は愚か者が愚かな願いを叶えた結果、相応の結末を迎えたというおとぎ話のように受け取りました。
インディ・ナバエレッテが圧巻の存在感
まず、恐怖の面です。
今年度ベストセリフ賞を取っていきそうな”Staaaaaaay!”など、ヒロイン?のニッキーは見事。
演じているインディ・ナバエレッテは、アニャ・テイラー=ジョイ、フローレンス・ピュー、ミア・ゴス、キャスリン・ニュートンやサマラ・ウィーヴィングなどのホラー映画のミューズに並んでいくのかと思います。
ニッキーは活発で距離感詰めの魅力的な女の子です。ベアは惚れ込んでいる。
なので魔法(呪い)が効果を発揮して最高の彼女になれば素敵な人生、、、と思いきや、愛が注文と違う過剰供給。
インディは特に笑顔の作りが絶妙です。目が笑っていないのはよくある怖い笑顔ですが、なんだかマネキンのような無機質な人工感など、笑顔が恐ろしい。

「笑顔」はなぜ怖いのか
ここで考えられるのは、笑顔と恐怖の関係性。
ニッキーの笑顔は恐ろしい。
笑顔というのは喜びの感情表現ですが、実はホラーでは重要なモチーフですね。
笑顔そのものを恐怖のアイコンとした「スマイル」もあり、「パール」のラストで1分以上画面に見せられたミア・ゴスの笑顔も強烈な印象で記憶に焼き付いています。
監督はもともとコメディ畑にいたらしく、可笑しい→おかしい→異様→怖いと繋ぐのが上手いのかなと。
笑顔と恐怖は喜劇と悲劇が表裏一体であるように、きり離せないのだろうと、改めて思いました。
ニッキーの強さはなんとなく画面に映っていないところのほうが強かった気がします。今作が心底怖かったかといえば私はそうでもなく、ジャンプスケアはありますが全体に怖さはそこそこでしょうか。
むしろニッキーのブチギレやつきまとい具合には笑ってしまう勢いがありました。
でも可哀想なんです。ニッキーは。それはベアの方を見ていってとにかく感じました。

ベアは「愚か者」の主人公だった
今回の愚か者の物語。愚か者はベアです。
まずOPで告白に練習をしていますが、それはいいとしてその本番で言い出せないところ。もどかしい。
ただそれなら内気だってことですみますが(ニッキーから「私のこと好き?」ってもうYES言うだけまでやってもらってるのにはぐらかすのは個人的にダメですが)猫の件が気になります。
彼は飼い猫を死なせている。
猫が届く範囲に、摂取において危険性がある薬品を置いておいた。
つまり、管理能力のなさだと思うんです。しかも、そこで嘆きつつもニッキーが飲みに誘ってきたら行ってしまう。
彼は自分の責任を押しのける。そして逃げる。
後半でニッキーが自傷行為をした際、周囲は止めに入り「ベア、お前なに座ってんだ。止めろよ!」と言われます。彼はそんな時でも恐ろしくて動くこともしないのです。
彼はとにかく傷つきたくない。それでも求めた。告白しないのは自分を守るためで、その一方でニッキーの愛を求めて。
とことん責任をとれない。ニッキーを変貌させてしまったなら、それ以上傷つけないように守るとか。究極の選択もすべき。でもできない。
このベアの行いは人によって感じ方が違うのは理解できます。大好きな誰かに、自分と両想いになってくれたらって願うことそれ自体は、よくあることだからです。
しかしベアは猫の件やその後のニッキーへの対応など、間違えていると感じ、私は愚者の自業自得の寓話であると見ました。

救えたはずなのに、救わなかった
終幕の畳みかけは見事で、まさにクライマックスという形ですし、今作でサラもかわいそうですが、さらに可哀そうなことになってしまったニッキーがようやく解放されるのは一つ安心。
もちろんあの諸々の大惨事と虐殺の責任を負わされ、人生がくるってしまうので最悪なんですけど。
このニッキーを途中で助けることもできた。一瞬だけベアに惚れこんだニッキーという別人格ではなく本来のニッキーが現れることがある。その際に彼女は言います「殺してくれ。」と。
その解放もできないのがベアというダメ男です。
結局、自分勝手に都合のいい理想の彼女という妄想を抱き、そんなものはないという事実をみせられておびえ続けた。
一途に思ってくれたサラの温かさに応えられず、ニッキーの状態が残酷な性的搾取と隷属化であると気づいても止めなかったこの、大人しい最低最悪の男は、相応の恐怖を体験し破滅にむかうのでした。
ダメ男ベア役のマイケル・ジョンストンの土盛り具合とかも素敵ですが、やはりニッキー役のインディ・ナバエレッテは名演をしています。
新しいホラーの秀作と共に、新ミューズを見る上でもお勧めの作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。


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