「ポッド・ジェネレーション」(2023)
作品概要
- 監督: ソフィー・バーセス
- 製作: ジュヌビエーブ・ルマル、ヤン・ゼヌー、ナディア・カムリッチ、マルタン・メッツ
- 製作総指揮: エミリア・クラーク、デビッド・ベンサドゥン、ポール・ネルソン、ジェイミー・マテウス=ティーク、ベニアミン・ミンク、エイドリアン・ポリトウスキー、ネッサ・マッギル、シエラ・ガルシア、ナタナエル・カルミッツ
- 脚本: ソフィー・バーセス
- 撮影: アンドリー・パレーク
- 美術: クレメント・プライス=トーマス
- 衣装: エマニュエル・ユーチノウスキー
- 編集: ロン・パテイン、オリビエ・ブッゲ・クエット
- 音楽: サーシャ・ガルペリン、エフゲニー・ガルペリン
- キャスト:エミリア・クラーク、キウェテル・イジョフォー、ロザリー・クレイグ、ヴィネット・ロビンソン、ジャン=マルク・バール、キャサリン・ハンター 他
近未来のニューヨークを舞台に、AIの発達した世界で《ポッド》という持ち運び可能な装置を使って赤ちゃんを育てる決断をしたカップルの物語。
主演は「ゲーム・オブ・スローンズ」でエミー賞にノミネートされた経験を持つエミリア・クラーク。彼女は本作で製作総指揮も務めています。
また、「それでも夜は明ける」のキウェテル・イジョフォーが共演しています。そのほか「ボイリング・ポイント/沸騰」のヴィネット・ロビンソンらが出演。
監督は、長編3作目となるソフィー・バーセス。デビュー作の「COLD SOULS」は日本未公開ですが、2作目はミア・ワシコウスカ主演の「ボヴァリー夫人」です。
実は予告すら見ることもなく、映画公開評の中で見つけて主演や舞台設定がおもしろそうで観に行った作品です。
公開週末でしたがそこそこの入り。
~あらすじ~
未来のニューヨークで生活するレイチェルとアルヴィー。
大企業ペガサス社は、持ち運び可能な卵型の《ポッド》を使った簡便な妊娠を提案していた。
ハイテク企業で働くレイチェルはこの新しい妊娠方法に魅了される一方で、植物学者のアルヴィーは自然な妊娠を望んでいた。
二人は赤ちゃんを《ポッド》で育てることを選択し、出産までの10ヶ月を過ごすことにした。
感想/レビュー
近未来SF作品では、結構ディストピア設定も多くある中で、しっぽりと私たちの今の延長にある舞台が描かれる今作。
地続きの世界には私たちがまさに今触れている技術が、ほんのりアップデートされる様が描かれ、決して遠い時代の人とも思えない人物たちが登場します。
ソフィー・バーゼス監督が作り上げたのはSFというジャンルにおけるとても興味深く、そして真っ当な倫理哲学の追求です。
そしてそれを春の暖かさの中で羽織るニットのような柔らかさと軽さで描き出してみせています。
今現在直面する議題に、技術的な挑戦を与えて議論を加速させることに、SF映画の楽しさがありますね。
今作はまさにそんなおもしろさをもっています。
近未来を手に取って感じられるプロダクションデザイン
私たちの今と切り離さずに感じられ、考えられるのは、もちろん人物の設定や悩みの部分もありますが、プロダクションデザインの素晴らしさが特に印象に残りました。
全てが淡いパステルカラーで整えられた世界。エッジがきいたものはなくて柔らかでラウンド。
OPですぐにレイチェルとアルヴィーの家がぐるっとツアーで見せられていきますが、スマート家電にオール電化がフル搭載された生活です。
たしかに近未来な自動化が見えますが(家の中にも自動ドアは良いね)、いきすぎていない。
AIのコンシェルジュが音声で反応しているのも、スケジュールされたとおりに食事やコーヒーが作られていくのも、今だってすでに私たちの生活に入ってきています。
スマートウォッチは身体に装着することでバイタルを測れますが、非接触でもできるようになるのは、想像がむずかしくありません。
家の設備についてのほかに、衣服もおもしろかったですね。レザー系はないけどウールはある感じもSDGsとか動物の保護が反映されててさりげない。
レイチェルが着ているクレイジーパターンというか、異素材ミックスのスーツが最高に好き。普通に欲しい。
ラペルとか腕とかでカラーが異なってるけど同系統のブルーラインで綺麗です。
人工知能との付き合い方
AIの生活への日りこみ方以上に、職場への入り込み方も自然です。
すでに現実でも、組織運営や人材管理にはAIが投入され始めていて、いろいろなソフトやアプリですでにAIによる働き方の統計データ化はされていますよね。
レイチェルの職場でも彼女の精神状態の判定や業務効率と生産性がいつも観測され報告されています。
ちょっとコメディ的な要素も持っている今作は、このテクノロジーの入り込み方にもおかしさと皮肉を交えて世界を作っています。
AIがことさらに目玉の造形になっているのも、ビジュアル的なグロさと、意味合いとしての”監視者”が合わさって秀逸。
セラピストの造形が巨大な眼球の周りに綺麗なお花が飾られているとか、結構狂った見た目でしたし。
実はこうしたユーモアはすべてSFに託した哲学に基づいています。だからただのネタってわけではないのです。
AIが生活を便利にする一方で、レイチェルの会社のように人間を管理する足かせっぽくもなる。向き合い方はやはり考えなくてはいけないのかもしれません。
人はどこまでをビジネスにしていいのか
一番の命題は出産というモノを商品化できるのかということと感じました。
一番人間としては商業化することに抵抗があろうものですね。すでに死に関しては葬式がありますし、安楽死もなんとなくですがビジネスになると思っています。
本人の意思決定権がありますしね。
それで出てきた出産。今作でレイチェルとアルヴィーが利用するペガサス社の技術は代理母のさらに延長みたいなもので、妊娠と出産自体をテクノロジーに肩代わりしてもらうわけです。
言及されていますが、ある行為は機械に代替させているのに、ある行為はそれを嫌がる。その線引きって何でしょう。誰がするのでしょうか。
女性の身体的な負担については、生理の時点から議論され、無痛分娩なども検討される中で、実際に妊娠と出産を肩代わりできるとしたら?
抵抗を示していたアルヴィーがどんどんポッドとの生活を楽しみ始めたり、効率的と思っていたレイチェルが母親になる準備に不安を感じたり。
その不安は妊娠という身体的なプロセスがないからなのか、別の理由か。
ビジネスになったことによって、ポッドつまり二人にとっての母体的なものを遠隔操作されるなんて皮肉も。(女性の身体の権利を男性が握っている現代にもすごく響きます)
そもそも女性の負担を~って言ってるペガサス社のCEOが白人男性なのもなんか現代から進歩できてない感じがあって毒がきいています。
結論を出すことに踏み込めていない
実際のところ、素晴らしい世界のつくり込みがありながらも命題について非常に広範囲に目くばせをしつつ、結論を出すことには踏み込まない印象があります。
ちょっと攻め足りないというか。もちろんポッド世代の誕生を観ることはゴールではあるのですが。
ただ主演の二人が接しやすい雰囲気とみている私たちと隔絶しない、親しめる悩みをうまく表現しているので、最後まで寄り添えるのは良いところでした。
私個人としては主演の二人が良かったことと、やはりプロダクションデザインですでに勝ってる映画だと思いますので、その辺気になる方は是非。
今回の感想はここまで。
それではまた。
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