作品解説

サム・ライミ監督が手がけるサバイバルスリラー。
舞台は逃げ場のない無人島。極限状態に追い込まれた男女2人の関係が崩壊していく過程を通して、人間の狂気と復讐心をあぶり出していきます。
密室劇のような緊張感と、ライミ監督らしいダークな演出が融合した新作です。
監督・スタッフ
・監督:サム・ライミ
代表作:「死霊のはらわた」、「スパイダーマン」、「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」
・音楽:ダニー・エルフマン
代表作:「スパイダーマン」シリーズ ほか多数のサム・ライミ作品
キャスト
- レイチェル・マクアダムス(リンダ役)
代表作:「アバウト・タイム 愛おしい時間について」、「スポットライト 世紀のスクープ」 - ディラン・オブライエン(ブラッドリー役)
代表作:「メイズ・ランナー」シリーズ
レイチェル・マクアダムスの主演ですが、あまりホラー映画のイメージのない彼女が、予告編から発狂して血まみれになっているので楽しみでした。で、監督はサム・ライミということでその様相にも納得がいきます。
なんかもともとはSonyのもとで2019年にはリリースの話があったらしいですね。しかしSonyがコロナ下でもあったことで配信公開を提案すると、サム・ライミ監督が断ったとか。
結局プロジェクトが点々として転がっている中で、劇場公開を約束する形で20 Century Studiosが配給をしたと。
公開週末に早速観に行ってきましたが、朝早い回だったのでそこまで混んではいませんでした。ただ、ホラーながらにも笑ってしまうようなシーンもあるので笑いも起きていましたね。
~あらすじ~

パワハラ上司ブラッドリーのもとで働く会社員リンダは、息が詰まるような毎日を耐え続けていた。
そんなある日、出張へ向かう飛行機が墜落。目を覚ました彼女の前に広がっていたのは、人影のない孤島だった。
生き残ったのは、リンダとブラッドリーの2人だけ。
重傷を負って動けないブラッドリーに代わり、リンダは持ち前のサバイバル能力で生き延びようと奔走する。
極限状態のなかで次第に立場は逆転していくが、それでも横柄な態度を崩さないブラッドリーに対し、リンダの胸に押し込めていた怒りと復讐心が静かに膨れ上がっていく。
感想レビュー/考察

無人島ジャンルの面白さと本作の立ち位置
無人島サバイバルものは一つのジャンルとして完成されている。
脱出がゴールであることが多いですが、ほかにも一緒に囚われた人間たちのドラマやサスペンスなんてものもおもしろい題材になることがありますね。無人島に行ってしまったとしたら、そこではどんな人と一緒になるのかってとっても大事。
漂流した際に新たな社会が築かれて、そこでそれまでとは全く異なるヒエラルキーが完成されますし、島に来る前のアレコレも、きっとそれぞれの人間関係に影響するでしょう。
そういえば、リューベン・オストルンド監督の「逆転のトライアングル」なんていう作品は、金持ち連中と掃除要員のおばちゃんが無人島へ流れ着くものでした。
そこでは、生きるために何もできない役立たずの金持ちたちの上に、掃除要員が君臨するというおもしろい無人島映画でした。
今作もどちらかといえばその、社会構造の変化というものが主軸になっています。
そしてサム・ライミ監督の新作ということで、そこにはやはりふんだんに死霊や吐しゃ物、血みどろの沼が盛り込まれています。さすが。
スリラーでありホラーでもあるんですが、じめっとしていなくて豪快で笑えるような作品になっています。

タイトルと宣伝が与える誤解
さて、予告編とか日本のタイトルが微妙なので、その齟齬の部分をちゃんと整理したいと思います。
タイトルに復讐と入っていて、そして予告でもパワハラ上司にリベンジしていく話っぽく描かれているのですが、それはちょっと違います。
作品の序盤、挙動不審と絶妙なダサさが痛々しいリンダは、確かに会社でバカにされています。そして新社長となったブラッドリーにも嫌われてしまう。
ただし、その会社でのパートは非常に短いのです。今作の舞台である無人島に行くまでがかなりスピーディで、そのために虐げられてきた女性が遣り返していくというには、そこまでのストレスがたまらない。
状況は観客も理解できますが、しかし、とことんリンダに感情移入して寄り添うくらいの入れ込み方をさせていないと思います。
実際に展開されるのは、パワーバランスのシーソーゲームでありリンダが善、ブラッドリーが悪というわけでもないんですよね。
なので、原題の”Send Help”の方がなんとなく意味は分かる気もします。まじめな役では救助を求む。みたいになるので、たしかに漂流したリンダとブラッドリーの二人にもぴったりです。
ただスラングというか慣用句的には「誰か助けて。」という意味になります。
それだと会社にいる際のリンダでも、無人島でのブラッドリーでも、いろいろな意味でとらえられる形になります。

極限状態が暴く人間の本性
手際よい無人島までの道の中で、今作の全体のテーマが感じられます。会社でのあれこれもそうなんですけれど、飛行機の中で期待破損していく中。
そこであのアホ野郎ドノヴァンをリンダが捕まえて助けようとする。しかし必死なドノヴァンはリンダの首を絞めてしまい、リンダはその手にフォークを突き立てることになる。
外で引っかかってるドノヴァンをブラインドを下ろして遮断する不謹慎ユーモアもありますが、このリンダの手を刺す行動は、”状況が変われば救いの手から殺しの手に変わること”を示していると思ったのです。
無人島に行ってから、この状況の変化が駆け引きのようにやり取りされていきます。ただただリンダがブラッドリーに仕返しをするという構図ではない。
だからこそおもしろく、そして笑ってしまうし笑えない。
力関係の逆転とシーソーゲーム
リンダが覇権を握るのはものすごくはやい。なにせブラッドリーは事故のケガで動けない状態が続くからです。
ただそこで、リンダはこの自分が優位に立つという世界の存続を望むのです。だから、途中で民間の船が通りかかった際に助けを呼ばずに隠れてしまう。
脱出そのものに主眼は無くなる。
そこからはリンダがいかに自分こそが価値ある社会を存続させ、そしてブラッドリーはこの自分が下層に置かれる社会からの脱却を画策する。
かくして二人は表層上は仲良くしながらも、そのカットバックでは実に分かりやすく同じフレーム内には収まらず。
居心地の悪い共同生活が始まっていく。

環境が人間を変えるというテーマ
全ては社会構造の転覆、変容で人間がいかに変わっていくかです。サム・ライミ監督はリンダをヒーローにしていないし、決して単純なリベンジ映画にもしていない。
これは誰にでも通じる題材だと思いました。
誰だって、自分が優位に立てる環境を望む。仕事でも友人仲間でも、家族でも。自分が偉くて、強くて、上位に位置づけられる組織を続けようとするはずです。
リンダは優秀な社員ですが、あのブラッドリーの会社のシステムでは下層に位置します。
それが無人島という社会では圧倒的な強者。だったら、なんでわざわざ弱者である会社=元の社会に変える必要があるのかということですね。
そんなリンダですから、倫理的にアウトなこともしていく。
レイチェル・マクアダムスの怪演
ですが、レイチェル・マクアダムスがとにかく楽しそうに血まみれになってげろ吐きまくって、抜けきらないチャームと美しさでスクリーンをいっぱいにしています。
これまでにあまり見なかった役どころの彼女。どちらかといえば可愛くて勝ち組女子をやっていたイメージがありますので、そもそもダメダメダサおばさん役なのもフレッシュです。
しかし、もっとおもしろいのは、サム・ライム監督の洗礼を受けての血まみれ、グロユーモアに染まったところでしょうか。
そこまでなるかよ笑と思ってしまいますが、肉を食いちぎったり目をえぐったり。悪夢とはいえまさに資料が登場するところなど、監督らしいお化け屋敷的な楽しさがありました。
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単純なリベンジを超えた奥行き
結局のメインテーマは環境と権威です。
リンダのリベンジは一つの要素。ブラッドリーが無能なドノヴァンをリンダの代わりに昇進させた。
それはリンダから見て不当で不平等で、復讐心を掻き立てるものだったでしょう。しかし、ブラッドリーからすれば間違ってはいなかった。
結局自分を立ててくれて、自分を気持ちよくさせてくれて。自分が勝ち組になり続けるには、そばに置くのはドノヴァンだということ。
無人島ジャンルでリベンジ映画ですが、もっと奥深く展開をしてくれて、そのシーソーゲームが楽しい作品。
見ている側が登場人物を俯瞰するだけではなくて、自分だって強者であるために環境を選んだりしていることを考え直させる深さがある映画でした。
レイチェル・マクアダムスの新しい側面が見えたことと、あのかわいらしさでもう47歳という頭がおかしくなる魅力が詰まってておすすめです。
今回の感想はここまで。ではまた。


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