「それでも夜は明ける」(2013)
- 監督:スティーブ・マックイーン
- 脚本:ジョン・リドリー
- 原作:ソロモン・ノーサップ 「Twelve Years a Slave」
- 製作:ブラッド・ピット、デデ・ガートナー、ジェレミー・クレイナー、ビル・ポーラド、スティーヴ・マックイーン、アーノン・ミルチャン、アンソニー・カタガス
- 製作総指揮:ジョン・リドリー、テッサ・ロス
- 音楽:ハンス・ジマー
- 撮影:ショーン・ボビット
- 編集:ジョー・ウォーカー
- 出演:キウェテル・イジョフォー、ルピタ・ニョンゴ、マイケル・ファスベンダー 他
実際に奴隷生活を体験した、ソロモン・ノーサップ氏の著書「Twelve Years a Slave」(1853)を基にした、アメリカの悪しき奴隷制時代を描いています。
2014年アカデミー賞作品賞獲得。これはかなり意義あることですね。よくやったアカデミー!
ルピタが助演女優、脚本のジョン・リドリーが脚色賞を受賞しています。イジョフォーは主演を「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013)のマシュー・マコノヒーに取られてしまいました。あちらも素晴らしいですし・・・難しいです。
監督のスティーブ・マックイーンはあっちのアクションスターのじゃなくて、「ハンガー」(2008)、「シェイム」(2011)を手掛けた方で、今作入れてなんと長偏は3作目!
いままでの3作すべて高い評価を得ているスバ抜けたイギリス人の監督です。もとは短編を専門にしていらしたようです。
アメリカの悪しき過去を真っ直ぐ描いて、しかも監督は黒人。それが作品賞ですからすごいことです。
ニューヨークで自由黒人として幸せに暮らしていたソロモン・ノーサップ。ヴァイオリン奏者である彼は2人の男に演奏会への出演を頼まれ会食。
しかし目覚めると鎖に繋がれ、奴隷として南部へ運ばれることに。
そこで農場主のウィリアム・フォードに買われ、その後冷酷でサディストのエドウィン・エップスに売られ、ノーサップは12年ものあいだ南部の奴隷として生きることになる。
なんといっても奴隷制の過酷さや暗さが目に入りますが、映画として物語力、ストーリーテリングの上手さが際立っています。
あえて序盤は時間軸を入れ替えることで、全体像が把握しきれぬままに奴隷になっている。このわけのわからない恐怖はノーサップ氏が感じた恐怖でしょう。
それを観客も体感するのです。
運びという点では印象的なノーサップの絶望シーンが秀逸。自由を失い失意に、怒りに飲まれたところで、心の支えのヴァイオリンをぶっ壊しますが、あえて壊すシーンはなし。
残骸を前にするノーサップにすぐつながり、しかもノーサップの顔を映さないという。彼の絶望すら、奴隷制の世界では音も立てないほど些細な、日常的なことだと示唆するようで、見ていてホントに心が痛いです。
画面作りも特徴的で、首つり(つられかけという一番惨い状態)の場面なんてその奥でほのぼのとした様子が移されるので、余計に異常性が引き立つと同時に、それすらこの時代は普通であったという恐ろしい真実が観ているものに襲いかかってきますね。
また長回しの撮影場面が、特に拷問シーンに多いです。もともとそれがリアル感を出すことに加え、とにかく痛々しさが視覚で十分すぎるほど伝わってくるので辛いです。
木の板でしかもそれが割れるまで激しく叩かれたり、皮膚が裂け肉が露出するまで鞭打ちにされるなど、長回しがとても効果的。劇場で観ていて心臓が何か刺されるように痛かったです。
話はもちろん奴隷制下での辛い体験が描かれるわけですが、自分はそれ以上に人の狂った姿を意識してしまいました。
一見優しそうなカンバーバッチ演じるフォードも所詮は奴隷制下の人間で、優しさはペットに与えるそれと同じようなもの。
ポール・ダノの意地悪な歌がフォードの聖書の朗読会にかぶって聞こえるあたり、フォードの「神の教え」の嘘が露呈するような演出でした。
心配しつつも手を貸さない。偽善。それはつるし上げられたソロモンを助けると思いきや放置する現場主任と同じですね。
そして今回の一番の悪役はファスベンダー演じるエップスです。奴隷を虐待することに快楽を得、惚れこんでレイプ、そのくせ保護は一切しないという究極のクズでした。
「オレの所有物に何をしようがオレの勝手だ」というように、倫理性も何もないです。でもその考えが奴隷制下では真っ当で法で保護もされていたのですから・・・悪法は恐ろしいです。
それがまかり通る世界では人間が壊れています。ここでの黒人たちは飼われることに喜んでいる。
だれもこの南部では疑問も持たず、正そうとも思わない。そこに悪があると考えることすらできなくなっているのです。
終盤のソロモン、一瞬こっちを見るんですよね。観客の方を。
私には現代の世界に警告しているように思えました。この映画を観て、辛いなとか昔はひどいと思ってるならそれは大間違い。奴隷制は今もある。より形を変えています。
ソロモン・ノーサップ氏が自分の声で、悪を書き、それが映画として今伝えられている。
私たちもまわりが狂い始め、悪法が生活を喰い始めたら、それを止めなければいけません。
この悲惨な時代はまだ残っていることを忘れずに、ソロモンの意志を受け取っていこうと感じました。
真面目な話人として観ておくべき映画だと思いました。
管理人は正直多くの日本人の自分でも気づかない差別的態度、発言が嫌いなのです。
寛容というか無知というか。間違った方向へ進みそうなとき止められるか心配です。
映画とそれましたね笑 とにかくおススメです。
それではまた次回。
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