「呪われた死霊館」(2018)
作品概要
- 監督:オーラフ・デ・フルール
- 製作:ブライアン・コフィー、ダニー・シャーマン
- 原作:エバ・コンスタントプーロス
- 脚本:ベン・ケタイ、エバ・コンスタントプーロス
- 撮影:ビャルニ・フェリックス・ビャルナソン
- 美術:ジェームズ・ラプスニー
- 衣装:ナンシー・マッケンナ
- 編集:デビッド・アーサー、ザック・クラーク
- 音楽:アル・ハーディマン
- 出演:フローレンス・ピュー、ベン・ロイド=ヒューズ、セリア・イムリー、スコット・チャンバース、ジョージナ・ビーバン、ジェームズ・コスモ 他
初期にはドキュメンタリー作品を多く手掛けてきたオーラフ・デ・フルール監督によるホラー映画。
偽物の霊媒師ビジネスをしてきた若者たちが、少女たちの惨殺事件のあった児童養護施設への依頼から、本当の恐怖に巻き込まれていく様を描きます。
主演は「ミッドサマー」や「レディ・マクベス」などのフローレンス・ピュー。
また「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」のセリア・イムリーも出演しています。
原題の”Malevolent”は「悪意に満ちた、敵意のある」といった意味になります。
イギリスの国内映画であり小さめな作品。日本での劇場公開はなくてNETFLIXでの配信公開だったようです。結構昔の作品にはなりますが、お勧めに上がってきたので鑑賞して観ました。
~あらすじ~
1986年のグラスゴー。大学生のアンジェラは、兄ジャクソンと彼の彼女ベス、エリオットと心霊現象の除霊を装った仕事をしていた。
しかし、彼らは心霊現象を捏造し、アンジェラに霊媒師の役割をさせて儲けていた。
ところが、ある依頼先でアンジェラだけが不可解な現象を目撃する。
驚くべきことに、母親も霊媒師だった。アンジェラは母の秘密を隠していた。
その後、祖父から母の悲劇的な過去を知り、傷つく彼女に新たな依頼が訪れる。
それは少女たちが殺害された児童養護施設の除霊だった。
感想/レビュー
88分という短さにTV映画的な(実際そうなのかも)構成とテイストから、そのコンパクトさと短さゆえにある程度退屈はせずに見ていられる映画。
ホラーというにはジャンプスケアも中途半端ではあり、実際怖いという感覚も薄らいでしまう映画でした。ガチガチにホラーで怖い思いをしたい方には向いていないですね。
むしろその辺が少し苦手であり、ライトな映画で良いならばこのくらいがちょうどマッチするかと思います。
やはり素晴らしいフローレンス・ピュー
この作品を観た理由は本当に、主演のフローレンス・ピューの存在だけでした。
彼女は結構、虐げられていたり恐ろしい目にあう、そしてそこには家族というモノが呪いのように存在する女性を演じています。
今でこそMCUも出ていて有名ですが、「レディ・マクベス」に「ミッドサマー」などは家族がらみの恐怖というモノも含まれていますし、快活で素晴らしい「ファイティング・ファミリー」もまあ家族映画。
何か苦しい想いを抱えつつ、愛を渇望したり孤独を抱えてしまう娘というところに、彼女は強い演技力を見せて観客を引き付けます。
嫌にならない程度に癇癪を起し拗ねて見せ、かといって突き放すでもなくて寄り添いたくなる。ここが見どころの俳優です。
その意味では兄に振り回されながら怒り、自分自身がなるべく触れないようにしていた母に自らが近づいていくところに焦燥を抱える様は良かったです。主軸に彼女がいるのは心強い。
また今作では(ネタバレしてしまいますが)悪人であるセリア・イムリーも冷徹かつ歪み切った母親像を振りかざすくそったれババアとして最高です。
霊の伝えたいことに悲哀がある
で、問題を抱えているのは全体のバランスというか打消しなのかと思います。
今作は2つの良いプロットを持っています。
一つは恐怖の真実に関するものです。
一般的に恐ろしいものとして登場し、邪悪で敵だとされる霊の真実。これはスペイン産のホラーなんかでも良く感じていて私は好きなものです。
霊がなぜ霊になっているのか、また彼らの目的が明かされるときに、怖さではなくて哀れみや悲しさがあふれてくる。そしてそこに真の邪悪が見えてくるのです。
心霊なら「マローボーン家の掟」や「MAMA」、また怪物では「バーバリアン」などがあげられるでしょうか。
今作も恐ろしい見た目をした少女たちの霊が登場します。この子たちは口を縫い合わせられた痛々しいルックで登場するのですが、実は被害者です。
一見すると霊の声に悩まされていたグリーン夫人が被害者と見えますが、真相は彼女こそが邪悪の権化であったのです。
で、その仕掛けが効果的に展開されたかというとそこが微妙。正直分かりやすすぎるからです。
子どもたちがあまり怖くないことも、逆に布石のためではあるのですが、グリーン夫人が不気味すぎること。
強大な母親像の恐怖
そしてそれはもう1点のプロットのためです。
母親という絶対像。
主人公アンジェラは霊能力に苦しんだ母の影を背負っています。彼女は自身も鼻血を流し霊を見るようになってその運命に恐れを抱いています。
そしてグリーン夫人は、母からの精神的、肉体的な虐待からゆがんだ心を持ち、その母親像から孤児院の子どもたちに残酷なことをしました。
邪悪さを受け継いでしまうという点でアンジェラとグリーン夫人が重なります。
まあアンジェラの母は別に邪悪ではなくて、ちょっとズレているのは気になりますけれど。
私としてはこの2つのプロットがうまくかみ合わせられなかったゆえに、たいして怖くない心霊映画であり、お決まりすぎるサイコパス(本当に怖いのは人間だ!)映画になってしまい、どことない退屈さがまとわりついて感じました。
終盤の無傷の兄を見て泣き崩れるアンジェラとか、演出も演技も好きなんですが、なんだかいろいろと惜しい映画でした。
フローレンス・ピューは素晴らしいですし、短くてサクッと観れるのでその辺ニーズあれば鑑賞してみてください。
それではまた。
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