「ボイリング・ポイント/沸騰」”Boiling Point”(2021)

「ボイリング・ポイント/沸騰」(2021)

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作品概要

  • 監督:フィリップ・バランティーニ
  • 脚本:フィリップ・バランティーニ、ジェームズ・カミングス
  • 製作:フィリップ・バランティーニ、ヘスター・ルオッフ、バート・ラスポリ
  • 音楽:アーロン・メイ、デヴィッド・リドリー
  • 撮影:マシュー・ルイス
  • 編集:アレックス・フォウンテイン
  • 出演:スティーヴン・グレアム、ヴィネット・ロビンソン、ジェイソン・フレミング、アリス・フィーサム、レイ・パンサキ 他

「Villain」に続く長編映画2作品目としてイギリスのフィリップ・バランティーニ監督が仕掛ける驚異の90分ワンカット映画。

主演は「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」などのスティーヴン・グレアム。そのほかヴィネット・ロビンソンやジェイソン・フレミングが出演。

今作は監督自身が、同じく主演をスティーヴン・グレアムで撮った短編の「Boiling Point」の長編映画化になります。

作品評は批評筋でかなり高く、BAFTAにも4部門でノミネートされるなど注目の高い映画として公開を楽しみにまっていました。

と言いつつも後悔した週末は時間が合わずに行けなくて、結局平日の朝の回で機会があったので観てきました。

平日朝といえどサービスデイだったりで結構混んでいましたね。

「ボイリング・ポイント/沸騰」の公式サイトはこちら

~あらすじ~

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イギリスはロンドンにあるレストラン。

人気の高級店として有名なここでも、最もにぎわうクリスマス前の金曜日に向けての緊張が走っていた。

オーナーシェフのアンディは妻と別居し、息子との絆を維持しようと努力しながら、毎日の切り盛りをこなす。

しかしその日は開店前に衛生管理の検査があり、そこで評価点を下げられてしまった。

さらにクリスマスシーズンの予約管理が甘く、予約過多のせいでスタッフたちも苛立ち一触即発。

とどめと言わんばかりに、ライバルシェフであるアリステアが急遽来店し、しかも有名な料理評論家のサラを連れてきているのだ。

私生活もフロアも厨房もカオスに見舞われた中で、心身の限界点に近づくアンディは、はたしてこの夜を乗り越えることができるのか。

感想/レビュー

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個人とプロの両面まで味わい深い地獄絵図

フィリップ・バランテイーニが繰り出した渾身のワンショット劇。

手持ちカメラの動きにやや慣れが必要ながらも、そこに展開される緊張感ばかりの地獄絵図には引き付けられ、振り回され、体が火照るのを感じる。

材料がしっかりと揃っている。一部にはややサイドドラマとしての付け加え感もあれど、全体の力強さはこちらの全身をがっしりとホールドしてくるものです。

ここで描かれているのはアンディのヒーローとアンチヒーローの物語。

個人的な物語とプロフェッショナルとしての物語は、アンディだけでなくそれぞれの人物に余すところなく用意されます。

何処をとっても個性という面での味わいがあり、また仕事をする上でのやり方や衝突、苦難の面での味わいもあります。

両面をくまなく見せながら、次々にカメラは追いかける対象を切り替えていく。

私は全体に好きです。のめりこみましたし、パワフルな映画だと感じました。

何度か見てもいいのではないかと思います。

全員を印象付ける構成、すぐに入り込める敷居の低さ

そこにはやや使い捨てのキャラというのもいる気もしますが、例えば若い男性は抱えるものの大きさが最後まで印象に残りましたし、支えていたおばちゃんの、職場でのムードメーカー感もそこだけで十分に色付けされます。

序盤のMTG後でのインスタ投稿、そこで立ち去ろうとするシェフ。

最初のスパイスがしっかりと後から効いてくるような仕掛けもあったりして反芻する。

この手の”ずっとやってきたチームのある一日”では、人物の関係性になれるまでに時間を要したり、なんだか知らないコミュニティにいきなり放り込まれた疎外感を受けることってありますよね。

そんな時は、何か感情的なことが起きても、まるで見知らぬ人の結婚式にでも来たかのような隔離性を感じる。

でも今作でフィリップ監督はこの点を自然にクリアしているのが素晴らしいです。どの人物も鑑賞後にどんな人だったか、何をしていたか全部覚えているのです。

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こんな人たち見たことある

クソみたいな客。絶対に何か起きそうなアレルギー持ちの客。嫌がらせに来たアリステリア。インスタグラマーのバカ。

それぞれにスタッフが対応し、双方の個人面と仕事面が伝わってくる。そしてその対応についてでも、今度はスタッフ側での意見もあったり。

どんな仕事をしていても、もちろん学校でもいいでしょうけど、現実にいるんですよねああいった人たち。

そこが映画の人物って感じじゃなくて、なんか生々しくて素晴らしいと同時に痛々しい。

ある人にとっての営業活動が、別部署から見れば意味の分からない遊びにしか思えず、”仕事しろ!”となってしまったり。

マンパワー不足が効率低下原因なのに、個人の力量を言われて頭に来たり。

あとやっぱりヴィネット・ロビンソン演じるカーリー。

ああいう有能でプレイヤーでありながらも管理職のサポがヤバくて実質マネジメントプレイヤーな人、大切にしましょうね。

ヴィネットの演技に関しても切れ味があり、いい人なのはにじみ出ながらも、やはり限界点を迎えている様がとても痛々しい。

ワンカット息継ぎなしの丸のみ感

ぶつかり合いもそのあとのそれぞれの感情処理とかも、生きている人たちの感覚が強い。背景を抱えていて、これまでもそしてこれからも道がある人物を眺めるのは良いものです。

こうした造形の細かさとそれを自然に並べて飲み込ませていく手腕。カオスでありながらもこうして実は巧妙に調整されているのはすごいですね。

また、個人的にはこのとめどない飲み込み。言ってしまえば一口で丸ごと食べる感覚が、ワンカットという選択から生み出されていると感じました。

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各役者陣がこの力強い人間たちを本物の形にしてくれていますが、主人公になるスティーヴン・グレアムは格別ですね。

映画開始時点から終わっている男。仕切るべきビジネスも厨房もフロアもし切れていない。家庭すらも。

頼られているのに判断を誤ってしまう。

きつい訛りで喋りまくるアンディは、悪人ではないが善人でもない。しかしワンカットの中でただただ崩壊に向かっていく、焦燥しきった彼を一貫性をもって演じきっているグレアムは圧巻です。

終焉に向かう中で人間が描きこまれる

この映画はある終わりを描いている。しかし物事は急には終わるわけではない。

終幕に集中した圧巻の流れに対して、丁寧にそこまでに何が起きているのか、どんな人がどんな生を歩んでいるのかを、現場のカオスを忠実に描きながら見せきる。

カットとはつまり切れることをより一層意識させるものです。ワンカットが長ければ長いほどに、観客はいつか切れる瞬間をより大きな緊張感をもって待つことになります。

どこで切れる、つまりこの物語は終わるのか。どのように終わるのか。

正直終わり方はある意味でこの物語設定から予想できるものであり少し期待はずれな気もします。

しかし、持続する緊張の中でただカオスを描くのではなく、人間を描いて見せてくれたことには脱帽です。

90分ワンカット。挑戦の作品ではありカメラワークからある意味振り付けと言っていい各自の動きまで素晴らしい。

このアンディの話自体が何か印象に残るのかといえば私は否です。でも登場人物全員の生を覚えていて、あるレストランのある夜を共に抜けていく満腹満足な映画でした。

映画館というある種の密室、途中停止のない環境で観るべき作品です。少なくとも配信の一時停止はNGですから、劇場でやってるうちにぜひ見てください。

というところで今回の感想は以上。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ではまた。

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