「人生は小説よりも奇なり」(2014)
- 監督:アイラ・サックス
- 脚本:アイラ・サックス、マウリシオ・ザカリーアス
- 製作:ルーカス・ホアキン、ラース・クヌードセン、ジェイ・バン・ホイ、ジェイン・バロン・シャーマン、アイラ・サックス
- 音楽:スーザン・ジェイコブス
- 撮影:クリストス・ブードリス
- 編集:アフォンソ・ゴンサベウス、マイケル・テイラー
- 美術:エイミー・ウィリアムズ
- 衣装:アージュン・バーシン
- 出演:ジョン・リスゴー、アルフレッド・モリーナ、マリサ・トメイ、ダーレン・バロウズ、チャーリー・ターハン 他
実は以前から気になっていたとかではなく、ちょっと前に劇場予告で観てからチェックした作品。アイラ・サックス監督作は初見です。
2014年と結構前の作品ですが、日本公開はずいぶん遅くなっていますね。待ってた人にとっては残念、まあ輸入盤で鑑賞しているかもしれませんが。
同性婚が認められたニューヨーク、同性カップルなどでホモセクシャル映画かと思えば、まあもちろんその要素はありますけど、非常に真摯にそして現実的厚みのある、人間が人間と関わることを描き出している作品でした。
あんまり人は入ってはいませんが、初めに言っておくと、
とにかくおススメ。
39年間連れ添いながら、やっとのことで念願の同性結婚を果たした、ベンとジョージのカップル。しかしジョージの働く学校は、キリスト教の観点から不適切だという理由で彼をクビにしてしまう。
せっかく一緒になれたと思ったら、住んでいるアパートを出ていかなければならなくなったのだ。
かくして二人は離れ離れ、二人で暮らせる部屋が見つかるまで、それぞれ親戚や友人の家に居候することに。
というわけで、お話としてはこのゲイのカップルが中心。しかし、多くの映画と違うのは、彼らが愛に目覚めるとか、偏見を乗り越えてゴールするとかもしくはそれに圧殺されてしまう悲劇とか、そういったものではないのです。
長年関係を築いてきた愛し合う二人が、一緒にいることと一緒にいられないこと、そしてその先までを着実な触感を持って描いています。
このベンとジョージの積み重ねてきたもの、それをしっかりと感じられる、非常に信じられる実在的な人間が登場します。それを観ているだけでも十分に楽しめるんです。
そしてこの二人だけでなく、その他に出てくる人物もとても現実味のある、厚みのある人間たちでした。
映画が始まってすぐに多くの人間が登場し、そして彼らには強いつながり、親戚だったり古くからの友人、交際相手など、第三者がすぐに理解するには途方もない積み重ねを多く持っています。そんな人が多く一気に登場。
まさに現実世界と同じく、放り込まれれば孤独を感じる。周りは既に仲良くなって、何年も仲間でやってきている、でも自分はよそ者。
そんな感覚を覚えていくんです。そうして浮いている人物を、カメラはちょっと寄り目で映し出しています。
ここでいつ、だれがフォーカスされるかが中々上手いところでした。始めは中心的だったベンも、次第に関係が擦れていったりすると、ポツンと浮いているように映されますし、ジョージはパーティ会場なんかではわかりやすく浮いていて、カメラは楽しそうな周りの人間にはフォーカスせずに、ジョージを寄り気味に真ん中に捉えています。
人間いつも仲良しではありません。序盤ではにこやかに何のしがらみもなかったベンとジョージもそれぞれの滞在先で色々な関係変化を経験します。
ここはまさに「知りたい以上に人を知ってしまう」というのが描かれていますが、同時に人と関わることの複雑かつ多大な要素が見事に織り込まれて流れていきます。
正直ここまで人間の相互作用を綺麗に描いていて驚きでした。隙があまりない。
気遣いゆえにたまるストレス、親しき仲にも礼儀あり、人の嫌なところだって見えてきてしまうし、思っていたのと違う人間味や性格も出てきます。
その微妙な距離感とか、意識のギクシャクした感じを、画面内に一緒に映らないとか、映っても端っこと端っこに離れていたりとか、直接言わずに伝えていますね。
それも俳優陣の演技の素晴らしさによって自然に、そして共感できるものになっています。マリサ・トメイの爆発と抑制の瀬戸際感とか本当に素晴らしいです。
織り成される人間模様全てが、自分自身生きてきた中で程度の差はあれど経験したようなもので、人と関わるってこう大変なんだよねってしみじみ思わされました。
人が人と関わり合うその関係、その中での良い部分も苦い部分もとてもよく描かれています。映画なのに、まるで実在の人物を記録したような。ドキュメンタリーとはまた違うんですが。
大事な人と一緒にいられなくなって、そして別の親しい人と一緒にいることになって。
つきつめていく本作は、人がいなくなってしまった後まで描き出していきます。
酷く当たってしまったまま、ベンとお別れしまったジョーイ。あの涙に本当にいろんな想いが詰まっているんだと思います。そうやって観てくと、なんだか人と関わるのが億劫にも見えるんですね。
なかなか折り合いをつけるのも大変で、気は遣うし、最後はやはり別れがくる。
ですが、それでも関係を築くって良いこと。ベンの言うとおりにジョーイは気になっていた女の子に声をかけ、彼女との関係を始めました。
既存の関係が多いこの作品内で、彼は新しい、一から始まる関わり合いを作ったのです。
その関係だってこれから先いろいろな変化はあるはずですが、それでもその新たな触れ合いは、眩い日の光がしめすように、明るく希望あるものになっていくはずです。
尺は90分ちょっとと短いんですが、なんていうか人生の総てがつまっているような。人と人っていうものが見せてくれる輝かしいものもほろ苦いものもひっくるめて、真っ直ぐ誠実に描いてます。
それだからこそ、提示するメッセージも信じられる。人との歩みが輝かしく愛おしいものであると心に響く、素晴らしい、いや大切な映画でした。
とにかくおすすめです。人との関わり合いが希薄になり、またいろいろな枷が多く感じる今、観るべき美しい作品です。
感想はおしまいということで、それではまた~
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