「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」(2025)
作品解説
- 監督:クリストファー・マッカリー
- 製作:トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー
- 製作総指揮:デビッド・エリソン、ダナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー、クリス・ブロック
- 原作:ブルース・ゲラー
- 脚本:クリストファー・マッカリー、エリック・ジェンドレセン
- 撮影:フレイザー・タガート
- 美術:ゲイリー・フリーマン
- 衣装:ジル・テイラー
- 編集:エディ・ハミルトン
- 音楽:マックス・アルジ、アルフィ・ゴッドフリー
- 出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、サイモン・ペグ、ポム・クレメンティーフ、ヴィング・レイムス、シェー・ウィガム、イーサイ・モラレス 他
トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズ第8作。1996年の第1作からおよそ30年続くシリーズの最新作であり、そして最終作といわれています。
これまでのシリーズでは1作で完結だった話が、今作は前作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング」と2部作として制作されています。
監督は「アウトロー」などでも組み、シリーズでは5作品目の「ローグ・ネイション」からずっとトム・クルーズと撮り続けているクリストファー・マッカリー監督。
ちなみにタイトルのファイナル・レコニングは”最後の審判”といった意味になっています。イーサンのこれまでの功績であり功罪が、積み重なった先に彼という人間への判決が出るということでしょう。
トム・クルーズによりミッション:インポッシブルシリーズも実に8作品目となり、今作で行ったんの終幕を迎えるような感じ。日本では先行上映ということでほとんど1週間前から公開開始していたようになっていて、都内の映画館では階数も多くやっているのでかなり盛り上がっていました。キャストや監督も日本に来てくれていましたしね。
私は公開週末にIMAXで鑑賞。やはり人気なので、人の入りも結構多かったです。
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~あらすじ~
AI「エンティティ」のソースコードの鍵を回収してから2か月後、IMFエージェントのイーサン・ハントとグレースは、かつてエンティティの代理人だった宿敵ガブリエルを追って潜入捜査を行う。
だが逆に捕らえられたイーサンは、ガブリエルから、ソースコードの中枢「ラビット・フット」がロシアの沈没潜水艦にあると知らされる。ガブリエルはそれを回収し、再びエンティティを支配しようとしていた。
イーサンは脱出後、仲間のベンジー、グレースと共にガブリエルの元副官パリスを救出し、CIAエージェントのドガとも協力。
一方で、エンティティは世界各国の核施設を襲いそれを掌握。このまま主要な核保有国の施設がエンティティの手に落ちれば、大規模な核戦争で世界は終末を迎える。
その際、エンティティ自身も保身のために南アフリカにある安全なデジタルバンカーへのアクセスが必要なことを知ったイーサンは、エンティティの捕獲のために奔走する。
感想レビュー/考察
シリーズ集大成ながら一つの物語の後半戦
ミッション:インポッシブルシリーズは子どもの頃から存在していて、まさか映画として同じ主人公で30年近くも続くものとは思ってもいませんでした。
シリーズであるスパイ大作戦を原作とはしているものの、原作にはそもそもイーサン・ハントがいないこととか含めて結構別物として展開してきました。
それが4作目の「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」あたりからチームケイパー物としての風合いが増されてきて、マッカリー監督が初めて手掛けた「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」では個人的には完璧な映画版スパイ大作戦に昇華されたと思っています。
そんなシリーズなんですが、ここにきて集大成。
もともとは別に終わらせるような意味合いはない感じでしたが、タイトルがデッド・レコニングpart2ではなく、ファイナル・レコニングになったあたりから、ひとまずのまとめ的な位置になることが明かされています。
前半半分はとにかく説明と回想が多いので正直・・・
今作はそんな位置づけにあるからこそ、ちょっと歪な構造をしているというのが最初の印象です。
まず、シリーズを観ていなかった人か、もしくは過去作を忘れてしまった人向けに結構な量の回想が入ってきます。イーサン・ハントが何を成し遂げてきたのか、過去作の映像も交えて、「今この世界を救えるのはこの男だけ」というのを何度か繰り返します。
そして2部作の後半だということもあって、前作の流れだったり今作のルールの説明がこれまた長く続くのです。多くの人物がちょっと必要以上に複雑な話と設定をくどくどと説明するんです。
各人物も数が多いんですが、それぞれのドラマや因縁についても結構回想映像やセリフが多くて。
誰もが感じると思いますが、今作は半分くらい説明パートになっていて、あまり大きな見せ場もない感じが続くので正直微妙というか、退屈だとすら思えてしまうんです。
敵の描写にはやはり物足りなさがある
もちろん、歴代のモンタージュ映像を眺めるだけで、このトム・クルーズと共に駆け抜けてきた時代を振り返るとファンならグッと来てしまうところがあります。これはズルですから。ほんとに長い間、アクション映画の前線でがんばっているシリーズです。
でも、作品としては歪んでしまうほど説明パートが長いのは辛かった。
詰め込みすぎたせいなのかここまで説明していてもけっこう脚本は破綻していたりしますし、おおざっぱな部分はやはりあります。私はキャラが出てくるときに、そういえばこの人いたなって思ってしまうところが何回かありました。
前作でも感じていた敵の魅力の物足りなさも続いていて、エンティティの描写については前作ではまだ人間へクイズを出すなどの演出もありましたが、より出番自体が少なくなってしまった印象。
またガブリエルは前作に続いて脅威さが足りない。。。このへんも煮え切らない印象があります。
何を見せるのか、それは観たことのないアクション
しかし、やはりミッション:インポッシブルシリーズというのは、トム・クルーズが魅せるアクション大作です。娯楽です。大スクリーンで観る驚異の映像体験です。
その意味で、劇中イーサンがある大胆な行動に出て以降は、あの潜水艦への潜入シーンに始まってとにかくフレッシュで観たこともない頭のおかしなアクションシークエンスを浴びるように楽しむことができます。
これがあるので、前半の中だるみ的な空気も洗い流されていき、観終わるころにはとりあえずいつもの「とんでもないアクションを観たぞ!」という感想に集約されるでしょう。
潜水艦の中でのシーンは、肝としては完全水没していないということです。
「ローグ・ネイション」でも大きな貯水槽へのダイブから、その冷却タンクの中でのカードキーをめぐるアクションシークエンスがありました。しかし、今作の潜水艦はものすごい大きさの戦艦でありながら、そのすべては水没していないので水のあるところとないところそれぞれでの脅威が感じられる。
しかも、肝心の潜水艦自体が横転状態なので上下左右がぐちゃぐちゃなのに、途中から回転しながら海溝を覗くがけっぷちに向かって転がっていくという始末。
アドレナリンが半端じゃなく、観ていて全身が緊張して疲れてしまう。
舞台装置としても複雑ですが、そこで展開されるアクションも癖があり、そしてそれに全身で挑むトム・クルーズや撮影クルー、さらに自らダイビングして水中で指揮を執ったマッカリー監督には感服です。
さらにもうひとつの山場として用意されている、2機のプロペラ飛行機でのドッグファイトと空中格闘戦。これも頭のおかしいことをしています。
トム・クルーズが遣ってることって、自分一人だけでプロペラ機を運転しながら、撮影しながら、演技しながら、ぶら下がって。分けわからん。
彼がなぜここまでしてくれるのか。映画というメディアにここまで命をかけてくれるのか。観客を楽しませることに夢中なのか。この人が生きる時代に、映画を撮る時代に生まれたことがやはり誇り。
これは是非映画館のしかもIMAXのド迫力が最適な作品。
それぞれのドラマが集約し、イーサン・ハントだからこその要素でAIに勝つ
話自体には支離滅裂さがありますし、終幕としてやるゴールが2つあったりしてるのもややこしいですけれど、しかしやはりハラハラします。イルサの面影を見るグレースを決して死なせないこと。
これまで殺しだけをしてきたパリスが、ベンジーを救うためにナイフを使い人を生かすことをする。そしてコソ泥であるグレースの手の良さこそが、このエンティティ捕縛のカギ。
最後はルーサーの形見ともいえるデバイスが活躍するとか、結構巧いことたたんでいます。
AIであるエンティティとの戦いは、スパイらしい思考では絶対に勝てない。損得や裏切りと謀略があるスパイの世界。その中でエンティティがなぜイーサンを最も危険視するのか。
それは彼が無謀な挑戦をして予測不能だからですが、それができる理由にあります。イーサンはずっと人を信じ続ける。
合理的ではない判断ですが、自分の正義や関わる人を守ることを優先し、それが世界の危機を救ってきた。だから、そのアルゴリズムで予想できないこのイーサン・ハントという男をエンティティはもっとも敵視するのです。
そして今回も、イーサンは人を信じたから勝ったのです。
すごく優秀な出来栄えの作品だとは思いませんけれど、でもやはり映画として何を求めるかというとアクション。その問いにはあますところないサービスで答えてくれるすさまじい作品でした。
これから先にもイーサン・ハントがスクリーンに登場するのか。それはちょっと厳しいような気もしますけれど、もちろん帰ってくるなら見には行く。
ひとまずこれで有終の美ということで、決して不満がなかったとは言えないものの、十二分な観たことのない迫力のアクションですべてを上書きする超絶力技映画として楽しめました。
今回の感想は以上。ではまた。
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