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「最後の追跡」”Hell or High Water”(2016)

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映画レビュー
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「最後の追跡」(2016)

  • 監督:デイヴィッド・マッケンジー
  • 脚本:テイラー・シェリダン
  • 製作:シドニー・キンメル、ピーター・バーグ、カーラ・ハッケン、ジュリー・ヨーン
  • 製作総指揮:ジジ・ブリッツカー、ビル・リシャック、マイケル・ネイサンソン、ジョン・ペノッティ、レイチェル・シェーン、ブルース・トール
  • 音楽:ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス
  • 撮影:ジャイルズ・ナットジェンス
  • 編集:ジェイク・ロバーツ
  • 出演:クリス・パイン、ベン・フォスター、ジェフ・ブリッジス、ギル・バーミンガム 他

「名もなき塀の中の王」(2013)のデイヴィッド・マッケンジー監督による作品。

アカデミー賞には作品賞含め4部門でノミネートし、ジェフ・ブリッジス、そして脚本のテイラー・シェリダン(「ボーダーライン」(2015)の脚本家ですね)はゴールデングローブやBAFTAでもノミネート。

監督作は「パーフェクト・センス」はハマらなかったものの、「名もなき塀の中の王」は個人的な2015ベストに入っていますし、期待していました。

しかし、これだけ賞レースに出ようが評価がよかろうが、日本では劇場公開はなく、Netflixの配信のみ。撮影面でもこれは劇場向きの美しい作品なのになぁ・・・

で、結局海外版ブルーレイにて鑑賞。テレビ画面じゃ本質は十分に発揮できませんが、それでも素晴らしい作品でした。

そういえば邦題は何を指しているのか不明です。原題は「何が何でも」というような意味で、分かるのですけどね。

アメリカ、テキサス。

トビーとタナーの兄弟は、入念な計画をもって銀行強盗を繰り返していた。誰も傷付けずに金を奪い、見事に逃走する。弟のトビーは賢いが、刑務所帰りの兄タナーは粗暴で、トビーは無茶をしだすのではないかと気をもんでいた。

そんな兄弟の銀行強盗の操作を担当するのが、テキサスレンジャーのマーカスだった。引退間近の彼は、相棒のアルベルトと共に兄弟の追跡を始める。

素晴らしい作品。おすすめです。

まとめていえば、コーエン兄弟の「ノーカントリー」(2007)のようにアメリカを描き出しつつも、美しい情景と魂を感じ、その苦さのために悲しく感じてしまう作品でした。

美しい情景が多く観れるというのは今作一つの見どころであり、ふと訪れる安息でもあります。

テキサスの広大な大地。開拓をし、自分の土地を持ち自立していくというアメリカの魂の部分に触れるのです。兄弟がふざけ合う背景の、どこまでも広がる土地。美しい日の光。

そういった本当に綺麗だなぁとうっとりしてしまう景色を合間に挟みつつ、今作はスリラーとしても配分よく進みます。

強盗シーンはその手際だけでなく、語りもタイトですごく良いものですね。トビーとタナーのそれぞれの人物背景としての語りが上手いと思います。

計画段階や兄弟の過去などをみせず、既に事に踏み切ってから少しづつやり取りの中で観客がくみ取る形です。後戻りできない状況で、次々に見えてくる、兄弟をここまでさせる理由は、人としてどうしても共感し納得してしまうものです。

そんな兄弟を追いかけるレンジャーのバディもすごく良いですね。平気で差別的発言をしながらも相棒を大切にするジェフ・ブリッジスのハマりっぷりは見事。

このバディのと兄弟のバディと観ていると、流れていく運命がすごく哀しくなってきます。

人物はとてもおもしろい人が多く、特に途中のレストランのばあさんには笑いましたね。

そして、今作内で勝ち組がいないのも印象的でした。全編通して、負け組と弱者の物語に感じます。

結局兄弟が銀行強盗をする理由が見えてくるころに、彼らが悪役ではなく、そして彼らが主役ならレンジャーが悪役という構図も成立しないと分かります。

この作品での悪役は略奪者。もちろん兄弟は強盗ですから、彼らが奪っているわけですが、彼らも略奪されそうになるものです。

途中の会話で、アルベルトは言いますね。「かつてここは私の先祖の土地だった。」

そしてカジノのテーブルでインディアンの地を引く男性と睨み合いになったとき、タナーは言います。「俺が何か分かるか?コマンチ(全ての者の敵)だ。」

かつてのインディアン、コマンチは白人に土地を奪われた。そして今度はその白人のトビーとタナーが、土地を奪われようとしている。

真の悪役として描かれるのは銀行です。

そしてそれは実態を持たない、絶対に倒せない相手。今や生存をかけて、かつてのインディアンと同じ状況に陥った兄弟が”何が何でも”次の世代を生かそうとする。

ここで雄大なテキサスの景色が皮肉さをはらみ、とても哀愁あるものになるんですね。

この広い大地、奪ってそして奪われる。

大切なものを守るために必死になる兄弟。クソ野郎でありながら、「愛している」と告げるときは、サングラスをずらししっかりとトビーの眼を見る兄貴タナー。

そしてまた、大切なものを奪われるマーカス。さんざん差別的な言葉を投げても笑っていたのは、それを許せるほどの相棒だったからでしょう。

トビーは自分の居場所を最後まで持てず、ホテルに泊まっています。それでも彼は、貧困の連鎖から息子を救い出せたと言いますね。

しかし、その連鎖以上に、略奪と憎悪の連鎖は続くのです。かつての先住民と白人と同じく、今や兄を奪われた弟、そして大切な相棒を奪われたレンジャーが残りました。

その苦しみと憎悪は消えることなく染みついています。

それがアメリカなのか。この土地の歴史なのでしょうか。

この2人が重荷を背負い、互いを敵として一生過ごす運命になったのも、彼ら個人に原因があるわけではないのです。ただこの土地、国がそうさせてしまった。

美しい景色と対照的に、あまりに哀れで苦しい生が見える作品。無力さすら感じる。

どの人物も好きになってしまうからまた辛いのですけども、綺麗な作品ですので、是非見てほしいです。マッケンジー監督、次にも期待です。

感想はこのくらいで。景色すごくいいから、劇場の大きいスクリーンで観たいなぁ。

それでは、また。

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