「スペアキー」(2022)
作品解説
- 監督:ジャンヌ・アスラン、ポール・サンティラン
- 脚本:ジーン・アスラン、ポール・サインティラン
- 出演:セレスト・ブリュンケル、カンタン・ドルメール 他
マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルでの配信上映がされ、今はアマプラでも観ることができるフランス映画。低所得者向けのアパートで家族と暮らしている少女が、夏の間バカンスで留守にする友人の家のスペアキーを盗んでその家で過ごした日々を映し出します。
監督はジャンヌ・アスラン、ポール・サンティラン。主演はセレスト・ブリュンケル。彼女はTVシリーズを中心に、映画の出演は今作時点ではまだ2作品目だったようです。
映画際ではなくてアマプラにあったので鑑賞してみました。
~あらすじ~
フランス東部の町ナンシーで低家賃の住宅に住む15歳の少女、ソフィー。
彼女は問題ばかりの家庭環境から逃げ出したいと思っています。ある日、夏が近づく中、旧友のジャドと偶然出会います。
ジャドはバカンスに出かけようとしており、ソフィーのジャドの豪華な家のスペアキーをこっそり盗んでしまう。
ソフィーが家族の喧騒から離れてジャドの部屋でくつろいでいると、ジャドの兄であるステファンが突然家に戻ってきた。
しかし、ステファンはソフィーを追い出すことなく、彼女が避難所として自由に出入りすることを許可した。こうして、ソフィーの思いがけない夏が始まる。
感想レビュー/考察
色彩やトーンが軽やかさを持つ
フランスの低所得者層を切り取る映画も着実に増えていきつつも、今作はカミングエイジのような青春の暖かさも感じる。
主人公はまだ15歳。もう少し上の年齢だったら、大人までの猶予がなくて仕事とか貧富の差とか、行き詰った自分の世界と人生にもっとシビアなことになっていたと思います。
それが今作ではちょうどまだあと少し背伸びをする余裕と時間的なゆとりがあるおかげで、そのあたりがシリアスになりすぎなくていいテイストでした。
このテイストは画面が持っている色の明るさだったり配色も関係しているのかもしれません。アパートの部屋の中やジャドの家、どこも汚いことはないし明るめのカラーリングになっている。それはみんなの服装も同じですね。
パステルというか蛍光もすこし入っているような彩度高めのカラーパレットで、今作の奥にある貧しい家庭などを少し抑えてエッジを落としています。
ソフィーとステファンが仲良くなっていって、一緒にキッチンに立つところとか、ソフィーの手際の良さも良いですが、二人の服のカラーが同じターコイズブルーやシアンでそろってるなど、関係性についても表しているようです。
2人の関係が離れるところとかでは片方がバーガンディで、もう片方がブルー系とか。この辺は調整しつつ、服の種類が少ない点などはソフィーの背景が反映されていて巧いとも思います。
ソフィーの家の事情から始まっていく作品は、小さな空間の中で騒ぎ立てる子どもたちと、それを世話しているソフィーを映しています。母と父はあまり関心を持たず、姉たちも忙しそうにしているか、家にいたくなくて遊びに行ってばかりか。
自分自身の居場所と、安らぎを得る
自分自身がまだまだ子供と言っていい15歳なのに、ソフィーは下の世代を世話している。なんなら、なにかと使いっ走りをしようとする上のしりぬぐいまで。
自分自身の時間もプライバシーも持てない彼女が、ついついとはいえジャドの家を勝手に使ってしまうのも無理はない。
生きづらさを抱えている彼女が少し夢見た世界で、自立という意味でのバイトとかちょっと上の世界の視野視点をもつステファンと交流していく。こういう大人の世界への足突っ込む感じって、幼いほど効きますよね。
ステファンも彼なりに孤独を持っていて、だからこそソフィーとはすぐに打ち解けていくのでしょう。ソフィーも彼とであれば自然で入れる。
でもほんとに上の世代の集まりに突っ込まれると、途端に居場所がなくて端っこの方に行ってしまうのも分かる。そこで変なのにちょっかい出されますがうまくかわす。
ソフィーが持っていたつながりのような、あのおばあちゃんを失うところがかなり切ない。
大きな海に出る手前に立つ
結局ひと夏の想い出とか夢幻だったかのように、封筒に入れられたお金だけが手元に残ることになるソフィーですが、精神の旅を経た彼女は小旅行ではあるがあのアパートを出て外へ行くことになります。
パリには行けないのかもしれませんが、外の世界や旅立ちを思わせる海に向かい、ほかの人とは違ってビーチでの遊びではなく、挑戦や自分の世界を広げることを見据えた彼女の目が印象的なラストです。
何かが起こっているかと言えば、そんなことではない。表面だけ見れば何も起きない映画です。ただ、15歳の少女にとって、ほんの少しでも今の場所から抜け出ていくための隙間が垣間見えたのだと思います。
海をうまく泳げるか、どこかへたどり着けるかは自分次第なのですね。
このタイプの少年少女の映画は多くありますが、ちょっとザラツキある撮影やカラーリングなど楽しめた作品でした。
今回はここまでです。ではまた。
コメント