「ボーダーライン」(2015)

  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 脚本:テイラー・シェリダン
  • 製作:モリー・スミス、ベイジル・イヴァニク、トレント・ラッキンビル、エドワード・マクドネル
  • 製作総指揮:エレン・H・シュワルツ、エリカ・リー
  • 音楽:ヨハン・ヨハンソン
  • 撮影:ロジャー・ディーキンス
  • 編集:ジョー・ウォーカー
  • 音響:アラン・ロバート・マリー
  • 出演:エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、マキシミリアーノ・ヘルナンデス、ジョン・バーンサル、ダニエル・カルーヤ 他

「プリズナーズ」(’13)で知られる、名前の読みにくいドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作。というか、英語圏ではデニスと呼ばれてますが(スペルはDenis)はたして正しい読みは?

様々なところで批評家、一般共に高評価を得ていまして、アカデミー賞では撮影、作曲、音響にノミネートされた作品です。

麻薬カルテルの最深部に切り込んでいく凄惨な内容で話題で、結構前から観たかったのですが、公開は4月になってやっとでした。

映画の最初に説明があるのですが、原題”Sicario”はメキシコで”刺客”の意味。そっちの方が全体の話として合っているんですがね。邦題は国境と善悪の境界線をかけたものになっていますね。

新作なのでそこそこ人はいましたが、R-15指定を受けているので満員ってほどではなかったです。にしても、指定の基準が良くわかりませんね。

「ヘイトフル・エイト」はR-18なのにこっちは15・・・違いはなんでしょうか?

アリゾナ州で起きたの誘拐事件の奇襲捜索が行われ、その隊員であるケイトも家に踏み込んだ。

目的の誘拐事件の人質はいなかったものの、その家の壁の内側からは何十体もの死体が発見される。そして納屋には爆弾が仕掛けられており、捜索しようとした警官2名が死亡した。

この家はメキシコ麻薬カルテルとつながりを持っており、今回の件でケイトは上司からの推薦を受ける。それは国防総省のマット・グレイヴァーのチームに加わり、誘拐事件の黒幕である麻薬カルテルの核、ディアスを捕まえるというのだ。

なぜ選ばれたか、どういった作戦計画なのか、ケイトは何も知らされないままに闇へと入っていく。

オープニングから最高の緊張感。扱う題材故に、かなり凄惨な現場は多いのですが、拷問シーンや殺害シーンというのは実は直接的には描かれません。

しかし、全編通して胃が痛くなるような、張りつめた緊張がすさまじい。奥底から震え上がらせ、目をそらし耳をふさいで痛くなるような。しかしそれがたまらないですね。

オープニング、映像が出る前から、真っ暗つまり闇から鳴り響く音楽。

ヨハン・ヨハンソンによるスコアがとても気に入りました。

地の底から体の芯に響いてくるような重低音の素晴らしさ。そして心臓の鼓動、人の悲鳴や金属の擦れるような音までおぞましくも、最高です。

ここは音響面にもリンクした作りがされていて、車のエンジン音やヘリの音、石や砂を踏む音から響く銃声まで。スコアとリンクしたような作りも見事です。

その他にも、撮影の妙はありますでしょう。ロジャー・ディーキンスによる撮影は今回緊張感に一役買っていますね。

ケイトにくっついたカメラ。車内からのカメラに搾った、同乗している感覚。そして逆に警察の荷台の上にカメラが行けば、車が跳ねるときの感覚も体が外に出ているときの不安も感じます。

ふと画面に銃が映りこんでいたり。ゴムのところもそうですが、ピントを合わせずに、重要なものを画面に転がしこんでいるのです。

ちゃんと目を開いて気を付けないと、”刺客”にやられてしまうというのを、画面的に伝えているように感じました。

ヘリを追ってのショットとか、街を映すときとか、かなり遠くからの景色みたいな捉え方をしていて、フアレスの街で何が起きているのかが分かりにくくされ、ケイトたちが実際に感じる、状況のつかめなさとシンクロしているという感じも巧いです。

演出面では、言語をしっかりと分けているところも良いと思いましたね。

メキシコのスペイン語と英語を人物たちは片方もしくは両方を使い分けているんですが、言語をしっかりとわけることで、何を言っているのかわからないという怖さ、そしてわかってしまう怖さというのが際立ってきます。

ケイトはスペイン語はわからないようで、作戦会議でも、任務中の会話でも把握できていませんでした。

そして最後の襲撃シーンで、始めは子供に英語がわからないからと英語で会話していましたが、奥さんはわかっているようでものすごく怯えていましたし、最後の「オレは恨んでる」だけスペイン語で言うっていう意地悪さまで、徹底して言語をうまく使っていました。

演技の良さもありますよね。エミリー・ブラントはたくましさの中に少女的な顔ものぞかせるし、デル・トロはやはり眼。

虚ろというかそれでいて目的のために突き進む強さもあります。射撃がうま過ぎてしかも誰の味方かわからない、カッコよすぎです。

ジョシュ・ブローリンのイかれっぷりは見もの。サンダル、すぐ靴脱ぐ、子供みたいな男。しかし「顔を潰すのは良いね。何発殴っても目立たないしな。」とか笑っちゃうくらいオカシイ。

各人物のちょっとした描写が気持ちよく織り込まれていて、ケイトのチームメンバーであるレジーの衣服に関する台詞とか、各人物の価値観がどうなっているかなどをさらりと見せてくれます。

獣の街、そこには正義も何もない。人を道具として使い、残酷に始末する相手には同じ手を使うしかないのでしょう。ケイトは参加自体も利用されていた上に、囮にされる。

無法地帯と変わらない殺戮、個人的な復讐。狂いすぎているというのが本音でした。ケイトと同様、知らない分からないという恐ろしい感覚がつきまとい、どこまで深いのかもわからない怖さ。

ケイトはただ、アレハンドロの言うように、オオカミではなかったと悟ります。このオオカミの世界に生きる者ではないと。真の主役、オオカミでありそしてシカリオ/暗殺者であるアレハンドロはもはや悪とかの概念を超えて恐ろしい。

メキシコ麻薬カルテルとそれに対処するということ。それがどれほど倫理を捨て去った残酷で容赦ない世界なのか、そのなかに加わることさえ難しい。私たちは今何と戦っているのでしょうか。わからない、それが一番怖いことですね。

音楽、演技、上質なスリル。ヴィルヌーヴ監督はまた空気を吸わせる体感映画を作り上げたと思います。

とにかく見せ方が素晴らしいと思いました。映画館のなか、胃薬片手にご鑑賞を。お勧めです。

こんなところでおしまいです。それでは~

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