「Pearl パール」(2022)
作品概要
- 監督:タイ・ウェスト
- 脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス
- 製作:タイ・ウェスト、ジェイコブ・ジャフケ、ハリソン・クライス、ケヴィン・チューレン
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音楽:タイラー・ベイツ、ティモシー・ウィリアムズ
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撮影:エリオット・ロケット
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編集:タイ・ウェスト
- 出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ 他
タイ・ウェスト監督により生み出された、古き良きスラッシャー映画への愛に満ちた作品「X エックス」。
そちらの本編でもすでに予告されていた、殺人鬼パールの若き頃を描く作品。
主演は前作に引き続き「サスペリア」などのミア・ゴスが努めています。
A24配給作品としては初めてのシリーズものになっており、今作の次には「MaXXXine」の公開が予定されています。
今作は前作とほとんど同時進行で撮影が進行されていたそうですね。脚本には主演を務めているミア・ゴスも参加しています。
はじめは白黒予定だったそうですが、A24側の意向や話し合いの中で、今作のようなカラー作品になったとのこと。
前作がかなり楽しめたので楽しみにしていましたが、公開週末には行けず。そのあとで平日に行ってきました。
さすがに昼頃の回ともあってか、そこまで混んではいませんでした。
~あらすじ~
1918年。田舎の孤立した農場で、病気で動けない父の看病と母の家事の手伝いをしているパール。
彼女はいつか大スターになって映画でダンスをすることを夢見ているが、厳格な母はパールが遊びに外出することすら許さない。
戦争に行ってしまった夫のハワードを待ちつつ、家畜の世話をして過ごすだけの日々。
ある日パールは父のための薬を買いに町へ行き、映画館へ立ち寄る。
そこでダンスシーンに魅了され、さらに映写技師の男と出会う。
パールの中では農場から抜け出したい気持ちが強まる一方だったが、母はさらに束縛を強めていった。
感想/レビュー
アメリカ黄金期映画への愛
タイ・ウェスト監督って映画めっちゃ好きですよね。
前作では「悪魔のいけにえ」だったりを主軸にしつつ、多くのスラッシャーホラー映画への愛情たっぷりでした。
今作でも映画史への愛はふんだんに感じられます。
アメリカ映画黄金期と呼ばれるような、30後半40年代などにも感じるようなテイストを持っています。
「X エックス」における色彩から全体のトーンも変えられおり、彩度も明度も明るいですね。ややざらついていてかなり牧歌的な画面の中、キャスト紹介やタイトルのフォントまでもこだわっています。
そして対比的に映される(タイトルショットなんてギャグです)ホラー描写が効いていました。
私としては実は、この一連のOPで感じられる空気感こそ、作品そのものを現していると思います。すべては滑稽で明るくて哀しくて恐ろしい。
全部が詰め込まれているOPはすべての集約点だったと思います。
無垢な恐怖
やはりホラーなので、もちろん観客としてはハラハラする感じとか、嫌な予感は絶えず持ち続けるようになっています。
しかしその緊張感の中には、押し殺されていくある一人の女性の悔しさや悲しさ、怒りがあります。
狂ったような暴力性、性的な衝動。
パールが動物に近づくたび、彼女が鍬を手に取るたびにドキドキしつつも、根底にあるパールの想いを理解できるため、目の前の恐怖に対しても嫌悪感は抱きません。
なぜならその根底には本当に無垢な想いを感じ取れるからです。
感情があっちこっちに揺さぶられて、そのおかげもあって食い入って観ることができる。
全力投球のミア・ゴスに釘付け
その中心にいるのは間違いなく素晴らしいミア・ゴスなのです。
悪意のない悪というか、いやらしさがない。純朴な少女でありつつも、決定的に世界とは異なっている異質さ。
怒り始めたときの”ヤバい女”感が絶妙すぎて正直ミア・ゴスが怖く感じるほどでした。
クライマックス近くの語り。だいたい何分くらいのワンカットなのでしょうか。圧巻でしたね。
あらゆる感情が体という入れ物から溢れてしまい、顔からこぼれ出る。
恐ろしくもありながらパールを見捨てられないのは、彼女にこめられている抑圧された女性像、若い世代の悲鳴があるからです。
彼女の語ること。それは誰しもが共感してしまえる。その点は怪物に共鳴する前作「X エックス」にも通じるところです。
欲望に忠実な正直さ
私は正直な作品が好きです。パールには誠実さがあります。
ホラーですが、ドラマ的です。時代や環境に翻弄されて、自由が利かないこと。
ただただ過ぎ去っていく自分のプライムタイムに対しての焦りや周囲への羨望。
母に対しての怒りに関しても納得いきますが、一方でパール自身が自分がおかしいことに対しても恐ろしさを感じているのも切ないところ。
ちなみに母の発言である、「娘を見るたびに自分にはなかった自由や可能性を感じて腹が立つ。」は正直にもほどがあって最高です。
どこかで何かをあきらめているから、普通の人である。あきらめない純粋な心が、もしかすると聖人か悪魔を生むのかもしれません。
パールにかかわる狂気と切なさは、「何がジェーンに起こったか?」に通じるものがあります。怖いだけでなくて悲しいモンスター。
全体のプロダクションデザインの色彩から収めていく撮影、ミア・ゴスの吸引力抜群の演技、それぞれがそろって非常にバランスのいいユニークなホラーが生まれています。
この作品だけでも見事ですが、間接的に「X エックス」の描きこみが濃くなっていたりと素晴らしいですね。
ミア・ゴスも脚本参加など、ホラーのミューズ的な位置以上に映画人としていろいろと期待したいです。
ということで感想はここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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