「猿」(2019)
- 監督:アレハンドロ・ランデス
- 脚本:アレハンドロ・ランデス、アレクシス・ドス・サントス
- 原案:アレハンドロ・ランデス
- 製作:フェルナンド・エプスタイン、アレハンドロ・ランデス、クリスティーナ・ランデス、サンティアゴ・A・ザパタ
- 音楽:ミカ・レヴィ
- 撮影:ジャスパー・ウルフ
- 編集:テッド・ガード、ヨルゴス・モヴロプサリディス、サンティアゴ・オテガイ
- 出演:ソフィア・ブエナヴェントゥーラ、モイセス・アリアス、ジュリアンヌ・ニコルソン、カレン・キンテロ、ローラ・カストリジョン 他
第16回ラテンビート映画祭上映のコロンビア作品。
僻地の鉱山にて人質の監視任務にあたる8人の少年少女部隊を中心にしたスリラードラマです。
監督はアレハンドロ・ランデス。今作はすでに数々の映画祭にて賞を獲得しているとのこと。2020年のアカデミー賞にも、コロンビア代表作品として出されるようです。
個人的には全然知らない作品でしたが、映画祭ラインナップにてあらすじがおもしろそうで観てきました。
土曜日ではありましたけれど、正直アナ雪2がすごくてかすんでましたね。LBFF常連さんとか映画ファンしかいなかったかと。
人里離れた山の上、軍隊により組織された少年少女の部隊がいた。
彼らの任務は、人質として勾留されている米国人科学者の監視である。
とはいえ、軍本部からの伝令が来るのは頻繁ではなく、自分達のルールや習慣を作り、マシンガン片手にもて余す時間を過ごしている。
しかしある時、ふざけて乱射した銃で、預かっていた牛が死んでしまう。
責任問題となりその重圧に耐えかねた隊長は自殺してしまうのだった。
そこから、彼らは独自の組織として混沌と言える狂気の秩序を形成していくことになる。
コロンビアからの少年少女中心とする組織崩壊映画ですが、「蝿の王」と「地獄の黙示録」が組合わさったような狂気の作品でした。
それら恐ろしさを、雄大すぎる自然背景を置き飲み込ませてしまい、どこか美しいと感じさせる力も持ち合わせています。
実際に映し出される自然風景、山々に雲海、ジャングル、川、水中映像まで含めて残酷な現実と対比するかのように美しいです。
あと終盤で激流に飛び込み、流されていくのですが、あれスタント?といっても危険ですね。よく撮ったなと。
また忘れてはいけないのは、今作の音楽。
一度聞けば耳から離れないスコアですが、こちらなんと「アンダー・ザ・スキン」、「ジャッキー ファースト・レディ最後の使命」のミカ・レヴィが担当とのこと。
さすがですね。非常にユニークで聞いたことの無いサウンドです。
なんというか、心の深いところから本能を呼び起こすような。
ちょっと不協和音なのに掻き立てられクセになる素晴らしい音楽です。
集団形成されていながら、ほとんどスーパーバイズもなく世界から隔離された未成年が成長していく方向とは。
疑念や執着、嫉妬にかられはじめ、人としては完全に間違った方向へと突き進みはじめる。
しかしその実、見事なまでに意思疏通し、伝統や習慣を形成していき、圧倒的な秩序すら作り上げるおもしろさ。
人と獣の違いはそこにルールがあるかとよく言いますが、今作はそれを揺さぶってくるわけです。
後に隊長となるビッグフット(モイセス・アリアスはあの「キングス・オブ・サマー」のビアジオです。ビックリ。)は導き手の無い中で狂気の筆頭として台頭します。
その奔流は周囲を飲み込み、さながら川の流れと同じく高山からジャングル、果ては人の暮らす地へと押し寄せていくのです。
彼らを描くバランスも見事に思えます。
誰かが特殊だとか、特定の少年/少女こそ主人公であると示さないのです。
OPすぐに整列した際に、フォーカスを一人一人に切り替えて焦点を当てていましたが、まさにその手法通り。
それぞれに個性があり観客は彼ら一人一人のパーソナリティを知っていくものの、この一人が正しいとか物語の主軸だとかは明確にしません。
少年少女それぞれを見せながらどこか主体がないのは、コロンビアの若者を象徴するからなのかと思います。
彼らは皆、戦乱、恐怖、暴力により変化する、せざるをえなくなる。
次は自分が死ぬという恐怖などから、行動を起こしていくわけです。
細かな説明もなくただ部隊として組織され、生死をさまよう戦闘に放り出される。
大人たちというのはわずかしか出てこなくて、本来は子どもを囲うはずの枠すら存在しない。
外縁が混沌に囲まれ秩序のない恐怖の世界であれば、順応した狂気の秩序の出現も納得できます。
彼らが悪いわけではない。本当はふともらすように「テレビに出て踊りたい」という純粋な夢を持ち、人を鎖でつなぐ行為に涙する心を持っているのです。
コロンビアの事情、若者に詳しいわけではないですが、これは絶対の寄り処や安定基盤のない中からの叫びに思えました。
だからこそ、ラストカットで真っ直ぐカメラを、観客を見つめるロッキーにドキッとしました。
その眼差しは助けを求めるようにも、こちらを非難するようにも、そして狂気が親に会い歓喜するようにも見えます。
下ってきた流れも、その源流は私たち側にあるのでしょう。
かなり強烈な作品。
撮影や音楽の力強さも堪能でき、観れて良かったです。
劇場向きだと思いますし、一般公開の機会も期待したいです。
感想は以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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