「ガンパウダー・ミルクシェイク」(2021)
作品概要
- 監督:ナヴォット・パプシャド
- 脚本:ナヴォット・パプシャド
- 製作:アレックス・ハイネマン、アンドリュー・ローナ
- 音楽:フランク・イルフマン
- 撮影:マイケル・セレシン
- 編集:ニコラス・デ・トス
- 美術:デヴィッド・ショイネマン
- 衣装:ルイーズ・フログリー
- 出演:カレン・ギラン、レナ・ヘディ、ミシェル・ヨー、アンジェラ・バセット、カーラ・グギノ、ポール・ジアマッティ、クロエ・コールマン 他
「オオカミは嘘をつく」などのナヴォット・パプシャド監督が、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」などのカレン・ギランを主演に迎えて送るポップバイオレンスアクション。
主人公である殺し屋サムを演じるカレン・ギランの母親役には、「ファイティング・ファミリー」などのレナ・ヘディ、その他ミシェル・ヨー、アンジェラ・バセット、カーラ・グギノ、ポール・ジアマッティが出演。
またサムが匿うことになる少女は「ビッグ・リトル・ライズ」で注目を集めたクロエ・コールマンが演じています。
イスラエル出身のナヴォット・パプシャド監督の作品って見たことがなかったのですが、もともとホラー畑からの出身のようですね。
監督自ら脚本も務めていて、共同執筆しているエフド・ラヴスキは今後のナヴォット監督の新作”Once Upon a Time in Palestine”(原題)でも組むようです。
ポップな予告編を前に観てから、カレン・ギランがついにアクション主演に抜擢とのことと、ほかの俳優陣の豪華さにも惹かれていて楽しみにしていた作品。
公開週末の土曜日、お昼過ぎの回にて鑑賞してきました。
地元の小さめの劇場で観たのもあるのですが、満員に近く混んでいました。
~あらすじ~
12歳で母と別れ、”ファーム(会社)”と呼ばれる裏組織にて殺し屋として活動してきたサム。
凄腕の彼女はいつものように男たちの騒動や失態の後始末を行うが、ある仕事を任された際に巻き込まれた少女を匿ってしまう。
結果として彼女の始末した相手が犯罪組織幹部であったこと、また少女をめぐってファームの資金が消えたことから、サムはあらゆる方向から狙われることになった。
刺客たちを潜り抜けていくサムと少女エミリー。
孤立し窮地に立たされたサムの前に現れたのは、なんと十数年ぶりに再会することになる母だった。
3人はあらゆる銃火器を扱う秘密の基地になっている図書館を訪ね、そこでかつて殺し屋であった3人の女性司書の協力を得て、追ってくる組織を迎え撃つことになる。
感想/レビュー
ネオンライトに照らされた、グラフィックノベルのようなバイオレンスアクション
決して感情の惹きつけや人物のドラマの掘り下げが上手いわけでもなく、というかそのへんはあってないようなものではありますが、この作品のルックからそちらを期待されている方はほぼいないと言っていいでしょう。
逆に言えば、期待している方向でちゃんと伸びていこうとする作品でした。
隅々までがカラーリングされているかのように、その時々での色彩というか色数的ディテールが塗り込まれている画面でした。
用意されている舞台としても、ダイナー、真っ白がきついくらいで血が映える病院、ネオンカラーに包まれるボウリング場さらに図書館と多彩であり多様。
普通の場所に実は殺し屋界の専用施設の機能があったりと、アクション性の部分や世界観の設定共に、「ジョン・ウィック」シリーズと比べられるかもしれません。
たしかに参考になっている気もしますし、世界観のつくり方とか置き方は似ているのかもしれません。
しかしポップさとバイオレンス加減については私は「キック・アス」の系統に連なっている気もする映画です。
序盤におけるもったいぶった表現やノワールを意識するような部分は正直言うとダサさとクールさの境目を危ういバランスで渡っていたように思います。
図書館でのサムと司書3人のやり取りのあたりについても、キャラクター感が強すぎるというかややバカげて見えてしまったのは本音です。
ただ全編を通していくと、絶え間なく続いていくアクションと痛々しいというよりは豪快なバイオレンスのテイストは加速度的にうねりを上げていき、愛着がわいていきました。
体術と表情の豊かさあるカレン・ギラン
やはり主演のカレン・ギランの素晴らしさをもってしてでしょうか。
彼女はもちろんアクションにおける身体能力の高さとか、その長身によるスタイリッシュな佇まいも素敵です。スカジャンも似合ってててカッコいい。
加えて愛を渇望する幼さみたいなものもその表情に見えるのが私は好きです。
しっかりと容姿は大人になりつつも、なんだか拗ねた子どもみたいな空気を漂わせていて可愛らしい。
今作ではあまりドラマ性を求めても仕方ないのですが、カレン・ギランのふくれっ面ひとつでそこはカバーしてしまうくらい魅力的です。
ネオンライトバックにシルエットで戦う横スクロール先頭のボウリング場は、「007 スカイフォール」や「ジョン・ウィック」を彷彿とさせますが、アクションの創造性について病院での両腕マヒ状態の戦闘など工夫があります。
ちょっとコミカルにもなってしまう演出で、バイオレンスを出しつつも凄惨にならないテイストが楽しめます。
創意工夫のアクション
個人的にはカーチェイスという点において、路上チェイスではなくて駐車場という狭い空間においての追走劇を繰り出した点も評価したいところ。
途中で隠れるためにふとライトもエンジンも落とすところ、「ドライヴ」を彷彿とさせる感じです。
どうしてもハイテンション一辺倒になりそうなカーチェイスというところに、緩急要素をつけてくるのも楽しませる技巧として良かったです。
あのシーンはサムとエミリーがそれぞれアクセルとブレーキ、そしてハンドルとギアを捜査しています。お互いにお互いを補っていく。
アクションを通じて二人が絆を育んでいくという点で、今作における白眉であったと感じます。
相棒になったエミリーを演じるクロエ・コールマン。
可愛らしい子役でありまたサムの精神的な投影と柱になっていて、ただ守られるだけの役でないところ力強くてよかったです。
今後「アバター2」への出演も決定しており、期待の俳優ですね。
全体に予算の関係かわかりませんが、割とこじんまりした映画です。
スケールの大きな世界観を持っていそうではありますが、よくみると舞台は限られていますし。
ただ、その中で限定空間という点を逆にアクションの構成に落とし込んで言った点が好きですね。
この先の物語も観たくなる
ちょっとダメさがあるけれど、愛せる映画。
殺し屋界のテンプレートにややフェミニズムを散らしたもので、不完全ながらも好きになれる点でちょうど今年同じく見た「355」を思い起こしました。
男たちの完全な手先である証の黒い装束を脱ぎ捨てて、幼き虎の書かれたスカジャンを身にまとい闘うサム。
失われていた親子の絆のなかで、娘を守りたい一心を理解。そこからの親子タッグアクション。
エミリーの父もまた娘を守るために一度離れ、自らを危険な仕事に置いていたわけですね。
これ以上やるとしつこくなり時間も伸びるためか、図書館司書たちの背景はやや少ないですが、(ミシェル・ヨーとカーラー・グギノの間には友人以上の関係も見え隠れするちょっとした演出もありますが)結果としてちょうどいい塩梅に収まったのではないかと思います。
ようやっとカレン・ギラン主演でのアクション映画ということもあったので満足ですし、できればまた彼女たちの物語の次を見てみたいなと思わせてくれる作品でした。
深いところに繋がるほどではないけれど、とても楽しく観れたアクションです。わりと規模も大きめにやっているようなので、気になる方は是非。
感想は以上。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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