「バーズ・オブ・パラダイス」(2021)
作品概要
- 監督:サラ・アディナ・スミス
- 原作:A・K・スモール「Bright Burning Stars」
- 脚本:サラ・アディナ・スミス
- 製作:トレヴァー・アドリー、ジョナコ・ドンリー、ダラ・ゴードン、サラ・アディナ・スミス
- 音楽:エレン・レイド
- 撮影:シャヒーン・セス
- 編集:デヴィッド・バーカー
- 出演:ダイアナ・シルバーズ、クリスティン・フロセス、ジャクリーン・ビセット 他
「バスターの壊れた心」などのサラ・アディナ・スミス監督が自ら脚本を書き送るバレエ界を舞台とした成長ドラマ。
アメリカからパリの名門バレエ団に奨学金をもらって入学した少女と、彼女のライバルであり親友になる少女との成長を、バレエ界の影を交えて描きます。
主演は「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」などのダイアナ・シルバーズ。
また「ルッキング・フォー・アラスカ」などのクリスティン・フロセスも出演しています。
もともとは2019年のA.K.スモールによる小説「Bright Burning Stars」を原作としているようです。
サラ・アディナ・スミス監督作品も観たことがなく、今作もアマプラを流していた中で偶然見つけた作品です。ちょっと短めでしたしサクッと観れると思い鑑賞しました。
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~あらすじ~
フランス、パリの名門バレエ学校。
アメリカから奨学金を得て留学してきたケイトは、ここで練習を積み、最高賞を獲得することでパリ国立オペラに出ることが夢。
フランス語の慣れない環境で練習に励もうとするケイトだったが、技術は下から数えた方が早いレベルで、成績下位者は学園を退学になることもプレッシャーになっていた。
彼女は寮のルームメイトのマリーンとライバルになる。マリーンはオリーという双子の兄を亡くしてからしばし学校から離れていたが、母からの強い重圧もあって賞レースに戻ったのだ。
はじめこそ苛烈な戦いになるものの、ケイトとマリーンはお互いに抱える重圧を共有し始め、二人でトップを目指すようになる。
彼女たちは友人以上の絆で結ばれていくものの、二人の無垢な思いとは反対に、バレエ世界の影は非常に濃く過酷なものだった。
感想/レビュー
ぬるめの「ブラックスワン」
ちょっと不穏なサムネイル、スチル写真からどことなく予想はしていたのですが、今作でサラ監督が見せていくのは華やかなバレエの世界ではなくて、もっとどす黒くて悲惨な業界の裏側でした。
言ってしまえばダーレン・アロノフスキーの「ブラック・スワン」みたいな映画ですが、でもパンチの効き方はかなりぬるいと言っていいでしょう。
目覚ましい何かを見せるでもなく、なんとなく分かり切った華やかな舞台の影を見せつつ、同時に少女たちの友情をちょっと薄っぺらく描いているという印象。
バレエ団の、例えばこのメイン舞台になっている学校という点を取ってみても、有害な美とか性的な抑圧は描きこまれています。
男女の身体性をそれぞれに極端に引き立てるような衣装もありますが、男らしくあれ、女らしくあれという社会的にはもうNGなセクシズムが横行する学校。
異常な世界としてのバレエ界
バレエという世界は外界から見るとなんとも異常に思えます。
伝統だからといえばそうなんですが、細くしなやかでなくては・・・を強要して10代の女性に吐くまでさせるとか恐ろしいですよね。
結局のところは身体を差し出してまでうまいダンサーと組むしか上に行く方法が無かったり、精神的にも身体的にも薬物を使ってないと保っていけない狂気は、表層的に美しい画の中で醜悪さをより際立たせていました。
ネズミを使っての精神攻撃とか、肉体だけでなく未成年に対して”試練”としてなんでも課していくのはみていて辛いものがありますね。
子どもへの搾取的な構造も含めて、やはりサラ監督はバレエ界には否定的というか、批判的な視点をもって作品を作り上げていると感じます。
その中で奮闘していくことから、その重圧と苦しみを共有して共鳴するケイトとマリーン。
ダイアナもクリスティンもそれぞれが時に大人びた(言ってしまえば狡猾)雰囲気を出しつつも、やはり奥底では夢を信じる少女として素敵だったと思います。
しかし監督の意図する中での、二人に付与された同性愛的な描写には疑問が残りました。
トップダンサーになるためにフィリッペに対して性的なアピールをすることはまだ納得いくのですが、この二人に変なラブシーンがあってもあまり意味がないと思います。
シスターフッド的な程度で留めておけばよかったのにと思います。
ここでは性というのは倒錯か、野望かの色合いが強いため、二人の純粋なつながりには逆効果の演出だったように感じました。
自由な瞬間
最後まで疑念の絶えないバレエ界。ケイトは実力で勝ったのか、または結局は飾り立てであるのか。
”ヴァージニア”という呼び方からも見える排他的で差別的なこの世界を前にして、バレエを楽しいから踊るシーンなんてなかったように思えます。
むしろ個人的に印象に残るのは、(妙な)クラブでのダンスシーンの方です。
ただその場に任せて体を動かし、二人ははたから見れば滑稽でもそれぞれには幻想的な風景が見えている。
判断されることもなく蹴落とすこともなく、そこには身体を揺らす楽しさがあるように思います。
二人で一緒に踊るのをやめるとき。誰に命令されるでもなく踊るか、踊らないか選択している。
そしてその選択を互いに賭けた信頼で同時に行うというあのシーンこそが、暗く息詰まる今作の中で解放感と楽しさ、自由を感じる瞬間でした。
数年後の描写について、マリーンは解放されて自分の生を生きているように見え、ケイトはキャリア的には成功したもののまだ苦しそうです。
果たして苦しみの中で芽生えた友情が、切ない運命をたどっていくという物語として力強いかといえば微妙。女性、少女の成功の難しさとバレエ界のセクシズムや青少年搾取に満ちた話として見れもややぬるい。
なんだかどっちつかずな感じの作品になった印象です。
正直ダイアナ・シルバーズ、クリスティン・フロセスの主演目当てでもなければあまりお勧めするような作品ではありませんでした。
今回は批判的な感想になってしまいましたが以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた。
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