「カード・カウンター」(2021)
作品概要
- 監督:ポール・シュレイダー
- 脚本:ポール・シュレイダー
- 製作:バクストン・ポープ、ローレン・マン、デヴィッド・ウルフ
- 音楽:ロバート・レヴォン・ビーン、ジャンカルロ・ヴルカーノ
- 撮影:アレクサンダー・ダイナン
- 編集:ベンジャミン・ロドリゲス・Jr.
- 出演:オスカー・アイザック、タイ・シェリダン、ティファニー・ハディッシュ、ウィレム・デフォー 他
「魂のゆくえ」などのポール・シュレイダー監督が、ある件で刑務所に入っていたギャンブラーが、自身の過去とも関わりある青年に復讐計画に誘われる様を描くクライムスリラー。
主演は「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」などのオスカー・アイザック。
また「レディ・プレイヤー1」などのタイ・シェリダン、「ライトハウス」などのウィレム・デフォー、そしてコメディアンとして活躍するティファニー・ハディッシュが出演。
ヴェネツィアのコンペ出品作品であり、2021年公開でしたが日本公開は結構遅れました。
オスカー・アイザック主演で、ルックがカッコいいので見たかったのですが公開規模はやはり小さめ。
公開すぐには行けなかったのですが、次の週中日、平日の夜に都内で鑑賞。
まあ遅い回なので人もあんまりいなく、あと100%男性で年齢層も高めでした。
~あらすじ~
ウィリアム・テルはイラク戦争へ従事、アブグレイブ刑務所での作戦から有罪判決を受けて8年間刑務所にいた。
時間だけがあった彼は”カード・カウンティング”という技術を習得し、それを活かして出所後は各地のカジノを回って賞金を稼いでいた。
ある時カジノでラ・リンダという女性に出会う。
彼女は優秀なギャンブラーに出資し、大会のコネを使って出場させつつ賞金を山分けする仕組みを運営している。
非常に強いが目立たず小さくしかプレイしないウィリアムと組み、全国大会などで稼ごうと持ちかけるのだ。
ウィリアムははじめ断るが、別の場所でカークという青年に出会い、彼からある復讐計画の誘いを受けたことで考えを変えた。
感想/レビュー
変わらないテーマの延長
社会批判的であり、人間の業に対しての贖罪である。
ポール・シュレイダー監督はこれまでも扱ってきた題材から大きな変更はしていないと思います。
作家性とストーリーは今までと同じと言っても良いかもしれません。
なので人によっては、というかポール・シュレイダー監督作をこれまでも見てきた人はあまり新鮮なこともなくて残念に思うかも?
逆に監督のこれまでの流れが好きであれば、今作も安心して楽しめるというのも事実でしょうか。
私は好きです。
ストーリーについては良くも悪くも既視感こそありますが、しかし役者陣と撮影や音楽などのセクションの風合いが、とにかく気に入ったのです。
色気と恐ろしさのある撮影
全体の撮影について、過去の「魂のゆくえ」も担当していたアレクサンダー・ダイナンの画作りがおもしろい。
ホテルの一室、すべてを覆い隠していいるテル。シーツは独特な波を持ちそこで影が生まれる。
確実に静止画ではないのに、絵画のような陰影を持つ美しさがあります。色気があると言ってもいい。
それは同時にどこか寂しげであり恐ろしくもありました。
また事態の進行やテルの心境に合わせたじっくりとしたズームインであったり、アブグレイブ刑務所の回想シーンで使われる360度カメラでの撮影。
無限に連なる、画面端で終わらない地獄絵図を切り取る手法としてすごく効果的だったと思います。
眼の前の惨状に関して、左右にも別の奥行きがあり別の惨状が重ねられる。
あんなにも見ていたくない画面構成とシーンは久々に出くわしたと思います。
ライティングがぼやけていき切り替わるシーンなども編集含めてかなり観客を引き込む力を持っていました。
また音楽に関しても劇伴が独特。
ため息や呼吸音のような音が混ぜ込まれたもの、ときにはEDMみたいなものもありましたし。
不穏な空気と同時に、テルのミステリアスさが強まります。
ミステリアスかつ危ういセクシーさ
肝心のテルですが、オスカー・アイザックが渋カッコいい。
「アメリカン・ドリーマー 成功の代償」の時を彷彿とさせる静けさとスタイリッシュさ。個人的に好きなタイプのオスカー・アイザックでした。
至極冷静なのがミステリアスであり、独白の語りがありながらもあまり観客を寄せ付けない。
壊れてしまったテル。
自分の呼称があやふやな彼がカークに出会うことで、何かを取り戻していく。
業に押しつぶされた魂の救済
脚本自体は、魂の死んでいた男が善のために動き出し、悲劇を迎えつつも愛情とか人間らしさを取り戻していくものです。
キャラクターの配置に関しても良くも悪くも定型で揃っています。
言ってしまえば都合がいい。特にティファニー・ハディッシュのラ・リンダは彼女自身にはあまり深く彫り込まれるドラマはなかったと感じますので、テルにとっての救いのような位置づけのほうが強く感じました。
しかしそれでも、俳優たちの演技とそれを統括すると言って良い上質な空気というものは、観客を掴んで話さない力強さがあるでしょう。
アブグレイブ刑務所やグアンタナモ収容所での犯罪行為。
カークがギャグのように言う薬品や武器のオンライン購入ができる社会。
喰い潰された迷える魂たちに、ブラックジャックやポーカーなどのスタイリッシュな舞台での孤独さと、やはり崩壊に向かうノワールのテイストをブレンドした良い作品で楽しめました。
今回の感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた。
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