「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(2019)
作品解説
- 監督:オリヴィア・ワイルド
- 脚本:エミリー・ハルパーン、サラ・ハスキンズ、スザンナ・フォーゲル、ケイティ・シルバーマン
- 製作:ミーガン・エリソン、チェルシー・バーナード、デビッド・ディステンフェルド、ジェシカ・エルバウム、ケイティ・シルバーマン
- 製作総指揮:ウィル・フェレル、アダム・マッケイ、ジリアン・ロングネッカー、スコット・ロバートソン、アレックス・G・スコット
- 音楽:ダン・ジ・オートメーター
- 撮影:ジェイソン・マコーミック
- 編集:ブレント・ホワイト ジェイミー・グロス
- 美術:ケイティ・バイロン
- 衣装:エイプリル・ネイピア
- 出演:ケイトリン・ディーヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、ビリー・ロード、ダイアナ・シルバーズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ、ジェイソン・サダイキス、ビクトリア・ルーズガ、メイソン・グッディング、スカイラー・ギソンド、モリー・ゴードン 他
女優オリヴィア・ワイルドが初監督デビューを飾る、ガリ勉高校生二人の卒業前最後の一晩を描くコメディドラマ。
大親友のコンビとして、「ショート・ターム」などのケイトリン・ディーヴァー、「レディ・バード」のビーニー・フェルドスタインがそれぞれ主役を演じます。
第一原稿は2009年に書かれたそうで、結構製作と公開までかかった作品ですね。
SXSWにてプレミア上映され、その時から批評面での好評が広まってきていて、個人的に注目の作品でした。
今回は映画館ではなくブルーレイが出ていたのでそちらにて鑑賞。
ひとつ言うとネタやセリフ回しの情報量が多いので、これは字幕版待ってもいいかもしれません。
【8/21(金)日本公開が決定しました!】(2020.6.10)
~あらすじ~
高校生活最後、ついに明日が卒業式という日。
大親友のエイミーとモリーの二人は周囲のパーティバカたちと一切つるまず、勉強一筋での高校生活を送ってきた。
全てはいい大学へ進学するために。
しかし、モリーはトイレでの同級生との会話から衝撃の事実を知る。
なんと彼女が学歴と引き換えに遊んでいると見下していた学生たちも、しっかり有名大学に進学が決まっていたり、大企業への内定をもらっていたのだ。
学業だけに捧げてきたモリーの高校生活はすべて崩れ去る。
そして彼女はエイミーを誘い、高校最後の夜に開催されるパーティへ行こうと決意。
この一晩で、高校生活全部の遊びをするために。
感想レビュー/考察
学園ものとしてのマイルストーンがグレッグ・バーランティ監督の「Love, サイモン 17歳の告白」であったように思えたのもつかの間。
女優として活躍するオリヴィア・ワイルドが、まさかの監督デビュー作品で樹立したのは、クィアであることにもはや理由すら必要のない、描かれてこなかった多様な青春でした。
この2019年、というかこの今現在の世代を定義する、学園コメディドラマになるのではないかと思います。
もちろんこの作品は、ブックスマート(勉強だけで実践の伴わないひと)の女子二人が空回りしながらも高校生最後の夜を成功させようとする作品です。
そのプロット自体はいままでにも幾度も展開されてきたもので、時代時代に代表格となる学園コメディがあるでしょう。
今作も、会話劇や入れ込まれるギャグ、赤裸々すぎる下ネタからくるコメディ展開に狂ったクラスメイト達まで、とにかく楽しい作品であります。
ただ私としては何にしても、ガリ勉の女子二人そして一人はヘトロで一人がゲイという設定にて、その設定自体に関してはサラリとした姿勢が素晴らしいと思います。
あくまでティーンとしての学校での初恋や不安を素直に描く。
LGBTQの学生を主役に・・・とか言うこともなく、昔からいつか来るといいなと個人的に思っていた、LGBTQというカテゴリーを破壊する作品。
これはセクシュアリティに関わらない、純粋なコメディとロマンスなんですよ。
少しこの作品自体とはそれますが、本当に昔から、ヘトロの恋愛はロマンスとカテゴライズされていていました。
そしてLGBTQの登場人物が出てくるだけで、その作品がいかに美しい恋愛を描いても、カテゴリはLGBTQにされていました。
それにどうしても違和感のあった私は、想いを寄せる子とうまく話せなかったり、その子にちょっと触れられてドキドキしたり、ただ普通の高校生のドラマとして描かれることに感銘を受けました。
オリヴィア・ワイルド監督はこの使い古されたプロットにおいて、女性二人を主役にします。
過去に主流であったる男性主演版では多かったですが、今作のゴール地点を、好きな子とのゴール(セックス、もとい女子のモノ化)に置かなかったのも素敵です。
その意味で女性のエンパワーメント映画とも思えます。
この作品で試されていくのは、最後のパーティミッションにおいて、それぞれがそれぞれの目的で動いたときの、エイミーとモリーの友情の強さでした。
ビーニー・フェルドスタインは「レディ・バード」の時も大親友役がすごく似合い素敵でしたが、今回もパワフルかつエネルギッシュ。
そんな彼女をある意味受け手のように包むケイトリン・ディーヴァーも良かったです。
アクティブとパッシブが揃うアンサンブル。
その関係性はのちにドラマチックなシーンにつながる土台にもなっていますが。
ケイトリンとビーニーは撮影前に実際に2人で暮らし、この自然な大親友の関係性を築いたとのことです。
2人だけの言語ややり取りなんかも見えますし、非常にリアルなんですよね。
この作品には学園ものによくある(あった)いじめっ子がいません。バカ野郎はいますが悪がいない。
だからこそエイミーとモリーが乗り越えるべきは自分たち自身なんですね。
常に自分を優位にみせようとしてしまう。それは相手が怖いから。なぜ怖いって、相手のことを何にも知らないからです。
エイミーもモリーも二人のことですら全部を知っているわけではありません。(パンダとエイミーの関係とかねw)
この知られざる面は非常に重要だと思います。
そもそもの映画のキックオフが、パーティピープルが遊んでいながら実は勉強もしっかりしていたことを知らなかったことです。
そして校長先生は実は運転手やってるし、ピザ屋のおっちゃんは実はですし、みんな多面的。
モリーも「私たちは勉強できるだけじゃない。おもしろいって面も見せなくちゃ。」と言いますが、まさにその通り。
ガリ勉、ビッチ、アホ、ゲイ、脳筋、金持ち。
そんな決まりきった要素で今の学校を、ティーンを描くなんてできるわけがない。
みんなのそれぞれに多面性があって、直接的につながれる部分があるからこそ、すごく近くに感じるんです。
観客がエイミーとモリーと過ごすのはまさに1日だけ。
でも二人と一緒に、時に二人にはかっこよすぎるヒップホップや、失恋のプールで印象的な音楽に乗せて、珍妙なやつも多いクラスメイトと出会いパーティを過ごす。
この短い間でも、全員の人生をうかがえます。
ビリー・ロード演じるジジとか、すっごく面白いけど切なげで、あとダイアナ・シルバーズ演じるホープのカッコよさ。
映画の前も、そしてこれからも続いていく人生。
それを本気で応援したくなるし、最後のお別れで本当に切なくて苦しくなる。
ここまでパワフルな学園ドラマを初監督で作り上げてしまい、そのまま一時代のジャンルを定義づける勢いをみせるオリヴィア・ワイルド。
そして個性豊かなキャラクターを演じきったすべてのキャストに絶賛を送りたい。
モリーのスピーチの「ストレートの白人男子の時代はおわり」はまさにその通り。
これからはこの作品がマイルストーンとなり、誰でも主人公になりどんな同級生がいてもいい学園ドラマが生まれていくでしょう。
本当におすすめの作品です。
今現在こそ日本公開は決まっていないようですが、これはするべきでしょう。
ヘトロとゲイの女子二人が一緒にレズビアンポルノを観る姿が大きなスクリーンで映る。
その素晴らしさは劇場で体験したいからね。
感想としてはこのくらいでおしまいです。最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた次の記事で。
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