「家へ帰ろう」(2017)
- 監督:パブロ・ソラルス
- 脚本:パブロ・ソラルス
- 製作:ヘラルド・エレーロ、アントニオ・サウラ、マリエラ・ベスイェフシ
- 製作総指揮:ハビエル・ロペス・ブランコ
- 音楽:フェデリコ・フシド
- 撮影:フアン・カルロス・ゴメス
- 編集:アントニオ・フルトス
- 出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、マルティン・ピロヤンスキー、 ユリア・ベアホルト、オルガ・ボラズ 他
パブロ・ソラルス監督による、ある老人が古き友にスーツを届けにいく旅と、そこから見えてくる過去を描いたドラマ映画。
パブロ・ソラルスは脚本家としての活動がおおく、監督はショート含めて今作で3作目なんですね。
主演のミゲル・アンヘル・ソラはアルゼンチン生まれの大ベテラン俳優。
今作の日本公開時にもちょっと興味はあり、たしか恵比寿でやっていたような?気がしますが、結局スルー。
今回は機会がありましたので鑑賞して観ました。
アルゼンチンに住む脚の悪い老人アブラハムは、ついに介護施設へと入居することになったが、その前に最後にやりたいこととして、ポーランドへの旅を決心する。
彼は古い友人に、仕立て屋としての最後のスーツを届けたいと言うのだ。
アブラハムは道中様々な障害にあいながらも、決して旅を諦めない。
この旅は彼にとって残酷な過去に向き合うものであり、そして絶対に忘れてはいけない人への感謝の旅でもあったのだ。
パブロ・ソラルス監督が描きたかったことは、表面上はナチスドイツの残虐性そして時を経ても人を苦しめる非常さだと思います。
しかし真に注目すべきは、その人間の醜悪さを越えていくことのできるのは、人間の優しさと愛だという答えに思えます。
話は第二次世界大戦のナチスによる迫害、そこで生まれた友情です。
感動的な再会に向けて進む旅には、それでもなお多くの善意が、そして悪意もみてとれます。
アブラハムを苛ませ、苦しめ、おそらく家族との関わり方にも影響を与えることとなった戦争と迫害。
当人が目にし体験したものであり、伝聞では決して分かるわけのない非常な事実。
だからこそ、何を見せ、何を見せないのかの選択の巧さが光ります。
回想やPTSDの描写を盛り込みながらも、決定的な瞬間は画面に描かず、あくまでアブラハムの口から語らせる。
駅構内のベンチというなんとも平凡な場所で彼の語る事実は、想像するだけで恐ろしいですが、創造するだけです。
イメージを持つことも、それによって分かった気になることも許されないほどの地獄。
しかしそれでも、この作品は善意で溢れています。
アブラハムの旅路に幾度と登場するのは善意です。
アブラハム側からのものもありますが、様々な人たちが彼の旅を助けてくれます。
凄惨な過去は時折顔をみせ、壊れてしまった家族も描かれますが、通してみるとやはり今でも人間の良き部分がたくさん感じられる。
どれだけ暗い過去や、人間の残酷さを経験しても、それを超えて優しさが残る。アブラハムは現に、古き友に受けた善意を、人間に絶望してもいいような過去を経ながら絶対に忘れなかったのです。
善意を信じているからこそ、彼はこの最後の旅を決行したということ。
残念ながらナチスドイツの行為以外にも、口に出すのも辛い行為を人間はしています。悪意は想像を超えるほどに卑劣です。
それでも、パブロ・ソラルス監督は人間ならそれを超えてよい存在としていることができると信じ、また善意は悪意に勝り人の記憶に残るのだと伝えています。
時代に合わせて語られる、隔絶してしまいがちな暗黒の時代を描く作品としては、単純に残酷な部分を出すだけではなく、敬意を示しながらも光の部分を見せようとする素敵な作品でした。
あとついでに、アブラハムが仕立て屋ということでスーツが最高にいい。ややウール感あるオレンジブラウンセットアップにスカイブルーのシャツとかマネしたいですね。
ということで感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
コメント