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「クライム・ヒート」”The Drop”(2014)

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映画レビュー
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「クライム・ヒート」(2014)

  • 監督:ミヒャエル・R・ロスカム
  • 脚本:デニス・ルへイン
  • 原作:デニス・ルへイン 「ザ・ドロップ」
  • 製作:ピーター・チャーニン、ジェンノ・トッピング
  • 製作総指揮:マイク・ラロッカ、M・ブレア・ブレアード、デニス・ルへイン
  • 音楽:マルコ・ベルトラミ
  • 撮影:ニコラス・カサカトサニス
  • 編集:クリストファー・テレフセン
  • 出演:トム・ハーディ、ジェームズ・ガンダルフィーニ、ナオミ・ラパス、マティアス・スーナールツ 他

デニス・ルへインの小説を原作に、ミヒャエル・R・ロスカムが監督したクライム映画。主演にはトム・ハーディ。また助演には今作が遺作となったジェームズ・ガンダルフィーニが出演しています。

今作は日本での劇場公開はなく、DVDスルーになってしまったようです。

ブルーレイを買って鑑賞してみました。監督の作品は初めてで、ほとんどトム・ハーディの演技の評価が高かったからというのが理由ですね。

ブルックリンでは一晩中金が動く。銀行には預けられない類いの金は、”ドロップ”と呼ばれるバーに次々と運び込まれ、営業終了と共に回収係がやって来て金庫から金を持っていく。

ドロップを行うバーで働くボブは、無口だが仕事のできる男で、バーのオーナーであるマーヴとは古くからの友人だった。

ある夜、このマーヴのバーを強盗が襲った。ドロップの回収後であったため、大損害にはならなかったものの、元締めであるチェチェン人たちが黙っているはずはない。

ボブとマーヴは奪われた金をどうにか取り戻さなければならなくなった。

この映画の見所になるのはトム・ハーディですね。口数の少ないながらも信頼される男で、そういう世界にいながらも、その住人のような粗暴さを持っていない男です。

女性には礼儀と尊敬を、犬には愛情を。

そんなボブは気さくではなくとも嫌いになれない存在ですが、周囲の人間との対比で余計に好意的に、そしてこんな男がなぜこんな裏社会にいるのか不思議にすら感じさせます。

それがこの作品の哀愁かと思います。

犬は分かりやすいですが、メタファーとして登場しますね。犬。飼いならされたもの、自由のない物。機嫌によって痛めつけられ、必要なくなれば捨てられる。そんな犬をそっと保護するところから、ボブはナディアと出会います。

裏社会のドロップバーの忠実な犬であるボブと、最低のチンピラ男に閉じ込められたナディア。

抑圧の世界で象徴的な犬を2人は守ろうとするわけで、もちろんこのメタファーは分かりやすく何度も使われたようなものですが、私はすごく好きでした。

そこまで多くは無いですが、要所にライティングによる暗示的な部分もあり、特にボブが自らエリックのもとへ行くシーンでは赤の危険信号が仄かに顔を照らしています。

しかしこれはどちらにとっての危険信号かという事ですね。

この世界が奪い奪われるものであること。

かつて尊敬を集め、一目置かれた存在であったマーヴは、その彼の時代を想い行動する。彼はチェチェン人によって自分の王国を奪われたのです。

そして刑事とボブが出会うことになったあの教会も、区を移されて別のものが建つことになる。

その意思や存在の意味など関係なく、力あるもの、ここでは暴力(ギャング)と金(企業)が欲しいものを奪っていくのです。

そこでボブのスタンスは印象的なものです。彼は完全な一匹狼というか、「かつて意味があった」と言うマーヴに対して「最初から何の意味もなかった」と言い放つのです。

ボブにとってはその自分に意味を持たせようとする連中全てが嫌なのでしょう。

ボブとナディア、それぞれの家に勝手にやってきてズカズカ踏み込んでくるエリック。ボブはそういった人の人生に踏み込み、それを好きなように動かせると思っている連中にうんざりしている。

しかしそれでも、ボブには烙印が押されていてもう戻ることはできないと明かされたとき、作品はかなりノワールな感じになりますね。

そこで終われば貫徹したノワールですが、最後のシーンで少しだけ希望を残したのは、好みこそ分かれそうですが、私には救いがあって良かった。

自らは絶対に踏み込んで行かない、ほとんど常に訪ねられる側であったボブが、最後の最後に自分の意志で会いに生き、自分の気持ちを伝える。そこには人に関わることに少しだけ癒しを見出した男がいた気がします。

話自体が画期的とは思いませんし、ミステリー的にもスリラー的にもすこし物足りない気はしますが、こういう静かな男のちょっと切ない、傷付いたもの同士の話が好きなので、気に入りました。

そして何より、トム・ハーディのリードが良いという事です。それ目当てでも結構おすすめな作品でした。

こんなところで終わりです。それでは、また。

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