「F1/エフワン」(2025)
作品解説
- 監督:ジョセフ・コシンスキー
- 製作:ジェリー・ブラッカイマー、ジョセフ・コシンスキー、ルイス・ハミルトン、ブラッド・ピット、ジェレミー・クライナー、デデ・ガードナー、チャド・オマン
- 製作総指揮:ダニエル・ルピ
- 脚本:アーレン・クルーガー
- 撮影:クラウディオ・ミランダ
- 美術:マーク・ティルデスリー、ベン・マンロー
- 編集:スティーブン・ミリオン
- 衣装:ジュリアン・デイ
- 音楽:ハンス・ジマー
- 出演:ブラッド・ピット、ダムソン・イドリス、ケリー・コンドン、ハビエル・バルデム 他
「トップガン マーヴェリック」で世界中を熱狂させたジョセフ・コシンスキー監督が、カーレース界F1を舞台に、無冠ながら天才的なベテランドライバーと、彼と衝突しながら成長する期待の新人を描き出すスポーツドラマ。
プロデューサーにはジェリー・ブラッカイマー、脚本にはアーレン・クルーガーと、「トップガン マーヴェリック」の主要スタッフが再集結。F1の全面協力のもと、実際のグランプリ開催中のサーキットでリアルな撮影が行われました。
主演は「ワンス・アポン・ア・タイムインハリウッド」などのブラッド・ピット。
彼とチームを組むルーキー・ジョシュア役には、「スノーフォール」で注目を集めたダムソン・イドリス。さらに、ピットクルーのリーダー・ケイト役で「イニシェリン島の精霊」のケリー・コンドン、チーム代表ルーベン役にはハビエル・バルデムが出演。
ブラピの緊急来日とかでも話題になり、トップガンの製作陣とモータースポーツということで期待もされていた作品。公開週末にさっそくIMAXで観に行ってきました。なかなか人気で、大きめのIMAXシアターが結構埋まっている感じ。
〜あらすじ〜
天才的な腕とレースでの戦略を兼ね備えたベテランドライバーであるソニー・ヘイズ。
過去の大きな事故をきっかけに彼は最前線からは退き、今はどのチームにも所属せず、レースドライバー募集の広告を見てはそのレースで走るだけの生活を送っていた。
その腕前を買い、チームとの契約の話もあるが、彼は断り続ける。
そんなとき、旧友から自分がオーナーをしているチームを助けるように依頼される。
長年の付き合いもあり渋々チームへ参加するソニーだったが、そこには才能はあるが傲慢な新人と、戦闘に向かない設計のマシンがあるだけだった。
さらに、荒っぽい手段も辞さずにチームを勝利させようとするソニーに対しても新人は不快感をあらわにしていった。
感想レビュー/考察
強烈なビジュアルとサウンドで魅了する
「トップガン マーヴェリック」とすごくにているし、地上版なんて声もあったような作品ですが、方程式は似ているものの、やはりあの熱量には及ばない作品になっていると感じます。
大きくはそもそもリードの持っている魅力が違うということがありますが、熱量を期待した方には少し物足りないのではないかと思いました。
全体を通して、世界観とか臨場感はさすがのものがあります。
冒頭からトレーラー暮らしをしているソニーが描かれますがワンカットの臨場感でレース場を抜けていきピットに入ってドライブする。
バキッと解像度が高く、画角の大きなIMAXのフレームで鮮明に映されるそのレースの世界はビジュアルだけも魅了されます。
全編に渡って、実際のカーレースに放り込まれるような体感型の素晴らしさがあります。
これを配信で待つ人は居ないと思いますが、見たいと思うなら大きなスクリーンでやってるうちに行きましょう。
そして音響とか音の設計もやはり素敵だと思うので、やはり映画館のいい音で浴びたほうが良いでしょう。
F1全面協力と、この作品のために開発した専用のカメラ
ちなみに撮影に関しては製作でF1の全面協力を得ているそうです。実際のレース会場を撮影に使わせてくれており、各国でのGPは本当に各国の開場、コースで撮影したのだとか。
しかも、ソニーたちエイペックスチームのマシンは実際にレースに出る他のマシンの最後尾からフォーメーションラップに参加したそうです。
フェラーリやエルセデスのピットに並んで映画チーム用のガレージを作ってもらったり、本物を追求したからこその完成度があります。
それらを捉えるカメラについても、アップルとソニーが専用のカメラを開発していたとのことです。
IMAXでド迫力を撮るって言っても、あのバズーカみたいなIMAXカメラじゃ・・・ということで、レースカーにつけてもいいような軽量化、小型化に尽力し、フルカスタムカメラを十数個取り付け、様々な画角からの撮影を可能にしています。
その熱量はやはり画面からも伝わりますね。
プロフェッショナルの集まりとして描写
あとは、プロフェッショナルを描いている点も個人的にはすごく好きでした。
ストーリーにも密接に関わっているのですが、今作は一人のロートルを描くわけでも、若者の成長にフォーカスするわけでもなくて、レースがそうであるように、チームのそれぞれにフォーカスがされている。
序盤にソニーが出るレースでも、周りの人間が次々に出てきます。
チームで仕事をし、それを大事にしている。
とりわけ初めてソニーがエイペックスのために走ったレースでは、度重なるトラブルで大きく揉めましたが、ソニーはガレージに戻ると皆に声をかけ礼を言っています。
もちろん序盤としては、エイペックスでのジョシュアとの対比がメインなので強調されていますが、作中絶えずチームメイト全員の出番や描写がされていることは好きでした。
ソニー一人でもできず、チームだからこそランクを上げポイントを取っていける。
モータースポーツに入り込み、自然に詳しくなれる
そして、専門的な描写が多い作品で、F1全面協力を活かしていながら、観客への情報整理もうまいと思います。
このへんは難しいながら、ストーリーテリングを止めずにむしろそれを通してF1のレースのルールや何が戦略となって展開されているかを語っているので非常にスマート。
ソニーがアウトローであり、勝つためにルールを利用する意味で戦略家である。
ただ、最初は彼の意図が分からず、身勝手に見えます。しかし、レースが進みながらその意図が見えてきて、同時にいろいろなルールが見えて観客もモータースポーツに詳しくなれます。
車体接触で破片が散った場合には、清掃車が出動し、その後続となるマシンは速度制限と順位変更ができないこと。
集団でのテストライドでは塊になって走るために高速で運転できずタイヤを温めにくいこと。
車の設計に関してもただ走る際の空気の流れを掴むのではなく、横からの風や車体同士が接近した際の空気の流れの変動も考慮すること。
登場人物が口頭で説明することはせずに、レースや研究など話がちゃんと進む中で理解できるように情報を流しているのは巧い作りだと思いました。
モータースポーツの映画で、モータースポーツについて入り込んで知識を得ていくって、作品をきっかけに業界のファン層を獲得するのにとてもいいと思います。
やや汎用な話
と、F1という舞台での話ではかなり高評価なんですが、実はドラマに関しては物足りなさと、そもそものスタイルの部分での違いのようなものを感じます。
まず、ソニーやジョシュア、またケイトやルーベンを囲むストーリーが割と普通というか。
正直そこまでのダイナミズムを感じませんでした。
どうしても「トップガンマーヴェリック」と同じ構成の脚本なので比べてしまいますが、奥底まで落ちてくるものがないというか。
あくまで個人的にではありますが消化不良なのか普通のお話でした。
ブラッド・ピットの持つ魅力とのミスマッチ感
そして最後に、もしかすると全体のこのチームでの勝利とか、年の差を超える相棒との話とかで燃焼感がない原因は、リードかなと思うのです。
ブラッド・ピットの魅力が、それはそれで最高なんですが、作品トーンやテーマには合っていないのかもしれません。
彼が持っているのは、必死さではなくて、軽くこなしてしまうライトさ、そのかっこよさだと思います。
踏ん張って頑張って泥臭くも前に進むというよりも、それこそイーストウッドのようなクールな運び。
ふっと笑いながら、大仕事を、そう感じさせずこなしてしまう。そのかっこよさ。
あくまで個人的にですが、クリフ・ブースのような颯爽としたカッコ良さを持つブラッド・ピットと、今回のソニーのキャラ自体は合っていると思います。ただストーリー面ではややミスマッチにも思いました。
ケリー・コンドンは「イニシェリン島の精霊」の頃から良い存在感でしたが、今作でもかなりの功労者であると思います。
コミカルな面も出す彼女ですが、実質今作でのリーダー的な存在です。マシンの設計からチームの組み立てまでをこなしながら、振り回される側でもある。
メカ担当ってだけではなくて対等に自分を扱うソニーに対して、プライドゆえにぶつかりながら尊敬もしています。
なんというか描き込みとかドラマで一番好きなのはケイトでした。
撮影に関する圧倒的な熱量は確かなものですし、大画面で体験すべき映画ではあります。あと話は要はストレートで見やすいっていうのも良いところかもしれません。
モータースポーツを知ったり、入り込んで学びながら楽しめる設計含めて観やすくオススメ。
今回の感想は以上。ではまた。
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