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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」”Manchester by the Sea”(2016)

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映画レビュー
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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016)

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作品解説

  • 監督:ケネス・ロナーガン
  • 脚本:ケネス・ロナーガン
  • 製作:マット・デイモン、キンバリー・スチュワード、クリス・ムーア、ローレン・ベック、ケヴィン・J・ウォルシュ
  • 製作総指揮:ジョシュ・ゴッドフリー、ジョン・クラシンスキー、デクラン・ボールドウィン、ビル・ミリオーレ
  • 音楽:レスリー・バーバー
  • 撮影:ジョディ・リー・ライプス
  • 編集:ジェニファー・レイム
  • 出演:ケイシー・アフレック、ルーカス・ヘッジス、カイル・チャンドラー、ミシェル・ウィリアムズ、グレッチェン・モル、テイト・ドノヴァン 他

ケネス・ロナーガン監督によるドラマ作品。

主演はケイシー・アフレック。また助演にはミシェル・ウィリアムズにカイル・チャンドラー、注目の若手俳優であるルーカス・ヘッジスも出演しています。

今作は批評家より高い評価を受けていて、特に監督・脚本を務めたケネス・ロナーガン、そして主演のケイシー・アフレックが様々な賞でノミネート、受賞を果たしています。

ゴールデングローブとアカデミー賞にて、多くの部門でノミネート、ケイシー・アフレックが両方で主演男優賞、ロナーガン監督はアカデミー賞脚本賞を受賞しました。

実は映画館へは観に行けず、飛行機の中で観た作品です。で、飛行機の中で呆然としてしまいながらも、なんとも形容しがたい、静かで悲しくも穏やかな心を得た作品。

そのあと海外版のブルーレイを買って鑑賞し、この前廉価版の日本版ブルーレイで初めて字幕あり鑑賞しました。

~あらすじ~

ボストンの街に一人住む男リーは、便利屋として壊れた水道やガス管などを治す仕事をし、狭い部屋で細々と暮らしていた。

そんな彼の元にある日、訃報が舞い込んだ。マンチェスターで暮らしている兄が心臓発作でなくなったというのだ。そして兄は生前に残した書面で、リーを息子パトリックの後見人に選んでいた。

後見人になどなれないとリーは強く断るのだが、その理由は兄を失った悲しみからだけではなく、彼の語られない重い過去に関わるものであった。

感想レビュー/考察

魂の入っていない抜け殻の男

今作は脚本も素晴らしいと思うのですが、何につけてもこれでアカデミー賞主演男優賞を獲得した、ケイシー・アフレックの名演が文句なしにスゴいと思いました。

喪失を抱えた人間というのは多くの作品で登場しますが、彼は特徴的だったと思います。

彼の状態は、魂抜きと言いますか。

おそらくオーソドックスにやろうとすれば、世界から離れた男というのは、人と目を合わせないとか、無表情とかによって演じられると思うのですけど、ケイシーはその点に関しては違ったと思います。

割りと普通に過ごしてはいるのですが、(怒ったり微笑んだりはしますし)そこに中身がもう無い感覚があるのです。魂の無くなってしまった、反射だけができる肉体。

態度とか見た目ではなくて、溢れでてくる虚無感がスゴいと思うのです。

時間を前後して人が対比され、起きてしまったことの大きさが見える

さらにケイシーの文句なしの演技は、その虚ろな人間になってしまった時間と、過去における愛に囲まれた夫であり父である時間とを行き来し、非常に難しながらもしっかりと同じ人間であることは保っています。

そうして紐解かれていくのが、今作において最もつらく胸の痛くなる真実。

彼がどうして人生に希望を持たない、閉ざされた人間になってしまったのかが分かるとき、あの音楽がかかるわけですけども、観ているこっちももう全身の力が抜けてただ悲しみだけがどんどんと湧き出てきますよ。

罪がない、自分を罰することを欲してさまよう

非常に残酷なのは、彼の罪というのが終わりがないところです。

彼は事故を起こしたわけで、故意ではないのですが、同時に絶対に許されない罪でもあるのです。

誰も責めることはできないゆえに、贖罪として何かするわけでもない。許されはしないけど、罰せられることもなく、ただその罪を背負っていくだけ。

彼はただ罰欲しさに、殴られるために喧嘩を始める。

彼はただ、囚人にしてほしいかのように、独房のような地下室で暮らす。人の足元よりも下の存在であると自覚させるような地下室、天井高い位置の窓など、リーの壊れた心と断罪の渇望がその生きる姿に現れていますね。

だいたい壊れた機械を治す仕事っていうのも、リーがやってると切なすぎます。

簡単に救われることなんてないんだという救い

そして本作では、救いがない。

物語はそれを通して、またそれ自体が何か癒しであろうとすることが多いですが、今作はまた違った意味で、救いはないという救いをくれたように思いました。

リーも一瞬だけ、共に生きるような瞬間を得るものの、再びの悪夢的な、小さな出来事が彼を叩きのめしてしまう。やはり自分は保護者になどなれないのだと。

愛する子供たちを失ったリー、元妻のランディ、そして今回も兄が亡くなり、その息子であるパトリックも喪失を経験します。

人は生きていきますが、荷物が背負うにはあまりに重いこともある。

ただ決して投げ出すこともできず、歩みが止まってしまうことすらあるのです。

人はもう二度と前を向けないこともある

「乗り越えて。前向きに。」よくあるメッセージです。

しかし似たような言葉をリーに投げ掛けるミシェル・ウィリアムズ演じるランディも、社会的には前に進んでいますが、心は壊れたままのようでした。リーと彼女が話す背景の壁が完全に隔絶しているのも痛切です。

元アル中の母も、本当に乗り越えたのか。そしてそうだとしてもやはり失ってしまったパトリックと過ごせたはずの時間は戻らない。パトリックも母の再婚相手には嫌がられていて、リーにも頼れそうになく壊れてしまいそうでした。

人は強くないのです。

乗り越えられない悲しみがあるのです。

押し潰されて壊れたまま生きている人に、「それでも良い。」と諭しているような、ケネス・ロナーガン監督。こんなに優しい映画ってなかなかないですね。

静かに流れる水。その上に浮かんでいた時の頃を思い出しながら、船の操縦士は変わっていく。パトリックは何とか人生のかじ取りをしていきますが、やはりリーはもう舵を握ることはないのです。

何度も映る船のショット、そこに描かれた名前がアレにも刻まれていたと知るとき・・・忘れられるわけないですよね。

ケネス・ロナーガン監督は、誰しもが経験する喪失と共に、人間の弱い部分を真正面から描きだしつつも、その姿から魂に癒しを与えてくれました。

観るのはつらい映画ですが、何か心が透き通るような作品です。

感想はこのくらいで、それではまた。

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