「女性たちの中で」(2023)
- 監督:シルビア・ムント
- 出演:アリシア・ファルコ、エレナ・タラッツ、イツィアル・イトゥーニョ
~あらすじ~
1977年のバスク地方。
ベアは仲間たちと抗議活動に参加していた。
当時違法だった中絶手術を受けた11人の女性たちが逮捕収監されたことへの抗議と、女性の中絶の権利を求める運動だった。
一方でベアは母の手伝いで裕福な家庭に使用人としてバイトに行っている。
そしてそこで親元を離れて祖母と暮らすメイデルと出会い彼女の秘密を知っていく。
感想/レビュー
歴史的な事実を背景に置きながら、連帯の中で自然に生まれていく愛情を描くドラマ。
このあたりの中絶に関わる権利運動を描いた作品は他にもあるようですが、今作はシルビア・ムント監督が女性の視点に焦点を絞り込んでアプローチしています。
OPすぐにマリファナでキマったベアが星を眺めていますが、今作は夜で始まり明かりを見つめているわけです。
その後には男性店主への攻撃。
厳しい状況下で中絶の権利を訴えるベアと仲間たちは半分女学生たちの遊びにも見えながら、やはり彼女たち当事者にしか分からない絆でシスターフッドを形成しています。
なので少女たちの戯れのような楽しさも持ち合わせてはいるものの、母や叔母の件が、そしてメイデルの妊娠が絡み合い、ベアはより意志と行動を強めていく。
ベアを演じたアリシア・ファルコが輝いていました。ショートヘアにキリッとした目元、凛として力強く美しい。
でもものすごく強すぎるわけではなくやはり脆さも併せ持って感じられます。
ベアは母との衝突を繰り返していましたが、世代間の違いが描かれているのかと思います。
母は床にひざまずき掃除をしている姿で登場します。
屈しているとも思える母が、叔母の件をとおしてベアと行動をともにしていくのは、世代を超えて女性という部分で繋がったようで美しかったです。
父との関係性も、刑務所への訪問面会が印象的。
金網越しで遮断されていた画面がふとその網を感じさせない接写に変わり、父と娘の間の信頼が見えてきたり巧い演出でした。
格差によって隔てられて感じたメイデルとベア。でも彼女たちもまた女性という点で繋がった。
活動を通し、シスターフッドを作り触れ合う中で互いに惹かれていくのは自然なことです。
二人とも家庭はありますが、少なくともメイデルは幽閉に近い状態であり、まさに「家に入れられ奴隷になる」状態。
バスクの町並みが映り込むショットで、ベアがナイフで壁を傷つけている。
淀んだ空気とグレーな色合いが寂しげで、そんな中で大きな壁を壊そうとしているメタファーにも見えました。
そして色彩は徐々に明るく。
フランスへ行ってからは明るく暖かな陽光が増えています。
お天気雨がすごく美しくて、どこかファンタジックさもあります。
あそこではやっと中絶手術を受けられる喜びが晴れ間を、一方でこのまま中絶を終えれば別れてしまうであろうというベアの悲しさが同居しているように思えました。
とにかく主眼を女性において、そして世代をもまたいで連帯とクィアな面まで目を配っていた作品でした。
去年は「あのこと」なんて素晴らしい作品もありましたが、中絶に関してももっとオープンに議論し、そして闘ってきた方たちの意志をついで女性たちが身体の自由を持つ社会にしなければいけませんね。
映画祭と並行して所感で残しますが以上。
ではまた。
コメント