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「あのこと」”L’événement”(2021)

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L'événement-happening-2021-movie-french 映画レビュー
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「あのこと」(2021)

L'événement-happening-2021-movie-french

作品概要

  • 監督:オードレイ・ディヴァン
  • 脚本:マルシア・ロマーノ、オードレイ・ディヴァン
  • 原作:アニー・エルノー
  • 製作:アリス・ジラード、エドワール・ヴァイル
  • 音楽:エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
  • 撮影:ロラン・タニー
  • 編集:ジェラルディン・マジェント
  • 出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、ルアナ・バイラミ、アナ・ムグラリス、ルイーズ・オリー・ディケロ 他

1960年代のフランスで、中絶が違法だったころに望まぬ妊娠をしてしまった大学生の選択と現実との戦いを描くドラマ。

監督は「Mais vous êtes fous」(2019)で監督デビューし、今作が監督2作目となるオードレイ・ディヴァン。

今作はアニー・エルノーの同名小説をもとに、原作者のアドバイスも受けながら監督が脚本を執筆し映画化したものになります。

主演は「5月の花嫁学校」などのアナマリア・ヴァルトロメイ。

その他「燃ゆる女の肖像」などのルアナ・バイラミや、ルイーズ・オリー・ディケロ、アナ・ムグラリスらも出演しています。

今作はヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、その他数々の映画賞ノミネートを果たし非常に高い評価を受け、アナマリアもセザール賞最優秀新人女優賞、ルミエール賞を獲得するなど期待の新人スタートして名を知らしめました。

高い評価とホラーともいう触れ込みから結構気になっていた作品。2022年内に公開されることになり12月作品でもすごく楽しみにしていました。

早速公開初週末の朝の回で観てきました。

「あのこと」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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1960年代のフランス。

労働者階級出身であるが、努力を重ねて優秀な大学生になっていたアンヌ。

聡明で成績が良く、両親の手伝いをしつつも寮で勉強し、夜には友人たちと近くのバーに遊びに行く。

しかし輝かしい彼女の日々に影が差した。

生理が来ないのだ。周期を過ぎても来なくなったことで産婦人科を受診したアンヌに、医師は妊娠していることを告げる。

だが今は望んでいない。学業も、試験も、自分の将来を捨てたくないアンヌは中絶を望んだが、それは違法なことであった。

週が過ぎていきリミットが迫る中でアンヌは解決策を求めて奔走する。

感想/レビュー

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闘いに身を投じる女性、身体の権利

女性の身体の決定権について描かれるドラマは、昨年公開したエリザ・ヒットマンによる凄まじい傑作「17歳の瞳に映る世界」があります。

また今年はジュリア・デュクルノー監督が「TITANE/チタン」で妊娠や変容していく身体を描き出しました。

オードレイ・ディヴァン監督が打ちだすこの大学生の話は間違いなく同じ系譜にいると思います。

ただそれは、もしかすると強烈なボディホラーとして観客に襲かかり、目を逸らすことを許さない怒りや決意の塊にも見受けられます。

原作は小説。アニー・エルノーが紡いだ言葉を、ビジュアルに落とし込んでいったオードレイ監督。

この視覚、目撃することから、おそらく綴られた文字に込められていた痛みや怒りを伝えています。

没入させる画面作り

今作は主観映画だなんて言い方もされていますね。

別にPOVってわけではないです。そうではなく、観客をアンヌと一体化させ密着し接続すること。

そしてそこから彼女の心と身体に起こることを感じ取っていくのです。

画面は超集中型だと思います。アスペクト比1.37:1。ほとんど正方形のように見える画角はほぼ常にアンヌを中心に捉えます。

引きのショットなどなく、周囲の広い空間を映し出すこともない。

画面には急に人が割って入ることもありますし、アンヌの認知する範囲の外側はピントすら合いません。

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妊娠とその対処を呆然と考えるとき、アンヌの歩いてきた道は背景になりつつぼやけていく。

ちゃんと授業を聞いていたときと違い、身体の変化がのしかかるシーンではございます周囲がぼけるだけでなく先生の声すらちゃんと聞こえない。

非常に感覚的な画面であったと思います。内面とシンクロした撮影に感服です。

主演アナマリアの眼差し

没入していくようなカメラの中心で、見事な演技を見せるのが主演のアナマリア・ヴァルトロメイ。

彼女のルックはまさしく美しい娘といった感じ。透き通るような肌に丸く大きな瞳。

授業のシーンで示されますが、彼女はすごく聡明です。

そのアンヌに必要な顔立ちや存在感がアナマリアにはあると思います。

私が一番感じるのは強さです。アナマリアの瞳は時に涙にぬれてしまいますが、でも挑み続ける。

自分の身体と将来と、あらゆるリスクを受け止めつつも道を切り開こうという力。

アンヌは闘う人なのですよね。

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女性の性の欲求

とりわけアンヌの造形で好きなのは、クラスメイトに中絶の相談をしたあとに家に誘われたときのシーンです。

「セックスは良かったのか?」という問いに苛立ちその場を離れようとする。

そこで「妊娠してるならリスクがないから・・・」という発言をするあの男が良い人間かは置いておくとして、そこでアンヌは帰らずに戻る。

いわゆるナイトライフとか、性生活が今回の妊娠に繋がりました。それは分かる。

なのですけど、ここで今作は男女を平等にしたのだと思います。

だって男はセックスして誰かを妊娠させても、だからと言って身体に変化はないし変な話その後誰かとセックスしても何のリスクもない。相変わらず身体に影響がない。

でも女性は違う。楽しみとしてセックスしたくても、リスクがある。

だからこそ、ここでアンヌは帰らずにセックスをする。それは初めてといっていい、(すでに妊娠しているから)リスクのないセックス。

女性が楽しむことだけを求める姿がここに描かれたのです。

私はこれを女性の欲求と男女の差を露骨に見せながらも、同等にしてみせた素晴らしい演出と思います。

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アンヌの身体的な変化、タイムリミット。

週数が進むほどに彼女とともに焦り困惑していく。

ボディホラーとしての痛み

一体化した視線がもたらしたのは激しいボディホラーとしての痛み。

個人的にはあまりに痛々しくて気分が悪くなったりしました。

心臓を鷲掴みにされるような、胃を締め上げられるような。力が入らなくなり観ているのが辛い。

圧倒されるワンカットで中絶処置が映される。

アンヌ自身の手でそして中絶を行う夫人の手で。

ただ目を逸らすわけにはいかない。

身体に負荷のかからない男性としては、視覚と音だけでもせめてアンヌに寄り添って感じ取り、見つめる必要があると思いました。

激しくとも体感すべき傑作

まっすぐな瞳で戦い続ける。

彼女の身体のことなのに、社会はその決定を許さない。できることは黙って見過ごすか”流産”という診断を書くことくらい。

今なお世界では中絶を違法としている国や地域がある。女性の性生活についても厳しい目を向けることも。

今作は、自分の未来と生き方のために孤独にも闘う女性と観客を一体化させることによって、身体と心理どちらにも強い衝撃と恐怖、痛みを味合わせます。

とにかく見るしかない。見逃してはいけない作品です。

正直これを観るとその日はアンヌのことでいっぱいいっぱいになるのです。

しかし視覚と音楽でここまで違う人間の身体と心を味わえるなら、そうしたメディアである映画がその力で体験をくれるなら。

中絶を語ることはタブー視され続ける。でもオードレイ監督は声を出し議論させる。

本当に素晴らしい作品です。非常におすすめ。

今回の感想はここまでになります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ではまた。

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