「私たちの世界」(2023)
- 監督:ルアナ・バイラミ
- 出演:エルサ・マラ、アルビナ・クラスニチ
『燃ゆる女の肖像』(19)に出演した女優、ルアナ・バイラミの監督作品。自らのルーツであるコソボを舞台にふたりの女子大学生の関係を描く。ヴェネチア映画祭オリゾンティ エクストラ部門で上映。
~あらすじ~
2007年。コソボの田舎の村で育った二人のいとこが、結婚だけが待つ町にうんざりし、街の大学へ通い始める。
しかし大学側の体制は整っておらず、講師が不在で講義が休講になることも多かった。
自分たちの将来のための勉強の機会を奪われ、先の見えない社会を前に、絶望をつのらせ不満を溜め込んでいく学生たち。
感想/レビュー
コソボの紛争はセルビア政府からの解放と独立を目指したもの。
作品の中でも度々ラジオを通して、この紛争後も混乱の続いているコソボの現状が伝えられています。
ただ今作では紛争よりもそうした国際的な舞台の裏でできる犠牲を強いられた、または犠牲になったことすら認知されていない世代を描いていました。
田舎町を抜け出して、寮生活で大学へ飛び込む二人の少女。
そこから友人を作り恋をして、憧れの人を見つけて。
そのあたりだけ観ると完全に青春映画でしたしそこはジャンルとして持っているのですが、塞ぎんだ感じが凄まじい。
青春映画って道を迷いはしても可能性に満ちていると思うんですが、ここでは国や社会、自分たちの人生を作っていくための土台が崩壊している。
ずさんな制度が、先を感じられなくしていて、作品全体にかかっているどん詰まり感がエグくてけっこう見てて堪えます。
何をしても、就職もできないし身動きが取れない。
そうなると今目の前だけでも楽しもうとしても、その考えがずっと頭の中にモヤを作ってしまう。
ゾエとヴォルタが楽しい時間を得ていても、彼女たちと同じようにこの瞬間のあとに押し寄せる無力感と絶望に打ちのめされてしまいます。
結構長回しだったり、その場に観客も同席するようなくっついた撮影も多くて、だから外から観察しているのではなくて、同じくこの塞がった状況に放り込まれたように感じました。
ポップソングが多用されている点とか(歌詞は分からないのですが)、色彩が結構強烈なシーンがあったり。
ヴェルダとゾエの距離感についても、同じフレーム内に入るかどうかやベッドでの位置関係なんかで上手く語られていました。
喧嘩シーンで二人の間に窓枠が縦に入ってるとか、分かりやすいですが好きな撮影演出でした。
OPは子どもが成長して大人になって、結婚して子どもをもうけていくホームビデオ的な演出、ラストもビデオですが少女だけが映されます。
ノスタルジーであり、幼少期ですべてが終わってしまったような切なさがあります。
ゾエは自分のダンスを撮影し、ヴェルダはゾエにメッセージを撮影する。
記録してほしい、それは記録になり存在の証明なんだと思います。
忘れられてなんかいない。
夢を見るなと言われ、そのままでいられる若者がいるでしょうか。
紛争や戦争の影でしわ寄せを食ってるのは普通の市民です。
二度とこない彼らの青春や若い時代。
国が大変だからと何も支援もなく、助けもなく。
そうゆうやるせなさに対しての叫びに感じますし、少なくともこの90分くらいは、私の中にもヴェルダとゾエたちとの想い出ができ、生き続けていくんだと思います。
映画祭最初から切なくてでも素晴らしい傑作でした。
所感メモになってしまいますが以上。
ではまた。
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