「ウィッシュ」(2023)
作品概要
- 監督:クリス・バック、ファウン・ビーラスンソーン
- 製作:ピーター・デル・ベッチョ フアン・パブロ・レイジェス
- 脚本:ジェニファー・リー、アリソン・ムーア
- 音楽:ジュリア・マイケルズ
- 出演:アリアナ・デボーズ、クリス・パイン、アラン・テュディック 他
2023年、ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を祝し、その節目の記念として誕生した作品。
どんな“願い”も叶うと伝えられるロサス王国を舞台に、ある少女が願いを独占する王に挑戦する姿を描きます。
監督は「アナと雪の女王」シリーズのクリス・バックと、「ズートピア」などでストーリーアーティストを務めたファウン・ビーラスンソーン。
脚本は、ディズニー・アニメーション・スタジオのクリエイティブ・オフィサーでもあり、「アナと雪の女王」を手がけたジェニファー・リーとクリス・バック。
音楽は、ジャスティン・ビーバーやエド・シーランへ楽曲提供したソングライター兼アーティストのジュリア・マイケルズが担当。
そして、アカデミー助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズがアーシャ役の声優を務めます。
その他メインヴィランである王様を「ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」や「ワンダーウーマン」などのクリス・パイン、主人公アーシャの子ヤギを「ラーヤと龍の王国」ではトゥクトゥクの声をやっていたアラン・テュディックが演じています。
ディズニー100周年作品というすごい節目に公開されたスタジオのメイン作品。同時上映にはディズニースタジオ内で歴代の様々なキャラクターたちが交流する「ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-」が添えられています。
公開週末でありましたが、なんかあまり人が入っていませんでした。ディズニーが好きなんであろう若い客層ではあったものの、それこそ今年のピクサー作品「マイ・エレメント」であったり、実写版「リトル・マーメイド」と比べるとかなりの差がありました。
~あらすじ~
イベリア半島の海に浮かぶロサス王国で、17歳の少女アーシャは、王国の支配者であるマグニフィコ王に、他の誰にも感じられない不穏な気配を感じていた。
人々の願いをかなえるという目的ではあるが、王は願いを自分のモノとして保管し、人々には心に穴が開いていたのだ。
どうしてもマグニフィコ王のやり方に疑問をぬぐえないアーシャは、祖父の願いをかなえてほしいという想いで星に強く願う。
すると願いを叶える真の星、スターが現れる。
アーシャとスターは共にマグニフィコ王に立ち向かい、より良い未来のために立ち上がるのだった。
感想/レビュー
スタジオの総括のため、個性がない
ディズニーの100周年。良くも悪くもこれが重荷だったと思わざるを得ない作品でした。
巨大な企業というかもはや文化といっていいこのスタジオの100年の記念碑になる作品は、記念を作ろうというタスクが創造を邪魔してしまっている気がします。
あらゆる部分に過去のディズニー作品のプリンセスやヴィラン、目くばせがちりばめられており、特段ディズニーファンでない私でも、通ってきた子どもの頃の記憶がよみがえってきました。
しかし懐古主義的な部分を入れつつもディズニーの未来を観ようという目的に対して、作品として私は個性がないと感じてしまいました。
魔法と願いを扱っていますが、魔法は炸裂しません。
いくつかのシーンでは心を強く突き動かすような部分があるのですけれど、突き抜けてはいきませんでした。
アニメーションや各セクションのレベルはさすがのディズニー
アニメーションは昨今のCGでありつつもセル画やイラスト調になっているもので、ここはアニメーションの歴史が融合したような手触りになっていておもしろかったです。
ライティング周りだったり、色彩に関しても、様々な王国やプリンセスたちの物語よりもさらに前ということで、なんとなくケルト神話とかそういった風合いも出ていてナイス。
ルックについては決して嫌いではありません。
割と繊細なところでも、アーシャが緊張したりするとブレイズの髪をいじっちゃったり、アニメーションと人物のアクションも良かったです。
アリアナ・デボーズの歌唱力については疑うこともなく、個人的には特徴的なクリス・パインのマグニフィコの演技も好き。
”ディズニーアニメーション”を再現し生成されたアニメ
ですが、なんというか、良くも悪くも”ディズニーらしさ”を追求した感じです。多くに訴求して敵を作らないようにしつつ、未来を目指すのは難しいはず。
ジェネリックディズニー感が全体に否めないのです。
歌についても、こんなこと言っては何ですが、AI生成したかのようなディズニーらしい歌なんです。悪くはない。だってディズニーらしい歌なんですから。
キャッチーで美しく、明るさもあり力強い。
でも脚本にも歌にも、キャラクターにも棘がない。エッジが足りません。
全体にもAIに頼んで、私たちが親しんできたディズニーのあれこれからはみ出ないように作ってもらった感じがします。
決して嫌われはしないはず。
でも、正直なところこの「ウィッシュ」をマイベストディズニームービーにするには差別化というところが足りないのではないかと感じてしまいます。
ディズニーらしいけれど、ディズニーのどこかに毒っ気やエッジの効いた部分はない。
本当に誰にも好かれる万人受けアニメーションというだけでしかない気がしました。
願いの力は感じるが、魔法がかかっていないのが残念
根幹のメッセージは、願いは自分自身の大切な一部であって、誰かに託したり渡してはいけないというモノ。
つまり、願いをかなえる力をマグニフィコ王だけが持っていることがおかしい。
願いとは自分自身が持ち、そしてその願いゆえに人はより高みを目指す。
願いをかなえる力は本来みんなが持っているというわけです。
アーシャは他の誰に比べても、自分自身のための願いを持っていなくて、利他的な願い(おじいさんの願いをかなえてあげたい)のために突き進む。
それは真に英雄的ですごく好きな要素でした。
しかし総合的に言って、100周年を祝うために作り出されたのが、ディズニーの総評をまとめただけであり、ディズニーアニメなのに”ディズニーアニメっぽい”という印象なのは残念。
それだけ文化遺産であるのもわかりますが、であるならば、むしろ別の切り口やスタイルながらも「なるほどこれはまごうことなきディズニーアニメだ。」と驚かせてくれた方が個人的には良かったかな。
悪い映画ではないけれど、記念碑として不十分で役割を負わされてしまった作品だと思います。
ディズニーの魔法は今回はありませんでした。
感想はここまでです。
ではまた。
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