「ババドック 暗闇の魔物」(2014)

  • 監督:ジェニファー・ケント
  • 脚本:ジェニファー・ケント
  • 製作:クリスティーナ・セイトン、クリスティン・モリエール
  • 製作総指揮:ジャン・チャップマン、ジェフ・ハリソン、ジョナサン・ペイジ、マイケル・ティア
  • 音楽:ジェド・カーゼル
  • 撮影:ラデック・ラドチュック
  • 編集:サイモン・ンジョー
  • 出演:エッシー・デイヴィス、ノア・ワイズマン、ヘイリー・マケルヒニー、ダニエル・ヘンシュオール 他

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「ナイチンゲール」のジェニファー・ケント監督が、シングルマザーと彼女の息子がババドックという怪物の脅威にされされる様を描くホラー映画。

主演はエッシー・デイヴィス、息子役はノア・ワイズマン。

今作はケント監督自身の友人の子どもが、実際に怪物が見えると話していたことを着想に、もしも彼にとって現実であったとしたらと、短編の”Monster”(2005)を製作、その後このアイディアを捨てられず長編映画化に臨んだとのこと。

ちなみに”ババドック”というのはヘブライ語で「彼は必ずやってくる」という意味だそうです。

作品は一般的にはそこそこな評価ですが、批評家には大絶賛されています。多くの映画賞も受賞していますね。

私は当時から、個人的に信頼を寄せるMark Kermode氏の猛プッシュもあり知っていましたが、かれこれ6年も鑑賞を先延ばししていました。

今回はAmazonプライムビデオにて配信されていましたので、せっかくの自粛を機会に鑑賞しました。

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アメリアは交通事故で夫を亡くし、今はシングルマザーとして息子のサミュエルと暮らしている。

サミュエルは手製の武器をつくったり、怪物の話をしたりと学校でも問題を起こしており、アメリアは非常に手を焼いていた。

サミュエルは寝つけないことが多く、そのたびに絵本を読み聞かせるのだが、ある日見覚えのない「ババドック」という不気味な絵本をサミュエルが持ってくる。

そしてその絵本を読んでから、親子の周りで怪奇現象が起き始める。

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期待に応えるものすごく不気味で怖いホラーであり、それが人間の本質とくっついて切り離せないものであるがゆえに、映画の外においても心底恐ろしい作品でした。

しかし同時に、恐怖とは愛で抱擁できるものであり、怖れを抱えることや傷つくこと自体を否定しない、底知れぬ優しさもある作品でありました。

すっごく怖いし自分の中に入ったら出ていかないけれど、向き合い方や優しさと暖かさも感じることができる素晴らしいホラーです。

作品全体はまるでモノクロのような色彩に欠けるトーンに統一され、それが闇と光、正確にはわずかにあたる光が照らし映し出されるものの対比を深めていますし、モノトーンは普遍的な物語のルックを与えています。

親子、特に母アメリアの生きる世界そのもののような、色を失った世界です。

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さらに、ホラー映画としてこの作品は大きな音や急な驚き要素であるジャンプスケアに頼らず、非常に薄気味悪く心の底に染み入ってくる怖さをたたえています。

それらを無理に感じさせない、必然性も見事に設計されています。

アメリアがサミュエルを引き離し、ベッドの端で寝るショットとか、サミュエルとの関係性や彼によりアメリアが失っている事柄が小さな部分に描かれます。

随所に映る映像に変異や怪物への変化が入れ込まれているのも示唆的かつ、人物にも影響します。

もはや妻ではなくなってしまい、ふと目を向けた車の中でキスするカップルのような女性としての生も、自分にはもうないであろうと考える。

そして残された役割である”母”すらも、手に負えないサミュエルと周囲の理解や支援の無さにより崩れる寸前です。

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シングルマザーが置かれる状況としても、女性が置かれる状況としても、そこには怪物に投影してもそれより恐ろしい事実があります。

いつのまにか女性ではなくなってしまうのも何とも悔しいですし、今回はこのババドックの脅威を相談しても、妹(親類)も警察(公的機関)も助けてくれません。

社会的にも孤立しているのです。その中で、アメリアは自分の中の抑えきれない感情と戦います。

子どもを産み母にならなければ、あったかもしれない人生。自分にのしかかる育児や責務からの解放欲求。

そして亡き夫の死という抱えきれない現実。もはや人生がサミュエルのために存在し、自分のコントロール下ではないと感じ絶望し憤るのもとても共感できる。

この共感はババドックを自ら飲み込んでいくようで恐ろしいのです。

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誰もがアメリアのような恐怖を抱えると思います。処理しなければいけないけれどできないことや、まるで呪いのように思える人との関係性、失われて行く人生。

そして自らが心に救う怪物に飲まれ壊れていくことも怖いのです。

言ってはいけない一言をサミュエルに言ってしまうなど、アメリアは完全に堕ちていきますが、あれも外から見れば狂った母親が子どもを虐待しているという、どこでも聞かれそうなことになるんですよね。

しかし、彼女の支えになったのは他ならないサミュエルでした。彼はひとえに、怪物からママを守ることをずっと訴えていたわけです。

恐怖から逃げる必要は無い。立ち向かう。そしてこの作品では、愛で包み込むという素敵な帰結を示します。

痛みや怖れを忘れずに、しかし飲まれずそれすら抱きしめてあげること、それが怪物との生き方なのかと思います。

乗り越えろとか、前を向けとか、そんなうさん臭く不正直な言葉よりも、ずっとずっと優しく人に寄り添うはずです。

ジェニファー・ケント監督は潜在的恐怖とクローゼットの怪物物語を結び付け、観る人を心底震え上がらせながらも、知的な融合から救いを示しているように見えました。

エッシー・デイヴィス、ノア・ワイズマンの演技もとても素晴らしく、傑作ホラーの一本であると思います。

今作は監督自身が権利を持ち、絶対に続編を作らせたりしないために譲らないと言っていますが、そうした大切な一本でもありますね。是非ご鑑賞ください。

今回の感想はこのくらいになります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それではまた次の記事で。

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