「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」(2025)
作品解説
- 総監督:中村健治
- 監督:鈴木清崇
- プロデューサー:佐藤公章、須藤雄樹
- 企画プロデュース:山本幸治
- キャラクターデザイン:永田狐子
- アニメーションキャラデザイン:高橋裕一
- 総作画監督:高橋裕一
- 美術設定:上遠野洋一
- 美術監督:倉本章、斎藤陽子
- 美術監修:倉橋隆
- 色彩設計:辻田邦夫
- ビジュアルディレクター:泉津井陽一
- 3D監督:白井賢一
- 編集:西山茂
- 音響監督:長崎行男
- 音楽:岩崎琢
- 主題歌:アイナ・ジ・エンド
- エンディングテーマ:アイナ・ジ・エンド
- 制作:くるせる、EOTA
- 出演:神谷浩史、日笠陽子、戸松遥、梶裕貴、細見大輔 他
2006年にフジテレビの「ノイタミナ」枠で放送されたオムニバスアニメ「怪 ayakashi」の一編「化猫」と、そこから派生したテレビアニメ「モノノ怪」。
その劇場版3部作の第2作となる本作は、天子の世継ぎを巡る陰謀が渦巻く大奥を舞台に、女たちの葛藤や情念から生まれたモノノ怪・火鼠に、謎の薬売りが立ち向かう物語を描きます。
テレビシリーズおよび劇場版第1作「モノノ怪 唐傘」で監督を務めた中村健治が、本作では総監督となっています。
前作時点でなにも予習しないで観に行っていますが、作品はかなり好きでした。話題になるのも分かります。そのうえで今回はムビチケも買って公開された週末に早速見てきました。
全開に続いて結構お客さんが入っていて混んでいました。
~あらすじ~
モノノ怪・唐傘との闘いから間もなく、薬売りは再び大奥に姿を現す。そこでは、総取締役だった歌山の後任として、名家出身の大友ボタンが厳格な采配を振るっていた。
一方で、天子の寵愛を受ける町人出身の御中臈・フキとその他の者たちとの間での対立が深まりつつあった。そんな中、天子の正室である御台所・幸子が産んだ赤子の後見人を巡る選定が進められるが、フキに思いがけない事態が降りかかる。
さらに、突如として人が燃え上がり、消し炭と化す不可解な人体発火事件が次々と発生。
モノノ怪の仕業と考えた薬売りは、その三様である「形」「真」「理」を解き明かすため、大奥に渦巻く闇へと足を踏み入れる。
感想レビュー/考察
前作の鑑賞は必要と思える
前作の「モノノ怪 唐傘」に続いて、大奥のさらに暗部にもぐりこむストーリー。以前はまさに入り口といっていい、大奥で働くことになった新人たちをめぐる物語でしたが、今回はより大奥の上層の話になっています。
そこでは大奥の秩序を守るという大義名分と、天子の子どもを授かった女性の運命がぶつかり合い、過去の情念がモノノ怪となって災いを成す様が描かれます。
このあたり楽しんでいくために、前作はアニメシリーズを観ていなくてもある程度楽しめましたが、今回は前作を観ておく必要はある気がします。
前作から一直線の話にはなっていないにしても、やはり世界観や登場人物、薬売りについてなどは理解している前提で話が進んでいくからです。
溜めはなくスピード感をもって展開するストーリー
続編であることを割り切っている点として、今回は話が速いです。
薬売りの力やモノノ怪のルール、退治の仕方に関しては、今作で初めて薬売りに出会う人に対して説明はされるものの、そこにはもったいぶった感じがありません。
かなりのスピード感で薬売りはモノノ怪退治に乗り出しますし、今作ではアクションについても惜しみなく繰り出されます。溜める意味がなくなっていると言わんばかりです。
このあたりは前作を観て、その世界観が好きだからこそ今回も続編を観た身としてはとても好きです。もうやっていることは時間をかけずに展開を進めてくれますから。
アニメーションの美麗さは健在で、アクションが増えている
もちろん今作もあの、わしのような質感テクスチャが全体にかかった絵柄とか、色彩が豊かでありながらもやや彩度を抑えた鮮やかなアニメーションなど、目の驚きは前作から引き継いでいますし、アニメとしての表現の豊かさには心奪われます。
今回は全体に紫色の色彩を入れているシーンが多く感じましたが、さらに前作以上のアクションシークエンスが見えます。動きがすごいんですよね。
多分前作以上に動いている、その勢いで物語も駆け抜けます。
その進行速度で切り込んでいくのは、大奥のさらに一つ深い場所。
権威主義が個人を喰い尽くしていく
天子の子どもを身ごもった女性こそが最も権力を持つことになるのですが、今回はそこに各家の思惑が絡みます。
赤子の世話をする者の選抜や、実際に寵愛を受けて世継ぎを宿す者。そうした全体を俯瞰しながら、大奥の伝統と秩序を守るために手段を択ばない者。
しかし今作はさらにストーリーの部分で、哀しきミステリーに仕上がっていると感じました。
前作では自分を殺して組織に迎合する女性たちの苦悩が描かれていましたが、今作でもそのような犠牲の要素は感じられます。
そのうえでドラマチックさでは今作のストーリーの方が好きでした。
天子の子どもを身ごもったフキ。本来は彼女が次の天子の母親となり、彼女の家も日本で最も重要な家の一つとして非常に大きな力を持つことになる。
しかし老中は彼女の家柄がふさわしくないと考える。伝統的な保守の考え方。それはまだわかる。
でも、もともと天子の家系継続のために様々な女性たちを各地から集めておいて、いざ子どもを授かったら素性次第では斬り捨てるって。
全く胸糞悪くて悪役側としてはこの上ない。
火鼠は子どもを殺したすべてのものを恨んでいる
さて、フキには矢継ぎ早に子どもを堕ろさせようとする刺客が現れます。
毒をもって彼女の胎児を殺そうとするのです。そのたびに、モノノ怪:火鼠が現れてその刺客を燃やし尽くしていきます。
ただ薬売りはこれらが火鼠の子どもたちでしかないといい、母親がどこかに潜んでいると説明しています。
攻撃の対象と正体をみると、ただの悪い怨霊ではない気がしますね。母親とおなかの子どもを守っているようにも感じられますから。
火鼠が暴れている理由。今作の方が前作よりも分かりやすさもありまたとても苦しく衝撃の事実にもなっていて好き。
スズという女中も、過去に家のために大奥に来て、そして天子の子を授かった。しかしフキと同じように家柄が認められず、父に頼まれて自ら子を堕ろしてしまった。
そのような命を下した老中への怒りも、もちろんあります。しかし火鼠の子たちは母を取り込み燃やし尽くす。そこにはスズの自責の念、子どもを殺した自分自身への怒りがありました。
フキはNOを突きつける
このあたりの事実が出てくるとき、ものすごく悲しくなりました。権威主義と搾取構造の象徴たる大奥で、産まれてもいないものまでもがそのために犠牲になってしまったのです。
そしてフキは、その構造から脱却する。
家が大奥から切り離されてしまったとしても、自分自身の子を守ることを決める。
親子の犠牲構造はスズの父、フキの父の対話のシンクロでも語られていて綺麗な円環と呼応でありながら、フキの決断がより大きく演出されていて良いなと思います。
互いが互いを信頼していく
あと、何かと対立しがちであったボタンが、厳しくも大奥の決まり事を守ることでフキを守っているところも良いですね。彼女は徹底した芯の強いプロフェッショナルとして描かれています。
今回の一件を通して、大奥というモノが一部の者たちの利権や考えを越えて存続するものだと覚悟し、それでいて上層部ではなく存在するすべての人がいて大奥だと学んだかのようにも見えます。
はじめと最後で女中を叱るシーン。
2回目には優しさが見えるところとか好きですね。
そういう意味ではシステムと人との関係性にもまとまっているように見えます。システムがあってそのために人が存在するのではなく、人が集まってシステムがある。
誰かに優しくしたことや、支えたこと。それがめぐって強い絆となり、通行手形を渡したり、廊下でのあいさつの仕方も変わっている。
人と人との距離が近くなっていた大奥の最後の姿が優しかった。
今作のあと、第三章「蛇神」が控えています。作中でもなぞの男が赴く最深部の水場、EDで映る柱には3本の綱。
今回で2本目がちぎれることとなっていますが、最後の一本がスサノオの絵の描かれた柱と繋がっている。これが次の蛇神なのでしょう。
今回もリッチなアニメとさらに深くなったstoryで楽しめましたので、最終幕も楽しみにしています。今回の感想はここまで。ではまた。
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