「猿の惑星/キングダム」(2024)
作品解説
- 監督:ウェス・ボール
- 製作:ウェス・ボール、ジョー・ハートウィック・Jr.、リック・ジャッファ、アマンダ・シルバー、ジェイソン・T・リード
- 製作総指揮:ピーター・チャーニン、ジェンノ・トッピング
- キャラクター創造:リック・ジャッファ、アマンダ・シルバー
- 脚本:ジョシュ・フリードマン、リック・ジャッファ、アマンダ・シルバー、パトリック・アイソン
- 撮影:ギュラ・パドス
- 美術:ダニエル・T・ドランス
- 衣装:マイェス・C・ルベオ
- 編集:ダン・ジマーマン、ダーク・ウェスターベルト
- 音楽:ジョン・パエザーノ
- 視覚効果監修:エリック・ウィンキスト
- 出演:オーウェン・ティーグ、フレイヤ・アーラン、ウィリアム・H・メイシー、ケビン・デュランド 他
SF映画の名作「猿の惑星」をリブートしたシリーズの第4弾として、「猿の惑星:創世記」、「猿の惑星:新世紀」、「猿の惑星:聖戦記」に続く作品。
「To Leslie トゥ・レスリー」のオーウェン・ティーグが主人公ノアを演じ、共演にはドラマ「ウィッチャー」シリーズのフレイヤ・アーランと、「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシーが出演。監督を務めるのは「メイズ・ランナー」シリーズで知られるウェス・ボール。
WETAの名を知らしめつつ映像体験を完全に新しい時代に作り変えた、アンディ・サーキス演じるシーザーの3部作。個人的には現代におけるトリロジーの中でも映画史に残る偉大な作品群だと思っています。
今回はその三部作が終幕を引いてから7年ぶりの猿の惑星シリーズ新作ということになりますね。正直前3部作が自分の世代にとっての猿の惑星として誇らしく偉大で、最新作の話を聞いた際には不安もありました。
ここからさらに何を描くのか。今回はシーザーの代からさらに時代が進んで、全く新しいチャプターのようです。
ほとんど人間が出てこないような作品になっているため、これまでのような豪華俳優陣の出演みたいなのはないのかな。今回重要な役になっている人間を演じるフレイヤ・アーランはイギリス出身の新人で、以前に「ガンパウダー・ミルクシェイク」に少し出ていましたが、長編映画のメインキャストは今作が初めてとのことです。
今回は公開週末に早速IMAXで鑑賞してきました。しかし、人の入りが少なめ。猿の惑星って今やどんな位置なのかよくわからないですし、シリーズの4作目と言われると結構ハードル高いですよね。
~あらすじ~
地球は病原体の蔓延により人類が壊滅し、高い知性を持ったエイプたちが生き残った。
遺されたわずかな人類は知性が低く、言語能力も衰えて野生動物としてエイプたちから嫌われている。
鷹を操るエイプの一族の集落では、伝統の儀式の準備が進んでいた。若きエイプであるノアは父の期待に応えるべく奮闘していたが、ひとりの人間が村に盗みに入ったことで状況が一変する。
その人間を追って来た他のエイプの一族に村が襲撃され、父を殺され大勢がどこかへと連れ去られてしまったのだ。
仲間たちを連れ戻し、そして村を襲い父を奪った敵を討つため、ノアは旅に出かける。道中でオランウータンのラカに出会い、かつてエイプのために偉業を成し遂げたシーザーの伝説を聞かされる。
一方で人間もノアたちの後をつけてきていた。彼らの旅の先には、観たこともない巨大な要塞を作り上げ、そこで現代のシーザーとしてあがめられているエイプの王国が待ち受けていた。
感想レビュー/考察
ちょっとここまでを振り返ってみます。
賢いチンパンジーのシーザーと人間のウィルは仲良く過ごしつつも、開発した新薬の影響で人間は猿インフルになり死亡していき、一方でシーザーをはじめとしてエイプたちは高度な知能をつけて進化した。
人間の実験台にされて拷問を受けていたシーザーの仲間であるコバは、その憎しみを消しきれずに人間を攻撃、平和的な共存を望んだシーザーの想いもむなしく、生き残っていた人間たちとエイプは全面戦争に突入する。
人間はさらに猿インフルの影響で言葉を発せなくなるものもあらわれる中で、狂気に囚われた大佐が台頭、シーザーは大佐との直接対決を行い猿たちを守りつつ平和な新天地へと導くも、自らは戦いの傷で息絶えてしまった。
そして今作の冒頭では、そのシーザーの弔い、葬式から幕を開けています。正直前トリロジーを本当に好きな私にとっては、シーザーをスクリーンで観るだけで最高です。そしてとても悲しい。
モーリスもいるしロケットもいる。この偉大な指導者の死から物語は始まります。さすがにちょっとしたプロローグとこの葬儀だけでは全容がつかみにくいかもしれません。ただ今作で起きていくことだけを見ていくならまあ十分かもしれません。
作中でシーザーの存在や物語、彼の残した言葉などが何度も復唱されますし。「Apes Together Strong」も「Ape not kill Ape」もあります。
これまでの作品を観ていなくても見れなくはないって感じですね。
さて、シーザーの物語から交代して、今作は主人公を若いチンパンジーであるノアにしています。特にい序盤についてはなんとなく、「メイズランナー」も思わせるようなティーンたちの冒険とか青春的なテイストも感じます。
その序盤の感じとしては、これまでのどの猿の惑星シリーズにもない感覚でフレッシュでした。猿たちだけに焦点が当たっていて、ポストアポカリプスで植物に覆われた大都市の廃墟で冒険していく。
しかし西部劇のように村の襲撃があってからは、復讐の旅になっていてロードムービーになる。この辺はイーストウッドの「アウトロー」みたいな感じでした。
実際にはプロキシマスの王国に着くまでなのでそこまで長いわけではないものの、ロードムービーとして3つの異なる背景を持つ存在が運命を共にしていくというのは観ていておもしろいものでした。
どことなくではあるのですが、今回のメイが女性であることと、彼女が「生き残るには喋らないこと」と発言し、あえて言語能力がないように振舞っていたのには、深読みなのかもしれない考えがよぎりますね。
ちなみに途中で分かれてしまい、激流に飲まれてしまうラカがすごく印象的です。ここで彼は退場してしまうのですが、ノアにとってラカとの出会いは新たな視点を得る意味でもすごく大きかったように思います。
最後の最後、飲まれていくラカはシーザーの言葉を残しますが、それは”Together Strong”「一緒なら強い」なんです。ここでApesを入れていないのが良い。
猿が団結すると強いって言わずに、あえて一緒なら強いという。ノアとメイ、種族を越えて協力するようにラカは最後まで呼びかけているんですね。
彼がいうのはシーザーの真の教えを知ってほしいこと。実はプロキシマスの王国では彼自身がシーザーを自称していて、かつての伝説の英雄が都合よく誰かのプロパガンダに使われているのです。
現実でもこういうのってありますよね。歴史位の偉人とか反論できない人を勝手に引用して、自分がその意志の後継者かのように振舞って。つくづく猿の惑星っていうのは政治サタイアなのです。
人間を知らない、完全に未知の存在としての信用していいのか揺らぐドラマに、同族でありますが独裁者で危険なプロキシマスという存在。二つの脅威にぶつかってノアが成長していく。
最終的に父の弔い合戦的に、操ることがずっとできなかったイーグルで決着をつけるのは熱い展開です。
あとはメイの正体とかは次回作向けのモノなのでしょうか。彼女はもともとフィールド・エージェントなんでしょう。彼女だけ他の人間とは違って割としっかりした”服”を着ていたり爆弾を作り技術も銃を操ることもできる。
猿に使えない人間って言ってるし、何処から来た?の問いかけに応えないのも、きっとそもそもスパ老いみたいなものだからでしょう。
初めからあの場所への足掛かりとしてノアをつけ、利用していたように思えます。しかし複雑なのは最後のシーンでしょうか。
おそらく驚異的なノアを殺す、もしくは有事の際の自衛として銃を隠し持ちながらメイはノアと会います。しかしそこでノアはメイの予想よりも一つ上の考えを示しました。
「人間のつくったものであって、エイプのためのモノじゃない」
「ではエイプのためのものとはなんなんだ。話せなかった時代に戻れと?」
この言葉はメイ自身に響くのでしょうね。彼女自身があえて言葉を発さずに黙っていて、今その状態に戻りたくないから。
なんとなく宇宙を彷彿とさせる空気感で、人間の生き残り同士の通信会話の成功と、並行してノアの新たなリーダーとしての始まりを映していくラスト。
ある程度満足はできるような話ではあるのですが、厳しいことを言えばこれまでの猿の惑星でやってこなかったことが見れたのか微妙に感じてしまう。フレッシュなようで実は前にも描かれてたことのような・・・
ここから新しいサーガが始まるということが目的になっていて、土台作りに終始してしまっている感じがあるんですよね。
この感覚が強いからこそ、余計にこれまでのモノに比べて次の作品のための布石、すべてがプロローグに見えてしまいます。
圧倒的な映像表現とか、今回は特に猿たちの造形やCGはもう言うことがない上に、水のあるシーンが多くそこでもすさまじい映像になっていて、ビジュアルはやはり大満足。でもだからこそ、シーザーの話に比べてもちょっと物足りないし、次ありきな感じなのが残念です。
そんなこと言っていて、次に期待してしまう自分もやはり猿の惑星シリーズ好きなんだなと思います笑
とにかく、私はちょうどシーザーがマイ・猿の惑星だったので、このノアの物語がまた自分の世代の猿の惑星だと思われていくような、壮大なシリーズを今後期待していきます。
今回の感想はここまでです。ではまた。
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