「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013)
- 監督:ジャン=マルク・ヴァレ
- 脚本:クレイグ・ボーテン、メリッサ・ウォーラック
- 製作:ロビー・ブレナー、レイチェル・ウィンター
- 撮影:イヴ・ベランジェ
- 編集:ジャン=マルク・ヴァレ、マーティン・ペンサ
- 出演:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー 他
2014アカデミー賞で主演、助演男優賞、メイクアップ賞の3つを獲得しました。
ここ最近は常連のマシュー・マコノヒーが圧巻の演技に加え、20キロ以上の減量を果たし見事な役作りを魅せています。
そこまで大規模な公開はしていなかったように思えますが、私のまわりで観た人はみんな気に入ってました。
1985年のダラス。典型的なテキサス男でロデオ・カウボーイのロン・ウッドルーフは毎日酒びたり、女遊びとドラッグに明け暮れていた。
ある日倒れた彼は病院で、エイズにかかっていると診断される。しかも余命は30日だというのだ。
当時エイズの認識は乏しく、「ゲイがかかる病気」などとされていた。そういった人間を差別していたロンにとって自分がエイズであるなど信じられない。
そして生き延びたいために、ロンは徹底的に病気について調べ始める。
まずなんといっても見どころはマコノヒーとレト。彼らの演技は素晴らしいです。
ロンの死を感じて流す涙、自分のが被差別側になって感じる憤りと恥など感情が真に伝わってきます。しかし手のひらを返す事はせず、最後までロンはロンのままでいてくれるところも良いです。
レイヨンはトランスジェンダーである自分をさらけ出してはいるものの、憐みだけを持っているように思えます。
どうしても当時、誇りを持つことはできなかったんですね。寂しくて辛いのに強がっている姿を見ていると、今ならもう少し楽だったのかなと感じました。
この二人はそれぞれが類まれな演技を見せるだけでなく、互いに作用しあう相乗効果も素晴らしかったです。
ロンにとってはゲイの野郎、レイヨンから見れば差別主義のクズ。お互い忌み嫌う相手なのに、今はその人しか見方ではなく、そしてとても信頼している。
傷つけ合いつつも思いあう関係が切なく暖かいです。
良いシーンは多いですが、私ベストはスーパーでの買い物シーン。
加工品はダメだというロンと好きにさせろと言うレイヨン。そこでロンの旧友が出てきますね。
あそこでのロンの「握手しろよ。」 彼らしくなんとも乱暴な優しさ。レイヨンがバカにされるのを許せないということは、レイヨンを大切に思っているということだと思います。
しかもそのあとレイヨンが何も言わずにロンの言うとおりにするもんだから、とっても良い関係だと感じるわけです。
主題はエイズと治療。そしてジェンダー論。
当時のアメリカ医学ではエイズに効く薬はまだ認可されておらず、副作用ばかりが強いものしか患者はもらえませんでした。
ロンは確かに認可されていない薬をさばていましたが、多くのエイズ患者が助かったのは事実です。
ロンが闘ったのはなんだったんでしょう。おそらく本人は自身の病と闘っていたつもりでしょう。
しかしエイズだけでなく、理解のないアメリカ医学界との闘いでもありました。意思決定が遅く、金ばかりあつめて患者は死んでいたのです。
自身の生が、他のエイズ患者の生に繋がりました。彼が闘うことが、結果的に多くの人の命を救います。
そして性差別。自分だって見下していた連中と共に闘い、ロンはある種ヒーローになりました。
ロンは病気を、医学界をそしてふりかかる偏見をはねのけました。
この姿が映画として残り、多くの人をさらに鼓舞すると思います。病気、体制、偏見。
そういうものに押しつぶされそうなとき、このテキサス男は私たちと共に闘ってくれるでしょう。
中身としても、そして映画としても大事なものです。
まだ観ていない方には是非観て欲しい1本でした。
それではまた。
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