「グレート・スクープ」(2024)
作品解説
- 監督:フィリップ・マーティン
- 製作:ラドフォード・ネビル、ヒラリー・サーモン
- 製作総指揮:サム・マカリスター、サンジャイ・シンガル
- 原作:サム・マカリスター
- 脚本:ピーター・モファット、ジェフ・ブッセティル
- 撮影:ナヌー・シーガル
- 美術:ステファヌ・コロンジュ
- 衣装:マシュー・プライス
- 編集:クリスティーナ・ヘザーリントン
- 音楽:アン・ニキティン、ハンナ・ピール
- 出演:ビリー・パイパー、ジリアン・アンダーソン、ルーファス・シーウェル、キーリー・ホーズ、ロモーラ・ガライ 他
イギリスのアンドリュー王子へのインタビューを成功させ、世間に大きな反響を呼んだBBCの報道番組「ニュースナイト」の舞台裏を描いたヒューマンドラマ。
番組制作に尽力した女性たちの奮闘を描きます。監督は「THE FORGER 天才贋作画家 最後のミッション」のフィリップ・マーティン。
出演には「X-ファイル」シリーズのジリアン・アンダーソン、ドラマ「超サイテーなスージーの日常」のビリー・パイパーをはじめ、ルーファス・シーウェル、ロモーラ・ガライ。
アンドリュー王子のインタビューは、アメリカの富ジェフリー・エプスタインの少女売春に関し、彼と交友があった王子もそれにかかわっていたという疑惑を追及するものでした。
エプスタインの事件に関しては、彼が自殺したという事実含めていろいろと調べればでてきます。
~あらすじ~
2019年、イギリスのBBCの番組「ニュースナイト」は王室のアンドリュー王子への独占インタビューを実行し、その模様を報道した。
内容は王子にかけられていた未成年女生徒の性行為疑惑。多くの未成年の少女たちを売春あっせんしていたアメリカの大富豪ジェフリー・エプスタインとの王子の交友。
またエプスタインがNYCにもつ売春あっせんの温床になっていた住宅に、アンドリュー王子が頻繁に出入りしていたという事実から、直接王室へオファーしニュースナイトは王子へのインタビューをとりつけた。
きかっけは10年ほど前にNYCで撮影された写真。またそれを掘り起こしたBBCニュースナイトの記者サム・マカリスターと彼女のチームを追っていき、このインタビューの背後を明らかにしていく。
感想レビュー/考察
主題はインタビューであるがそれだけに尽きる
セックス・スキャンダル。それを取り扱った報道関連のチームの話。「スポットライト 世紀のスクープ」や「スキャンダル」など似たような題材の作品がありまして、それらを思い出す作品でした。
OPでは発端になる写真がし撮影されるシーンで展開され、そこから9年が流れてニュースナイトの取材へ移っていく。
時系列は口語しないし、構成はまっすぐなので見やすい作品にはなっています。そこまで登場人物も多くはないですし。
そこで感じたのは、主題になっているインタビュー自体にかなりのフォーカスを持っていて、この問題自体に対しての定義や各登場人物のドラマというモノが飲まれてしまっているという印象です。
最初の写真を撮ったパパラッチを作品の中に入れ込んだ意図も分からなかったです。あまり出てこないし。
重要な写真であることは分かりますし、あそこで被害者にあたる、性的な搾取をされた少女たちの顔を、観客にも見せることが、単なる記事ではなくて痛みを伴うものに深化する意味は見て取れます。
しかし、実際にはあの男性パパラッチ自身のドラマとかはないです。
それはBBCのチーム、王室にも同じことが感じられました。
追いかける記者たちのドラマ不足
先ほども言ったように、インタビューまでいかにこぎつけたかとか、インタビューそのものにかなりのフォーカスを置いていると感じる。
だからこそ、まず記者たちの部分が薄く感じます。「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」ではワインスタインのセクハラ、性的暴行の真相を追い求めていく二人の記者、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーについて見事な掘り下げをしていました。
そこには二人の人生、私生活とシンクロしつつ、思いが強く込められていた。なぜこの件を必死に追うのか。
そのような意気込みの部分が弱い。ハートがあまり感じられないのです。
主人公にあたるであろうサム・マカリスターですが、彼女には母、息子がいて彼らとのシーンも出てきます。息子との時間を差し置いて取材に出かけるシーンも。
このようなジャーナリズムの現場を見せる作品では、よくプライベートの疲弊や障害が入れ込まれます。
また、エプスタインの件での写真を眺めると、そこにはあの少女の姿が映る。そしてバスの中で、サムはふざけあっているちょうど写真の少女と同じ年くらいの少女たちをみています。
このような点では、サムの活動の動機に、バスでみた少女たちが犠牲になる可能性をみたというものがあげられるかもしれません。
しかし、描写としてはそのくらいにとどまり、またエミリーたちにはほとんどそういったことは描きこまれません。
だからずっと、インタビューの実現と、そこからいかにして王子という人や示唆される事実をつかみ取るかが大事に見えるのです。
アンドリュー英王子、未成年女性との性行為を否定 BBC取材
BBCの実際のインタビューの映像もあります。
映画の中でもこのインタビューのシーンが山場として描かれていますが、空気感とかエミリー・メイトリス記者とアンドリュー王子それぞれの印象までも、かなりの精度で再現していることが分かります。
特殊メイクを施したルーファス・シーウェルが見事ですね。王子本人を良くとらえています。
王室側として王子の潔白を表明する場になると(ニュースナイトの提案ですが)思い出演したものの、実際には法的な効力はないものの、明らかに疑惑を深めて性的な搾取があったと思わせ、そして王子の本性を引き出すことになります。
緊迫し、うまくいくかのスリリングさがあるインタビューでしたが、やはりドラマが薄いのでカタルシスが少ない。そこは物足りなかったです。
事実関係はそれこそBBCで追えますし、インタビューのリクリエーションをするくらいなら、本インタビューを見ればいいのです。
インタビューをした記者エミリー自身の記事が結構おもしろく、その場にいた彼女の印象などを知ることができるのでおすすめ。
映画だからこそ、世間が注目した事実じゃないところで、もっと広げて、王室などの権力者による性的搾取を見たり。なぜ報道するのかをその信念に照らして深堀してほしかったです。
決してつまらなくはなく、ソリッドな作品ですので、気になる方は観てみてください。今回の感想はここまで。ではまた。
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