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「キャンディマン」”Candyman”(2021)

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「キャンディマン」(2021)

  • 監督:ニア・ダコスタ
  • 脚本:ジョーダン・ピール、ウィン・ローゼンフェルド、ニア・ダコスタ
  • 原作:バーナード・ローズ『キャンディマン』、クライヴ・バーカー『禁じられた場所』
  • 製作:イアン・クーパー、ウィン・ローゼンフェルド、ジョーダン・ピール
  • 製作総指揮:デヴィッド・カーン、アーロン・L・ギルバート、ジェイソン・クロス
  • 音楽:ロバート・アイキ・オーブリー・ロウ
  • 撮影:ジョン・ガレセリアン
  • 編集:カトリン・ヘドストローム
  • 出演:ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、コールマン・ドミンゴ、トニー・トッド、ネイサン・スチュワート=ジャレット 他
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作品概要

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「ヘヴィ・ドライブ」で監督デビューを果たしたニア・ダコスタ監督が、1992年に製作されたホラー映画「キャンディマン」を再びスクリーンに蘇らせた作品。

鏡に向かってその名を呼ぶと現れるという殺人鬼にまつわる都市伝説をめぐり、若きアーティストが巻き込まれる不可解な事件を展開します。

主人公を演じるのは「アクアマン」では宿敵ブラックマンタを演じ、DCヒーロー映画界に参加しているヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世。

また彼のパートナー役には「ビール・ストリートの恋人たち」やマーベルのTVシリーズ「ワンダヴィジョン」にて超能力者として活躍したテヨナ・パリス。

彼女はダコスタ監督の次の作品であるMCU映画「ザ・マーベルズ」にも出演するようで、再びのタッグが期待されます。

その他、「マ・レイニーのブラックボトム」で印象深いコールマン・ドミンゴも出演。

今作はMGMやBRONも製作にかかわっていますが、何よりもジョーダン・ピール監督が立ち上げた製作会社モンキー・パウ・プロダクションが製作をしています。

よく予告でもジョーダン・ピール監督製作作品であることがアピールされていますね。

まあ彼も参加していますが、脚本にてはニア・ダコスタ監督も執筆に参加。

私にとってもジョーダン・ピール製作作品ではなくて、ニア・ダコスタ監督新作という感じで楽しみにしていた映画です。

公開の週末には見に行けなかったのですが、平日夜の回にて鑑賞。宣言解除後には初めてこうして仕事終わりに映画に行ったことになります。

夜21時近い上映会だったので、そこまで人はいなかったですね。

「キャンディマン」ユニバーサルジャパン公式サイトはこちら

~あらすじ~

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1970年代のシカゴ、カブリーニ=グリーン。黒人貧困層公営住宅地であるこの場所で、殺人容疑の男が逃走していた。

地元の少年は地下のランドリーにて選択をしていると、壁に空いた穴の中から容疑者の男が現れた。左手にはキャンディをもち、その右手は鋭いフックが着いている。少年の叫び声を聞き、警官隊はランドリーに流れ込む。

時は流れて現代。カブリーニ=グリーンは都市開発が進み、昔の公営集合住宅の面影はなくなっていた。

そこでアーティストとして活動するアンソニーは、次なる創作のインスピレーションを受けるために、都市伝説である”キャンディマン”の謎を調べていた。狂気に走ったとされるベビーシッター、70年代に起きたキャンディにカミソリの刃が入っていた事件。

アンソニーは伝説に深く入り込み、鏡の前で「キャンディマン」と5回唱えることで、彼が現れるというアートを作り上げた。

都市伝説と体感型アートを組み合わせたアンソニーだったが、そのアートの展示前で展覧会オーナーが惨殺される事件が起こり、さらに彼自身の身の回りでも奇妙なことが起き始める。

感想/レビュー

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過去作は観ていなくても大丈夫な、独立した作品

まずは「キャンディマン」という題材に関してですが、そもそも原作はイギリスのホラー作家であるクライブ・バーカーによる短編集「マドンナ」の中の「禁じられた場所」です。

壁の落書きだったり都市伝説、心の中に潜む殺人鬼の実体化などの要素があります。

それらが1992年の映画化に際して今作でも舞台となるカブリーニ=グリーンにフォーカスが当てられ、黒人のキャンディマン。背景にある悲惨な過去などが描かれました。

いずれも主人公は女性になっており、はじめの1992年の映画化で人種差別の背景が追加されました。そのあとには2、3と製作がされています。

しかし、そうした原作も以前の映画についても知らなくてもいい作りになっています。今作だけ初めて見ておもしろい、独立した作品。

精神的続編と呼ばれるだけあって、根底には92年の設定があったり、目くばせは確かにあります。もし見ていればうれしくなるような要素もちりばめられてはいます。

ヘレンの声でヴァージニア・マドセン、またキャンディマンの過去の人物には92年版でキャンディマンを演じたトニー・トッドが出ていたり。

しかし、ニア・ダコスタ監督はこの人種差別とホラーという融合が当たり前のものになった現代において、新しいチャプターを描いています。

アメリカの成長とジェントリフィケーション

今作は人種差別の歴史を根底に横たえながらも、それらが表層的には薄らいでいる、もしくは過去の出来事を忘れているアメリカ社会に対する強烈な復讐だと思います。

舞台となるカブリーニ=グリーンはいわゆるゲットー状態を経験しています。貧困層が追いやられ、そこで犯罪が横行し、不正を働く警官の暴力も相まって悲惨な歴史をたどります。

しかし今、ジェントリフィケーション=都市化、再開発が進む。そこで生まれているのは「ブラインドスポッティング」における見えない差別だったり、「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」で描かれるコミュニティの破壊なのです。

ジェントリフィケーションはもちろんいい面もあるのでしょうが、地域のマイノリティにとっては住処を奪っていく行為であり文化を破壊する行為にも近く、そして何より、非常に都合のいい白人層による搾取です。

都市部からはじき出しゲットーを作り上げたあとに、それを抹消するかのように再開発を行って貧困層にはとどめを刺す。

今作でニア・ダコスタ監督は今まさに起きる問題とそれを引き起こす過去から繋がる人種差別を見事に融合し、新たなる伝説を生み出しました。

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覆らない差別的な構造

伝説の起源をたどるほどに、そこには壮絶な人種差別と暴力の歴史があるのですが、主人公の設定も巧妙です。

ジェントリフィケーションに乗っかって、高級マンションに住んでいるのが主人公のアンソニーと、恋人たるブリアナ。

彼らはどちらかといえば、一見勝ち組ですし、かつて虐げられたカブリーニ=グリーンの住人やキャンディマンとは異なる側にいると思われます。

しかし「奴らは俺たち黒人が作るものが好きなだけだ。俺たちが好きなわけじゃない」ということです。

やはり持っている側の人間にいるはずでも、白人の展覧会オーナーや批評家にとっては、”チャンスを与えてやった”という認識ですし、終始なめた態度がありますね。

表面上確かにアメリカは変わった。黒人の富裕層も出ている。でも・・・

結局は白人に許され、何か価値を提供し、彼らの下の階層にて繁栄しているにすぎないということです。

美しいビジュアルと鏡像、逆転

その基本構造をまあとにかく美しく仕上げている監督。これが実はうれしいところで、画がとにかく良かったです。

オープニングタイトルに向かっていく時点で、UNIVERSALロゴとかが鏡写し(今作の肝)になって反転していたり、また同じく鏡に映したようなシンメトリーな画面も。

ライティングの見事な舞台での殺人描写などカッコいい。マジでクール。

レッドとブルーのライティングでの最初のスラッシャー。また望遠にてのぞかれる批評家の殺害、レッドのラインが窓に惹かれていくショット。甘美な血の香りです。

何度か挿入されるのは、高層ビルが立ち並ぶカブリーニ=グリーンの街を上下逆さまに撮ったショットです。

濃い霧が立ち込めることで生まれる幻想的な感覚は、このキャンディマン伝説における幻のような感覚とマッチしていますが、逆さづりの不安定さと同時に、下の者が上へという構図からも過去からの復讐のニュアンスが濃厚に感じられます。

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ボディホラー

ホラーの手法としてはこの甘美な画づくりのほかにも、鏡を巧みに配置することからくる、そこに映りこむかも?というスリリングさを使用。

また、ダコスタ監督は「ザ・フライ」のような変身タイプのボディホラーも持ち込んで演出しています。

最終的なギミックのためにも必要であり、また蜂による穿刺という点もキャンディマン伝説のオリジンに関連させるなどこの点もスキのない要素。

単純に前作の「ヘヴィ・ドライヴ」がフェミニズムを主軸としたドラマ作品だったことを考えても、ちゃんとジャンルを扱って見せる素晴らしい手腕だと思います。

その昔白人の女性と恋に落ちたというだけで拷問と私刑にあい、語るに辛い物語を背負ったキャンディマン。

無実の罪で警官隊の暴力で顔面を割られ死亡したキャンディマン。

無くならない差別を前に、この都市伝説は必然性を帯びて迫りくる。

アンソニーが鏡に見るのはキャンディマンというモンスターの幻影か、もしくは自分自身に潜在的にある危険と可能性か。

自分もこのように残酷な死を迎えるかもしれないという恐怖にも思えてきます。

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芸術から現実に出現するダークヒーロー

ブリアナの過去にすらその人種差別の過去が見えますが、今作でニア・ダコスタ監督は都市伝説と現実を究極的なレベルまでシンクロさせます。

キャンディマンは現実においてなおやまないBLMにしびれを切らし、人種差別に対する怒りと復讐の権化。

最終の局面においてはそれまでの影絵と同じく、結局は白人の手によって黒人が殺されるという皮肉なショットが使用され、変わらぬ現実についにキャンディマンが完全復活。

ここはさながらダークヒーロー誕生のようで、ホラー映画という枠を超えていました。

全ての過去の被害者たちを背負い、そしてすべての差別者の前に現れ容赦なく命を刈り取る。私刑を加えた加害者にも容赦はなかったのだから。

このとびぬけた社会情勢とホラーの融合はそれだけにとどまらないのが個人的に最高に上がったところ。それは芸術であること。

アンソニーは芸術に、その暴力の存在を込めました。世の中に伝えたいと。

それが実際にこの映画の中の現実においては都市伝説キャンディマンを召喚し、世界を変えたのです。

映画は芸術です。芸術によって現実世界にも影響を及ぼせるのなら。

キャンディマンという名前が弱者にとっての武器となり、そして抑圧し差別し虐げる者にとって恐怖の言葉となるのなら。

その名を唱えよ

単純にホラーとしてこの艶やかで魅了されるビジュアルを持つということや、人種差別を盛り込んだストーリーだけでなく、ここで描かれている芸術からの復讐というものも観ている観客の現実に影響させるまでに昇華しているのです。

非常に楽しめましたし、画がとにかく最高でしたし(しつこい)、またキャンディマンは自分にとっては完全にダークヒーローです。

はっきりと言いたい点は1つだけ。

この作品やたらとジョーダン・ピールの名前を使って宣伝されているのですが、やはり覚えてほしいのはニア・ダコスタ監督の名前です。ネームバリューが今はピール監督には及ばないからの判断でしょうけれど、やはり覚えて皆に伝えるべきはダコスタ監督。

その名を唱えよ。

ということで今回は私としては最高of最高な感じになっていたので盛り上がって感想を書いてしまいました。

映画館でやってるうちに是非とも見てください。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

それではまた次の記事で。

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