「彼らは生きていた」(2018)
- 監督:ピーター・ジャクソン
- 製作:ピーター・ジャクソン クレア・オルセン
- 製作総指揮:ケン・カミンズ テッサ・ロス、ジェニー・ウォルドマン
- 編集:ジャベツ・オルセン
- 音楽:デビッド・ドナルドソン、ジャネット・ロディック
イギリスBBCの所有する何百もの第一次世界大戦のアーカイブを元に、カラーリングなどのデジタル処理を施し、実際に戦地へ赴いた人々の音声を組み合わせ製作されたドキュメンタリー。
「ロード・オブ・ザ・リング」や「キング・コング」のピーター・ジャクソン監督が、およそ100年前に前線へ赴いた若者たちをよみがえらせます。
今作はドキュメンタリーとして、その哲学と映像技術面で非常に高い評価を受けていて、イギリスのアカデミー賞であるBAFTAでは長編ドキュメンタリー賞にノミネート。
日本公開はやや遅れてしまいましたが、無事に映画館で観ることが叶いました。
公開からは2週遅れくらいで、しかも平日の夜遅い回でしたが、結構人が入っていましたね。
1914年にサラエボ事件を発端に勃発した第一次世界大戦。
そこでイギリス陸軍として志願、訓練を終えてから実際に無人地帯などの前線へ行き、ドイツ軍への突撃と終戦から帰還までを通して見せます。
そしてそこに、数多くの当事者たちのインタビューやコメント音声が重ねられ、一つの物語となって観客へと届けられていきます。
私個人としては、今作はもちろんWWIを扱うドキュメンタリーであるのですが、より個人的な作品に思えました。
まず今作は視点の置かれる位置が、大局ではありません。
戦争勃発から戦略、勢力図や大きな意思決定などは全くなく、歴史という大きな中でのピースという位置づけでもないんです。
もっともっと、イギリスの市民の視点であり、そして現地へと行進した若者たちに寄り添った視点でした。
この視点自体が私にはとても新鮮で、彼らと共に志願し訓練し意気揚々と前線へ行き、絶望し疲弊しそして帰国した気分になりました。
しかしここで重要なのは、戦場や戦争自体にはフォーカスが置かれていないこと。
この映画が絶えず映しだしているのは、第一次世界大戦ではなく、「第一次世界大戦に参加した彼ら」だと思うんです。
確かに、デジタルリマスターされ、カラーリングされた映像には圧倒されます。
カラーリングの自然さも本当に見事で、彩度や色温度にも違和感はなく素晴らしい。そして古い映像ではコマが足りないことで起こる早送りな感覚を、巧くデジタル処理の穴埋めによって滑らかな映像を実現しています。
それは兵士たちの行進や馬の走る姿、爆撃に砲撃の臨場感を高めてはいます。
でも戦場のリアルさを上げるために、今回のデジタル処理がなされているのではないと思うんです。
それよりむしろ、この映画を観て記憶に残るのは兵士たちの笑顔でした。
彼らの生き生きとした顔、悪ふざけする姿、カメラに向ける表情を鮮明に残す。
まだ15~17歳くらいの少年たちが、楽しいイベント気分で志願し入隊して戦地へ。そこでは何か楽しめることを見つけては一時でも遊んで過ごす。
前線ですら、トイレでの小話や内輪ネタがありますし、前線と後方の交代劇を、まるでキツいバイトのシフト上がりみたいに語るんですよ。
彼らの青春というものは、第一次世界大戦にありました。
そして同時に、第一次世界大戦に青春を奪われてしまったのかもしれません。
語りと写真のモンタージュだけでもあまりに凄惨な突撃作戦を経て、仲間を撃ち殺して楽にしてやることしかできず、最後はドイツ軍捕虜と戦争終結を願った若者たち。
帰国すると彼らの居場所はなかったわけで、半ば騙されて戦場へ行き色々なものを失ってしまったのかも。
彼らだって生きていた。仲間とふざけあって、一緒に食べて寝て、笑って過ごした時間があったんです。
それがかなりの危険を伴うピクニックみたいな、第一次世界大戦であった。
だから、その生を覚えておくためにも鮮やかさや滑らかさを補い、彼らの笑顔を残すべきと考えたんじゃないでしょうか。
私にとってはとにかく、この若者たちの日々と青春を、美しい形で残したことが素晴らしいと思う作品です。
映像と声(音)で命が宿る。
戦争のドキュメンタリーではありますが、そこにいた若者たちに命を吹き込み鮮明な記憶として残すことに意義を感じる作品でした。
短めで、かつサクサクと展開していくタイプ。あとサム・メンデス監督の「1917 命をかけた伝令」とセットで観るのもかなりいいのでおススメです。
というところで感想は終わります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
ではまた次の記事で。
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