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「戦争と女の顔」”Beanpole”(2019)

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beanpole-movie-2019-Kantemir Balagov 映画レビュー
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「戦争と女の顔」(2019)

作品概要

beanpole-movie-2019-Kantemir Balagov

  • 監督:カンテミール・バラゴフ
  • 脚本:カンテミール・バラゴフ、アレキサンダー・テレホフ
  • 音楽:エフゲニー・ガルペリン
  • 撮影:クセニヤ・セレダ
  • 編集:イゴール・リトニンスキー
  • 出演:ヴィクトリア・ミロシュニチェンコ、ヴァシリーサ・ペレリジーナ、アンドレイ・ビコフ、イゴール・シロコフ、コンスタンチン・バラキレフ 他

ロシアの新鋭監督カンテミール・バラゴフが、戦後のレニングラードを舞台に生きる二人の女性を描くドラマ映画。

元兵士であった二人の女性を、ヴィクトリア・ミロシュニチェンコ、ヴァシリーサ・ペレリジーナがそれぞれ演じています。

この作品は批評家筋でかなりの高評価を得ており、カンヌ国際映画祭ではクィア・パルムにノミネート、ある視点部門を受賞しています。

基本的には海外の批評誌をめぐっていて見つけた作品で、日本での公開自体は決まっていないようです。

海外版ソフトを購入しての鑑賞となります。

※日本公開が正式に決定しました。

Yahooニュース(2022.4.7)「戦争は女の顔をしていない」が原案 カンヌ国際映画祭2冠「戦争と女の顔」7月公開決定

~あらすじ~

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1945年、第二次世界大戦直後のレニングラード。

戦争により荒廃した町で、イーヤは看護師の仕事をしている。

彼女は従軍し前線で戦ったことによりPTSDを患っており、発作的に身体がまったく動かなくなるという症状を抱えていた。

長身でありながら病ゆえに不自由さのある彼女を、周囲は”ビーンポール(でくの坊)”と呼ぶ。

イーヤは幼い子どもパスハと暮らしているが、ある夜にそのPTSDによる悲劇が起きてしまう。

そして、イーヤの元に、戦友であるマーシャが前線から帰ってくるのだった。

感想/レビュー

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バラゴフ監督の作品は初めて観ましたが、色彩感覚に特徴のあるスタイルでした。

戦後を生きる二人の女性を主軸とし、荒んだレニングラードや追い込まれ傷ついた人々が多く登場し、狂気的な関係性を形作っていく。

しかし寒色やモノトーンにすることはせず、今作は赤と緑という優しく暖かみある色を重要な役割として使っています。

さらにライティングはすこしオレンジがかったものが多く、剥げてしまっていたり崩れている外壁や通りを映しても、どこか優しさを持っています。

荒れ果ててしまったレニングラード。

そこではある意味で生の機能を失った女性たち、男性たちが登場しますが、残酷な現状や絶望ではなく、生の模索を見るようです。

こうした描き方全てに、監督の持つ暖かな目線が現れています。

もちろんマーシャを抱くイーヤと院長のベッドシーンは見るのも辛い光景であり、行われるアクション、轢死などの出来事はやはり辛いものなのですが。

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主人公は二人と言っていいのですが、どちらも素敵です。

イーヤを演じるヴィクトリア・ミロシュニチェンコは180cm超えの長身で、そのPTSDでの硬直から”ビーンポール(豆の支え木:でくの坊)”というあだ名をつけられています。

彼女の少女のような終始怯えた表情は非常に繊細で、また白に近しいブロンドの髪と眉は精気を感じないほどに薄い。

瞳に込められたのは戦争、包囲戦の傷跡です。

同じ傷跡はマーシャにも見えます。

ヴァシリーサ・ペレリジーナはブーツから画面に登場し、強気でリードする。

そしてイーヤと狂っているような脅迫じみた関係を作っていくわけですが、負った傷はにじみ出ています。

なんとか生を再び掴みとろうともがくほどに、それはイーヤにとっては辛い現実になりますが、マーシャも哀れに見えてきます。

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確かに二人の関係性、取引は狂気にも思えますが、作品のゆっくりとした進行や美術・衣装が後押しし、決して突き放しません。

マーシャのパスハの死への反応、そして両親への挨拶での話を聞くに、望んでいた妊娠ではなかった。

しかし戦地で生き残っていくには、役割としての女性の勤めを果たす他なかった。

しかも、戦争により追い込まれただけでなく、そこで価値を保証していた生殖機能までも奪われたのです。

戦後レニングラードは、いやロシアは、ビーンポールそのものなのかも知れません。

広大でありながらも立ち尽くす無駄な役立たず。

ですが立ち直っていくには、再び生の価値や意味を見いだしていくには、将来、未来の象徴たる子どもを宿していく必要がある。

でなければ、首から下の動かない不能になってしまった患者のように、死んでいく他ないのです。

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イーヤを象徴していた緑が、壁を塗るペンキに、そしてマーシャの衣類に、ドレスに入っていく。

逆転するようにパスハ、そしてマーシャの特徴であった赤は、血を流すところまで至りイーヤに入っていきます。

互いに両極的にも見えた関係性、イーヤとマーシャは交差し入れ替わり、融合していく。

戦地からの撤退時期が異なるだけで、二人は同じ存在だったのです。

バラゴフ監督は個人としてのドラマを持つ二人の女性から、戦後ロシアの再生の模索を描きます。

それはよくある戦後のドラマから外れて、少し壊れたものですが、繊細な舞台の描写が優しく包み込んでいます。

直視できないほどに不快だったり厳しくもありながら、必ずまた生きる意味を見いだせると強く訴えてくれます。

ロシアからとても素晴らしい作品でした。

カンテミール・バラゴフ監督はまだ29歳なんですね。これからも期待大の監督。

日本での公開も是非お願いしたい。

今回の感想は以上。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それではまた。

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