「赦し」(2020)
- 監督:ジェム・オザイ
- 脚本:ジェム・オザイ
- 編集:ジェム・オザイ
- 出演:ティムル・アジャル、エミネ・メルイェム、ハカン・アルスラン 他
トルコのジェム・オザイ監督が、ある悲劇をきっかけに後戻りのできない状況に陥って崩壊する家族を描くドラマ。
今作は第33回の東京国際映画祭のTOKYOプレミア2020にて上映されました。
映画祭の中ではあらすじからかなり期待していた1本でした。トルコの映画自体あまり観たことがないためその点でもいい経験になったかと思います。
あらすじ
人里離れた山の中に一家が住んでいる。
父と母、二人の息子で暮らす彼らだが、父は兄弟の弟を可愛がっており、兄アジズには厳しく接していた。
ある日アジズは弟と山で遊んでいたが、猟銃で誤って弟を撃ち殺してしまう。
悲しみに暮れる両親、口を聞かなくなり悪夢にうなされ続けるアジズ。
母はなんとかアジズ寄り添おうとするが、父は現実を許せず離れていく。
トルコの映画は詳しくなくて申し訳ないですが、少なくともこの作品はすごく静かで行間を読ませるタイプの作品でした。
そもそも台詞は極端に少ないのですが、事件のあと家族はみな口を閉ざすようになるのでますます静かに。
ただその分、それぞれの表情や所作がすごく目立っていきます。
アジズを演じた子は演技経験の無い素人とのことですが、なんとなくその無垢さというかまっさらな感じがよかったと思います。
やたらに表情を変えたり極端にすることなく、読み取れない顔というのもまた良いなと。
そしてとにかく怒り心頭な父。
OPでアジズを起こすところから、目力が凄まじい。
終始父は目を見開いて凝視。スクリーンからの圧にはこちらも参ってしまう勢いでした。
身体的には地震かと思うほどの怒りの貧乏揺すり。笑ってしまう勢いですが、父は話さずに態度で押していきます。
題材はもちろん、家族が抱えきれない悲劇に直面したときの崩壊と再生へいかに進むかのドラマですから、家庭崩壊ホラーである「ヘレデタリー 継承」に通じるところもあります。
家族内での事故死を引き金にコミュニケーションが断絶され、それゆえにどこまでも地獄が続く。
お父さん実際に家族避けて納屋?で寝泊まりしますし。
そして根底にはカインとアベルが置かれています。愛される弟と、愛されず弟を殺してしまう兄。
きっかけになっているのが蛇であるのもまたすごく宗教テーマを感じさせます。
怪我とかではないために完全に後戻りできなくなった家族はただバラバラになっていきます。
話すどころか同じ空間にいようとすらしないため、入った亀裂を繋ぎ合わせられるはずがない。
そこで今作はさらに地獄を展開し、もう一度(未遂ですが)事件を放り込み、そこでの父の言動からもう引き返せないところへと叩き落とす。
で、何かのきっかけで家族の絆が取り戻されるのかと思えば、監督は意地悪にもそこは曖昧にして観客に委ねます。
父が息子を助けた後、ついに3人家族が病室に揃うわけですが、その先は見えません。
ただここに来たとき、私はアジズを赦すだけでなく、アジズが父を赦せるか、母が父を赦せるかも入ってきたように感じました。
寄り添わず、柱としても立たず逃げ続け、しまいには息子を殴った父。
「自らを赦さないものの過ちは赦される。」
果たしてこの家族どうなるのか、これはこちらが登場人物を赦すことができるのかによって変わってくるかもしれませんね。
思ったのですが、兄弟、姉妹格差映画って秀逸なものが多いですよね。
一般公開が決まるかというと難しそうな作品ですが、だからこそ映画祭で鑑賞することができて良かった1本でした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それではまた次の記事で。
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