「ワイルドライフ」(2018)
- 監督:ポール・ダノ
- 脚本:ポール・ダノ、ゾーイ・カザン
- 原作:リチャード・フォード『Wildlife』
- 製作:オーレン・ムーヴァーマン、ジェイク・ギレンホール、リヴァ・マーカー、アン・ルアク、アレックス・サックス、アンドリュー・ダンカン
- 音楽:デヴィッド・ラング
- 撮影:ディエゴ・ガルシア
- 編集:マシュー・ハナム、ロウ・フォード
- 出演:エド・オクセンボウルド、キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホール、ビル・キャンプ 他
俳優として活躍するポール・ダノが初めて監督デビューを飾ることになる、子供の視点から描くある家族の物語。
「ドライヴ」などのキャリー・マリガンと「ナイトクローラー」などのジェイク・ギレンホールが夫婦役を演じ、「ヴィジット」などのエド・オクセンボウルドが彼らの息子であり本作の主人公を演じています。
今作の脚本はリチャード・フォードの同名小説をもとに、ポールと彼の交際相手であり女優のゾーイ・カザンが脚色しているんですね。
ポール・ダノが監督デビューということで楽しみにしていた作品で、サンダンスをはじめいろいろな映画祭で出品、高評価を得ながらようやくの日本一般公開となりました。
地元のミニシアターで観たのですがそんなに多くは人が入ってなかったですね。場所によるかな?
1960年代のモンタナ。引っ越してきたジョーは、ここで新生活を始める。
だが、ある日父ジェリーが解雇されてしまい、母ジャネットは水泳教室のコーチを始める。
ジェリーは復職のチャンスもあったのだが、それを断り、山火事の消火部隊に参加すると言い出した。
長く家を空けること、命の危険もあることでジェリーとジャネットは衝突し、溝の開いたままジェリーは出ていった。
そして母と二人きりになったジョーは、次第に母が別の男とよく合うようになっていくことに気づく。
ポール・ダノ監督デビュー作品は、主演のエド・オクセンボウルドもポール・ダノに似た感じの雰囲気のある子で、まるで監督自身が経験した子供から大人への変遷を、振り返りみていくような映画でした。
大きなドラマは父と母ですが、すべてこの主人公のジョーの目を通して語られます。
またその語り口というのも、やはりジョーが見てしまう、聞いてしまうというようなものに限定されていていました。
その切り取り方が非常にあっさりとしながら実は注目を強く引くものになっていて、とても巧く観客をジョーに寄り添わせていると感じます。
父の解雇のシーン、「ちょっと話がある」と呼ばれた後にカメラが映しているのはジョーです。
画面の外へといったジェリーは全く見えず、どことなく会話が聞こえてきます。そしてジョーはそこで父が解雇される瞬間を見聞きしてしまう。
ふと目をやればそこにはシーツの敷かれたソファがあり、父が母とベッドで寝ていないことに気づく。
母の部屋で床を見れば脱ぎ捨てられたドレス。最悪の想像。
とにかく、父も母も傍から見ればまあエゴとかプライドとか、意地になったり不安定になったり。人間らしさを見せ、それ自体はごく普通のことです。
しかし今作はそれを子供がみることになります。
キャリー・マリガンもジェイク・ギレンホールも個人としても親としてもと二つの面を持ち苦悩しながらぶつかり消耗する様が素晴らしかったです。
完全であり見本であり、理想であると思っている父と母。親という存在。彼らを一人の人間として見る時の怖さや恥ずかしさ、悔しさや不安は誰しも感じたことがあるでしょう。
夕食の支度が放置され、ベッドでエプロン姿のまま寝込む母を見るジョー。料理という日常生活がとまってしまった。
しかしいずれはそういう時が来てしまうこと。何らかの幻想が終わること。今作は家庭の危機と山火事が重ねられています。
タイトルは「ワイルドライフ」まあ厳しい人生という感じでしょうけれど、実際は「ワイルドファイア」(山火事)が重要です。
始まってすぐの遠景ショットの中に、遠くの山からの大きな煙が見えます。今作では雄大な自然を背景に、人が小さく映し出されることが多いです。
ジョーが車を降りて山火事を見ますが、なるほど上へパンしたときに映るあの地獄絵図。
勝てっこないです。あれが一家には襲い掛かっている。
学校の授業でのシーンがある意味すべてを語っているんだと思います。
山火事の威力やその結果などを説明され、ノートをとるジョーに、クラスメイトの女の子はノートをとる意味はないといいます。山火事には備えられない。それが起きたときにはもう手遅れだからと。
非常に厳しいことですが、でももしかするとそれこそ、子供が大人にプロセスなのかもしれません。
大人だって一人の人間であり、見たくないことだってあるし勝手なこともある。
それを理解しなければ、自分だって成長できないし、人を思いやることもないのかも。
今作は家庭の危機をやたらに凄惨に描いたりはしません。
柔らかな日の光や夕暮れ、すこし寒さも感じるブルーの空などを通して見せています。
牧歌的だったオープニングの家の外での父と子のショットが、もう一度、父が帰ってきたときにも同じ構図で映されますが、前者と後者ではジョーの世界への理解が全く異なっているんですよ。
ジョーは聞きます。
「これからどうなるの?」
父も母も答えることはできません。この先どうなるかなんて、誰にも分らないというのが、ジョーが知るべき答えだからです。
最低な親だなんて思いません。ただ人間ってこういうものなんだと、弱さを学ばせてくれることに感謝したいと思います。
そんな両親がいて本当に幸せだと思うからこそ、別居前ではなくてもう一度集ってから、ジョーは幸せを残す写真を撮るんだと思います。
父と母、二人のおかげで一人の人間として大きくなれたから。今幸せだから。
ポール・ダノ初監督作。個人的には素晴らしい作品でした。
辛いこともありますが、必要なことと思わせてくれますし、こうした世界の苦い部分を学んだ人なら大切な作品になると思います。おススメです。
今回の感想はここまで。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。ではまた次の記事で。
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