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「ストレイ 犬が見た世界」”Stray”(2020)

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stray-documentary-movie-dog-2020 映画レビュー
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「ストレイ 犬が見た世界」(2020)

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作品概要

  • 監督:エリザベス・ロー
  • 製作:シェーン・ボリス、エリザベス・ロー
  • 製作総指揮:アイナ・フィッチマン
  • 撮影:エリザベス・ロー
  • 編集:エリザベス・ロー
  • 音楽:アリ・ヘルンバイン
  • 音響:アーンスト・カレル
  • 出演:ゼイティン、カルタル、ナザール 他

トルコ、イスタンブールの街に溢れる野良犬たちを彼らの目線から追っていき、紀元前に残された言葉を交えながら現代の人間社会を見つめていくドキュメンタリー。

監督はエリザベス・ロー。彼女は香港に生まれアメリカで芸術を学んだ方で、これまでに映画誌やアカデミーの選出を受け、短編映画をたくさん撮っています。

今作が彼女にとっては長編初監督になります。

作品自体は批評筋から高評価を受けていて、様々なインディ系の映画祭などでノミネートを果たしています。

作品については全然知らなかったのですが、劇場での予告から犬視点でのドキュメンタリーという挑戦自体に惹かれていました。3月末に公開されてはいたのですが、ちょっと公開規模的に小さかったこともあって見逃したままに。

そろそろ終わってしまいそうなので駆け込みで鑑賞してきました。

「ストレイ 犬が見た世界」の公式サイトはこちら

〜あらすじ〜

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20世紀におけるトルコの政策は、街にいる野良犬たちを大量に殺処分するものであり、それは大きな抗議活動を生んだ。

結果としてそうした政策は見直されることとなり、21世紀になってからは動物保護の法律が建てられる。

結果、トルコのイスタンブールでは捕獲もされない野良犬たちで溢れかえることに。

今作はそんな野良犬にフォーカスうぃ当てて、彼らとともにイスタンブールの街を大通りから波止場まで一緒に歩いていく。

彼らを通して見えてくるのは一体どんな世界なのだろうか。

感想/レビュー

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人間を見つめるため離れた別視点

動物ドキュメンタリーではありますが、その生態についてや彼らの置かれた環境についての作品ではないと思います。

たしかにこの映像記録は犬たちを負うものですが、実際に見ているのは犬ではなく人間の姿です。

野良犬の目線というのは、私達が普段持っている視点と異なります。

作品の撮影技術としても異なりますが、そもそもの立ち位置があまりに異なるのです。

犬は犬であり人間ではない。

それゆえに一歩引いたような視点を持ち、普通は映画を見る人間もその世界の一員であるはずが、切り離された距離をくれることになります。

だからこそ、私達のことを私達ではない視点から観察することができるのです。

別世界の映像体験

技術的な面でもそれは後押しされており、まずは視覚面。

犬と同じような位置に常に置かれたカメラ。

低い視点から決して見上げることはない。”見える世界が違う”を画面自体で再現して見せています。

さらに特筆すべきはその音響でしょうか。

録音技術なのか音声編集なのか両者か。

この作品は特徴的な音を持っています。距離があるようなこもったような人間の会話。

犬にとっての聴覚を再現したような普段聞こえない音が観客の聴覚を刺激し、やはりいつもの映像作品とは異なる映画体験を与えてくれます。

おぼろげに籠もったような音であると、何気ない会話に対しても普段以上に耳を傾けている自分がいました。

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撮影は低さだけでなく、画の美しさも楽しみました。

映ってくるのは本当にただの街であるのですが、マジックアワーの感じとか、夜の闇に明け方の陽の光など、雑踏と混沌のなかに美しさが見出されています。

何気ない日常的な、演出も装飾もされていないこの世界を、ふと別の目線で見つめると、そこにある美しさが見えるものですね。

自分で苦しむ人間を見つめる

そんな引いた視点で、犬たちは人間社会なんてお構いなしの自由さを持っています。

好きなところを歩き、好きなところでねて気が向いたところでクソをする。

人間にとってはウンチしちゃだめな公園だろうと、それって犬には関係ないですよね?と言わんばかりに無視してウンチ。

女性の権利拡大を求めるデモ行進の中で、急に交尾を始める様には流石に笑います。

人間はいつしか社会をつくってルールを作って、自らの生き方を窮屈にしている。

それはもちろん良い生活を送るためですが、同時に貧富や格差を生み出している。

犬たち自身には、たとえブルジョアが連れているファンシーな小型犬だろうと、そこらの野良犬だろうと差というものはない。

しかし人種民族にはうるさく、浮浪する子どもたちを取り締まって追い出そうとする人間社会のなんと滑稽なこと。

行くあてのない犬たちは放置され、時に避けられ時に可愛がられ。しかしアレッポからの難民の子どもたちは追い立てられ捕らえれてしまう。

私たちは何をしているのでしょう。

真理は紀元前に見つかっているように思えるも、いまだにこうして排斥を続ける。

「人間の生き方は不自然で偽善的だ。犬に学ぶのが良い。」(シノペのディオゲネス BC360年)

この言葉の通り、私たちのだれかではない全く別の犬という目線から人間を観察すると、不条理さが際立ちました。

犬はかわいいですし眺めているだけで心洗われるようなイスタンブールの美しさも楽しめます。

様々な着眼点からドキュメンタリー映画は作られますが、全然見たことのない世界と、同時に今生きる私たち自身への深い洞察をくれる作品でした。

公開規模が小さいために見逃しそうになりましたが、なんとか見ることができて良かったです。

機会があれば皆さんもぜひ。

今回の感想は以上。

最後までありがとうございます。

ではまた。

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