「ウルフウォーカー」(2020)
- 監督:トム・ムーア、 ロス・スチュワート
- 脚本:トム・ムーア、 ロス・スチュワート
- 製作:ステファン・ローランツ、トム・ムーア、ノラ・トゥーミー、ポール・ヤング
- 音楽:ブリュノ・クレ
- 美術:トム・ムーア、ロス・スチュアート、マリア・パジェラ
- 出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン、サイモン・マクバーニー、マリア・ドイル・ケネディ 他
その独自のスタイルと圧倒的作画を誇るカートゥーン・サルーンが、「ブレンダンとケルズの秘密」のトム・ムーア監督を迎え送るファンタジーアニメーション。
眠ると狼となるウルフウォーカーの伝承をテーマに、二人の少女の友情と信念を描きます。
トム・ムーアと共に、「ブレンダンとケルズの秘密」では美術監督だったロス・スチュアートも共同監督を務めています。
ちょうど昨年末には「ブレッドウィナー」を観てカートゥーン・サルーンには非常に感銘を受けましたので、今作は同スタジオ新作とのことですごく楽しみでした。
今回はTIFFの合間に恵比寿で観てきました。平日夕方だったので空いてましたね。次の夜の回とかはもっと入っているかも?
ちなみに今作は年齢問わず観れるアニメらしいアクセスの良さがあります。是非お子さんに観てほしい、大切な心を持っているので親子で観てくれると嬉しいです。
1650年、アイルランドの街キルケニー。街の外の森の中には狼たちが暮らしており、イングランドからやってきた護国卿は、森の狼たちをすべて掃討しようとしていた。
ハンターとして護国卿に仕える父を持つ少女ロビンは、自分も父のように狼退治をしたいと夢見ながらも、父にたしなめられる日々。
ある日彼女は父に隠れて森へ出かけるが、そこでオオカミと人間どちらにも変身できるメーヴに出会う。
メーヴを通じて狼たちや森のことを知っていくロビンだが、その友情は父や護国卿に逆らうことになるのだった。
カートゥーン・サルーンのアニメーションレベルの高さは周知の事実で、期待をしながら観に行きますが、それを優に越えていく素晴らしさです。
2Dの造形でありながら多層なレイヤーを感じ、その色彩や動きの柔らかさも、ただ観ているだけでとても楽しい。
ロビンたち街側は直線的でシャープな作画になっているのに対して、メーヴたち森のキャラクターたちは丸みを帯びた柔らかな感触。タッチや彩色の違いが属性を持っています。
今回はウルフウォーカーの魔法があることから、光輝く表現も多く登場しますが、それもまた非常に美しいものです。
またウルフウォーカー視点でのアニメーションがあり、主観視点ゆえに前方へのアクションを見事にアニメーションにしながら、ここでも匂いや存在をカラーリングしした光、オーラで表現していてそれもスゴい。
今作は戦いのシーンがあったりしてアクションも満載で、その滑らかさ含めて素晴らしい出来です。
とにかく、目が幸せです。独特なタッチの完成された世界で、命を吹き込まれて遊ぶキャラクターたち、背景を眺めるだけで心地よい。
護国卿と狼たちを全体の配色で分けていたりもしますし、シーンのトーンに合わせた画面の色彩統一も素敵です。
血に染まったようなおどろおどろしい広場でのシーンなど、強烈な印象を残します。
ただアニメーション表現がスゴいだけではなく、そのドラマと哲学が素晴らしく、その表現媒体としてアニメーションが輝いているというのが真に見所。
ロビンとブメーヴの出会いや二人の友情は、ガール・ミーツ・ガール、青春映画の喜びに溢れています。
父以外には親しい人がおらず、町では他の子どもグループに意地悪されるロビン。
森の中で狼たちと一人暮らすメーヴ。
どちらも孤独であり、接触は除いても親との距離の寂しさを抱えていますね。
今作は二人の共通点から異なるものとの理解や共生への旅を見せていきます。
退治する側とされる側の友情や、周囲の人間、親との確執は「ヒックとドラゴン」のようですね。
ロビンとメーヴの友情が本物だからこそ、メーヴを止めるため檻に入れるロビンが辛すぎる。大切だから、閉じ込める。
窓枠が檻のようになって顔にかかるロビンと呼応していますね。どちらも自由に、好きなように生きたいのです。
大人に押し込められたロビン本人が、同じように本人のためだと、メーヴを閉じ込めるのは本当に辛いです。
ウルフウォーカーはオオカミに姿を変える。
人間とオオカミの身体を行き来することで、どちらの視点でも世界を捉えます。
それをアニメーションで追体験しながら、この物語は円を描いて融合していきます。
繰り返される表現ですが、物質としての人間とオオカミに、魂としてオオカミと人間が浮き上がり、繋がりが輪となるんです。
オオカミは多くの西洋の物語において、悪しき存在や魔を表現するものとして登場します。
もちろんロビンも初めはそう捉え、駆除を目指していましたが、実際には森の動物たちとの共生を選んでいきます。
そしてここでは、本体の喪失がすべての命の肯定につながっていく。オオカミが人間になっているとも、人間がオオカミになっているともとらえられるウルフウォーカー。
魂は一つ、その姿を変える者。私たちは皆同じく魂を持つ。突き詰めていけば命とはそれが入る媒体が異なるだけなんです。
みな同じく尊い生命です。
大地や森、すべての命を尊重し、共生と自然との調和を、豊かな色彩とタッチで、まさに世界を統一するアニメーション。
純粋に思いやりのある、真っ直ぐな心。誰しもを優しく抱擁するような、すべての人に見てほしい作品です。
女の子の解放とか、自己正義を振りかざす男性とか現代に通じる要素も巧いこと組み込まれていますし、このスタジオの「ブレッドウィナー」でも感じた物語の魔法もあります。
現実には植民地支配は止まらず環境破壊も進行している。それでもこの二人の友情の話から、私たちは良い世界へ歩めるはずです。
アニメーションレベル含めて今年のアニメーション映画で最高峰。アカデミー賞レースにも確実に参入すると思います。
これは是非劇場で観てほしいおススメの作品でした。
感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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