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「1976」”1976″(2022)

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Chile-1976-Manuela-Martelli-movie 映画レビュー
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「1976」(2022)

Chile-1976-Manuela-Martelli-movie

作品概要

  • 監督:マヌエラ・マルテッリ
  • 脚本:アレハンドラ・モファット、マヌエラ・マルテッリ
  • 製作:アレハンドラ・ガルシア、ホアン・パブロ・ググリオッタ、ドミンガ・ソトマイヤー
  • 音楽:マリア・ポルトガル
  • 撮影:ソルダッド・ロドリゲス
  • 編集:カミーラ・メルカダル
  • 出演:アリン・クーペンヘイム、ニコラス・セプルベダ、ウーゴ・メディナ、アレハンドロ・ゴイク、アントニア・セヘルス 他

ピノチェト政権による独裁政治が敷かれていた1976年のチリを舞台に、そこに暮らす主婦がある青年を匿うことから政権の恐怖に追い詰められていくドラマ。

主演は「ナチュラル・ウーマン」などのアリン・クーペンヘイム。

今作は第35回東京国際映画祭のコンペ部門で上映されました。

チリの映画って正直言うと有名なパブロ・ラライン監督、またセバスティアン・レリオ監督くらいしか観たことがなかったもので、その方面の映画にも手を伸ばしたいということもあって映画祭で観てきました。

東京国際映画祭作品ページはこちら

作品の公式サイトはこちら

〜あらすじ〜

Chile-1976-Manuela-Martelli-movie

1976年のチリ。

アウグスト・ピノチェト政権による独裁が敷かれた時代。

カルメンは自宅の改装のために塗料を選びに店を訪れていたところ、店の外で警察隊が若い女性を強制連行していった。

独裁政権が反体制派を厳しく取り締まっているのだ。

カルメンは店を後にしてよく世話になっている司祭の元を訪ねると、ある若い男性の看護を頼まれた。

元看護師の彼女には難しい頼みではないものの、この男性の出自や名前も明かせないという。

彼は反体制派の一員で、警官に撃たれ教会に逃げ込んでいたのだ。

彼の看病を続けることが、カルメンに大きな影を落としていく。

感想/レビュー

Chile-1976-Manuela-Martelli-movie

チリ独裁政権の恐怖。というと、今作は実はそこまで怖いというわけではないような気もします。

不穏さはもちろんあるのですが、けっしてホラー映画ではないと思いますし、ポリティカルスリラーとしても弱いのかもしれません。

ただ全体の構成という点では個人的には各セクションへの役割フリとか、対比的な手法は割りと好きだった印象です。

見える綺麗な光景と恐ろしい音

色彩が結構明るい。

冒頭に示されているピンクカラーがすでに素敵な色なんですが、全体には明るいシーンが多いですし、カラーリングも色数も多かったりしますし。

どんよりと暗い映画ではないですね。

なので見た目は良い。

ふと見ているとルックとしては幸せそうに見えるということです。

ただ実際に見えないところに脅威、恐怖があるのですが、今作ではそれを同じく見えないものである”音楽”に託しています。

今作は音楽がとにかく重低音だったりスリラーテイストで一貫されています。

ある程度ほのぼとしたシーンでは回避されていることも多いですが、画面では明るい中でこの音楽が鳴り響く。

それは目の前にはなくとも確実に存在している恐怖を、確かに観客に感じさせる役割になっていました。

対比される画と音という構造自体が結構好みでしたね。

まあ先述の通り怖いかといえばそこまでではないので物足りない方もいるでしょうけれど。

Chile-1976-Manuela-Martelli-movie

安全圏を侵す恐怖

恐怖はOPの女性の叫びとなりカルメンにまとわりついてしまいます。

上映後のQAでも監督が言及していましたが、その叫びはあの部屋の塗料の中にも混ぜ込まれていると。

それを家の中に塗っていくということが、そのまま、カルメンの中でこの独裁政権の脅威が家の中にも及ぶことを象徴しているのだとか。

確かに彼女は、どこにいてもあまり安全を感じられなくなっています。

帰宅して部屋が暗いこと、お手伝いさんが寝ているところ、ふとした瞬間に恐怖する。

結局は何事もなくても、カルメンはそれを意識せずにいられない。

カルメンを囲む色合いがOPと呼応して終盤でケーキのクリームに重なる。その時はOPのピンクと違って血のように濃い赤に変わっていました。

女性の視点で独裁政権を見る

カルメンを主人公に添えていることで、女性の視点からこの時代を見ることができると思います。(ちなみに今作は監督、脚本、音楽、撮影、編集まで女性が担当し、そういう意味でも女性映画なのかもしれません)

反体制派でもなく、政治的な絡みもなく。そして決してマッチョに物事とぶつかっていくわけでもないですね。

普通の主婦として、夫の付き合いから孫たちとの冬の休暇を過ごす。

フィジカル的な弱さについても、子どもたちを持っているからこその不安も感じます。

政治って決して男たちだけのものではなく、その時代に生きていれば誰だって人生に影響がありますからね。

この作品、実は監督のおばあさんが亡くなった年を舞台にしているそうです。ピノチェト政権の独裁が最も強かったころ。

その時に亡くなった祖母は結構な鬱状態であったらしく、そうした背景から今作を作り上げたとか。

「私のせいで彼らは死んだ」

カルメンはもしかすると、恐怖から神父さんと青年のことを通報してしまったのかもしれません。

誰しもがまるで外国人のように思える不信の社会。それが一人の女性を追い詰めていった。

スリラー的な面が正直弱い感じは否めませんが、歴史をまた一つ別のレイヤーから切って見せていておもしろい作品でした。

今回の感想はこのくらいになります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ではまた。

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